(「音楽と人」2016年11月号から続きます) ――では増子さんから、武道館の先輩としての心得をお聞かせいただけると。 増子 「俺が言えることなんかそうそうないよ。というか、今までピロウズ、俺ら、フラカンがやって来たけど、その中でもコレクターズが一番ドラマチックになってるじゃん(笑)」 古市 「なあ(笑)。ここに来て、急遽メンバー脱退、だからね」 増子 「予想外の展開ばっかりだよ! 仕込みかと思ったら、マジだってんだから。これは逆手に取ってくしかないよ。波乱万丈さを」 加藤 「Qちゃんの脱退が決まったその日にさ、組合の連中には伝えなきゃと思って、まず増子にメール打ったのよ。早かったもんね、返ってくるのが! 〈嘘でしょ! でも今以上に応援します!〉って(笑)。あとQちゃん抜けて最初のライヴが大阪城野音だったんだけど、フラカンもトモもはるもみんな、ステージ袖で、発表会の子どもを見守るような目で俺らのライヴを観ててさ(笑)」 増子 「みんな心配だったんだよ」 古市 「シンちゃんはベロベロだったけどね(笑)。NAOKIなんて袖から出ちゃってたから。髪の先がはみ出してた(笑)」 増子 「はははは!」 古市 「で、振り向くたびにみんながさ、こうやって……」 ――親指でOKサインを出してくれる、と。愛されてるなあ。 増子 「よく〈武道館バトン〉って言われてるけど、そうそう渡せるものじゃないから。自分の好きなバンドだからって、ハイ!って渡せるものじゃない」 ――あはははは。 増子 「でもさ、こうやって〈後に続け〉っていうのも、悪くないと思うんだよね」 加藤 「そう思うよ。こういう道もありなんだ、って見せたいじゃん。ピロウズや怒髪天やフラカンが見せてくれた中、俺たちは俺たちの道を見せていかなきゃいけない。そしてあとに続く連中が、すごいいろんな道があるんだ、ってことに気づいて欲しいんだよね。そうすればさ、仕事として音楽を諦めなくてもやっていける道があるってわかるじゃん」 増子 「ピロウズができた。俺らができた。フラカンができた。一つ二つだと、まあ言っても特別だから、って思えちゃうかもしれないけど、どんどん続いていくと、可能性っていっぱい広がって来る。これ、すごいロマンがあることだからね」 ――ですよね。 増子 「あと武道館やってみて思ったんだけど、自分のわがままで作ったバンドがさ、いい意味でも悪い意味でも、自分たちだけのものじゃなくなるんだよ。いろんな責任もあるし、期待されることもあるし、ある意味お客さんに借りを作ってしまったし。それも全部背負って、これからバンドをやっていかなきゃいけないのが、嬉しくもあり、面倒臭くもある(笑)」 加藤 「まあでも、そういうのはあるだろうね。ステップが上がれば上がるほどね」 増子 「こんなに責任を感じてバンドをやるようになるとは、バンドはじめた高校生の頃は思ってもいなかった。だから加藤さんとコータローさんにもね、こう言いたい。『本当、気をつけてくれよ』と」 古市 「何によ?(笑)」 増子 「もはや、この歳じゃゲスなこと(笑)は起こらないだろうけども、いろんな問題起こすなよ、と。でも武道館ライヴは、自分たちが続けてきた、いろんなことへの最大のご褒美だから。始まった瞬間にね〈うわあ……〉って思うから。俺も、あんなに泣くと思わなかったけど」 加藤 「あれは泣きすぎだろう(笑)。でも泣いてても、あんな唄えてたから、あれはやっぱり演技だろうってもっぱらのウワサだよ」 増子 「いやいや、何言ってんの!」 加藤 「だって俺、今まで感極まったことが何回かあったけど、そうなると歌はボロボロだったもん。でも増子は泣いて泣いて、でもケロッと唄い始める。もはやロック界の徳光和夫だよ」 古市 「あはははは」 加藤 「だから、いよいよ役者だなと。増子、このあと舞台やるんだろ?」 増子 「いや、そうだけど! あの日は俺、本当に頑張ったんだから!」 ――くくくくく。まあ、加藤さんもきっと泣くでしょうしね。 増子 「もう相当だろうね。あの、池ちゃん(註:レキシ)ですら『始まった瞬間、グッときた』って言ってたから(笑)」 加藤 「俺、感極まると唄えなくなっちゃうからさ。それが嫌なんだよ」 増子 「しかも不意に来るからね。メンバー見ると、やばいよ。〈うわー〉ってなっちゃう」 加藤 「だから良かったよ。俺、コータローさえ見なきゃいいんだから(笑)」 増子 「あははははは! でもホントみんな楽しみにしてるからね。あと次にバトン来るんじゃねえかって、手伸ばして待ってるやつも何人かいるし」 古市 「そいつらを失格させるわけにはいかないよね」 加藤 「途中ですっ転ぶわけにはいかないよ」 ――誰が手を出してるんでしょう、今のバンドの中だと。 増子 「スクービーあたり出してそうだね」 古市 「あとピーズね。あいつらにやってほしいな」 増子 「そうだね。あと武道館のグッズ楽しみにしてるから」 ――グッズ(笑)。 増子 「カレー皿?」 古市 「なんでもかんでも武道館って入れて(笑)」 増子 「コータローさんのカレー皿、最高だったもん。使いやすくてね」 古市 「あれ、サトウのごはん一人前がちょうど入るようにしてんだよ」 ――ちゃんと計算しつくされた皿なんですね。 増子 「カレー皿は、ぜひ作って欲しいね」 古市 「武道館バージョンね、ちょっと考えるわ」 |
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