予期せぬパンデミックはこの2年間でいろいろなものを奪っていった。社会からは数えきれないほどの機会を。人々からはかけがえのない親密さを。この喪失感を埋める術はまだない。「Tomorrow never knows」を作ったジョンは40歳で早々に逝ってしまい、今年80歳になるポールはパートナーを失った哀しみを今も「here today」で切々と歌う。今日きみがここにいて欲しい、いて欲しい、いて欲しい。誰もが何かを失い続ける。
このアルバムの主人公たちが眺める明日は決して明るいばかりではない。無邪気に明日を待てる日々はもうとっくに終わってしまった。それでも『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラはすべてを失いながらも再起を誓うラストシーンで“After all, tomorrow is another day!”(明日は明日の風が吹く)ときっぱり言い放つ。隠し持った再生の呪文。古市コータローは痛みをこらえながら「まぁしょうがないよね」と前を向く。その軽やかさは大抵の場合とても頼もしく、ほんの少し儚い。どんな明日であれ明日は絶対に必要なものだ。波打ちぎわで聴く風通しのいいブルースは、何度でもそう教えてくれる。
<収録曲> (LPには、【SIDE A】1~5、【SIDE B】6~10を収録)
1.Yesterday, Today&Tomorrow
2.笑いとばせ!
3.Fall in Love Again
4.傷だらけのテンダネス
5.北風
6.I'm A Dreamer
7.サワーの泡
8.雨の匂い
9.冬がはじまる
10.ウイスキー