THE COLLECTORS HISTORY COLUMN

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LIVE REPORT : 2017年3月1日@日本武道館

 客電が落ちると同時に、“青と黄色のピエロ”からストリングスとコーラスだけ抜き出した謎の音源が場内に響き渡り、スクリーンには映像が流れ始めた。「この曲は…?」と動揺する間もなく、初期からの写真をコラージュしたカラフルな映像と共に、過去の名曲のフレーズをちりばめたリミックス曲がノンストップで流れていく。バンドの歴史を視覚で追いながら、否が応でもテンションが上がる仕掛けだ。予想外の演出にシビれつつ、武道館公演に先駆けてLINE LIVEで放送された「加藤ひさしのコロムビア大行進」で、アイゴンこと會田茂一が寄せた応援コメントが脳裏をよぎっていた。彼が矢沢永吉の武道館公演を観にいった際に、駐車場で爆音で流れていたという永ちゃんのメガミックス……これはまさに、そのコレクターズ版じゃないか! それと同時に、ビートルズのリミックス・アルバム『“LOVE”』のことも思い浮かんだ。
 実はこのスペシャル・ミックス、プロデューサーとして長年バンドを支えてきた吉田仁が、この日のために用意したもの。初期までさかのぼって音源を選りすぐり、緻密に、かつダンサブルにまとめている。歴代メンバー全員のエッセンスがひとつにとけ合った、記念すべき場にふさわしい最高の「序曲」。武道館一夜限りで封印してしまわずに、是非何らかの形でリリースして欲しい。

2017年3月1日@日本武道館写真(1)

 時計の針が徐々に現在へと近付き、映像が2017年まで来たところで、ひと際歓声が大きくなった。そしてステージに現れる4つの影。ライヴハウスのステージ上で窮屈そうにひしめき合っていた彼らが、今日は適度な距離を置いて並んでいるのが見える。この日のMCで加藤ひさしが「ようやく身の丈にあった場所でライヴができる」と言っていたのはまったくその通りで、天井の高い武道館が思ったほど広く感じられない。そして1曲目の“愛ある世界”が始まるや、「サイズのちょうど良さ」がはっきりと実感できた。このバンドの楽曲が持つスケールや、演奏のダイナミズムは、やっぱりそもそも大会場向きだったのだ。それは加藤ひさしが散々主張してきたことだが、こうして「ザ・コレクターズ at 武道館」が現実になったことで、動かぬ証拠を見せつけられた感があった。

2017年3月1日@日本武道館写真(2)2017年3月1日@日本武道館写真(3)

 コレクターズが武道館で演るということ。それは、単に何年も苦労してここまでようやくたどり着きました、という苦労話だけの問題ではない。彼らの楽曲が、作者がイメージした通りのスケールで再現されること。本来あるべき姿で鳴らされること。30年もの長い間できずにいた本当の意味での「本領発揮」を、彼らはこの日ようやく、初めて実現することができたのだ。いかにも大会場サイズの大曲“青春ミラー”のような曲ばかりでなく、初期の“2065”や“僕は恐竜”も水を得たようだった。ここはピークポイントではなく、スタート地点……また何か新しいことが始まりそうな胸騒ぎを覚えながら、ステージを見守っていた。

2017年3月1日@日本武道館写真(4)2017年3月1日@日本武道館写真(5)

 何が素晴らしかったって、特別な演出はオープニングの映像と、“青春ミラー”のレーザー光線、そして終盤のテープ噴射ぐらいだったこと。あとはただただ、4ピースのロックンロール・バンドが肉体だけで正面から臨んでいた。スクリーンを使ったのもオープニングのみで、最近フェスなどでありがちなカメラワークに頼った見せ方は一切無し! その清々しいまでのストイックさも、実にコレクターズらしかった。緊張を感じさせる場面もなくはなかったが、基本的に「いつものコレクターズ」がありのままの姿で武道館にポンッと現れた感じ。自分たちの庭のような顔をして、のびのびと楽しげに演ってくれるから、こちらも「記念ライヴ」的な感慨とは別のところで、現役バンドとしての魅力を味わえた気がする。加藤ひさしの声は56歳とは信じられないほど超人的な伸びを何度も見せてくれたし、古市コータローのギターにも一切の遠慮がなかった。“たよれる男”で生き物のように躍動するギター・ソロ。古市の長距離マラカスぶん投げが絵になった白熱の“Dog Race”。演奏するごとに疾走感とシャープさが増してきた“ロマンチック・プラネット”。変な渋みを出さず、しかしこちらの予想をグイッと上回ってくる瞬間が何度もある。

2017年3月1日@日本武道館写真(6)

 皆さんご存知の通り、この日を迎えるまでの間、バンドは文字通り一回「白紙」に戻り、新しいドラマーを迎えてリズム・セクションをゼロから整え直すことになった。本番までの期間はわずか8ヵ月ちょっと。「どうして今このタイミングでメンバー・チェンジを?」という声は、実際スタッフ内からも出ていた。武道館公演のような大舞台を控えたバンドとしては自殺行為だが、それでも気持ちの上でわだかまりを残したまま前に進むことを、彼らは是としなかった。向かう先がたとえ茨の道でも、だ。

2017年3月1日@日本武道館写真(7)2017年3月1日@日本武道館写真(8)

 古くからのファンが集まる特別な舞台は、新たに加わった古沢“cozi”岳之にとって「試験」の場であり、並大抵でないプレッシャーとの闘いがあったはず。しかし本番では普段の野放図さや勢いを損なうことなく、山森“JEFF”正之のベースとしっかり噛み合って、最後まで見事に完走した。ステージから退場する際に深々と客席へおじぎするcoziに注がれた、温かい拍手が忘れられない。新しいコレクターズが本当の意味で始まった、記念すべき一夜だった。

2017年3月1日@日本武道館写真(9)

 不可能と思われていた武道館を2階のてっぺんまでほぼ埋めてみせた今の彼らは、この「ロックの聖地」をやがて「ホーム」にしてしまうかもしれない。素直にそう思えたことが、何よりの喜びだ。夢はかなうと信じ続けることのパワー……なんともクサい言い方になってしまうけど、この日武道館にいた誰もが、それをもう一回信じてみようという気持ちにさせられたんじゃないだろうか。こんな夢のない時代にロックンロール・ドリームを思い出させてくれるバンド、それがコレクターズ。音楽は今でもこうして、人々に力を与えてくれる。

荒野政寿(CROSSBEAT)
Photo By 柴田恵理

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