[この一枚 No.90]〜本間正史/オーボエ四重奏曲集〜古典派時代のオーボエによる〜

この一枚

本間正史さんを偲んで

アリアーレ・シリーズの「本間正史/オーボエ四重奏曲集~古典派時代のオーボエによる」の解説書によると、本間は1947年生まれ。高校在学中にデューク・エリントン・バンドを聞き管楽器に憧れ、オーボエを学んだ。72年桐朋学園大学を卒業、東京都交響楽団に入団した。在学中よりバロック・オーボエの奏法とその複製の研究を独自に開始。76年文化庁在外研修員としてオランダのデン・ハーグ音楽院に留学。82年にブリュッヘン指揮の18世紀オーケストラのツアーに首席オーボエとして招かれた。78年「オトテール・アンサンブル」を結成。多くのCDをリリース。また、日本コロムビア=都響の共同制作CD『武満徹作品集II』の「ジェモー」ではオーボエ・ソロを担当。武満氏よりオーボエ協奏曲の作曲を約束されるが氏の死去により果たされなかった。(抜粋)

1979年4月に録音された《18世紀フランスの室内楽》、演奏:オトテール・アンサンブル:花岡和生(ブロックフレーテ、フラウト・トラヴェルソ)、有田正広(フラウト・トラヴェルソ。ブロックフレーテ、ピッコロ・フラウト・トラヴェルソ)、本間正史(バロック・オーボエ)、中野哲也(ヴィオラ・ダ・ガンバ)、本間千代子(チェンバロ)は日本人古楽演奏録音の大きなポイントと言えるだろう。 前述のとおり、78年に結成されたオトテール・アンサンブルは同時期にオランダ・ベルギーで学んだ花岡、本間、有田夫妻の4名を中心とする、まさにヨーロッパの最新の研究・演奏スタイルを日本に持ち帰ったグループだった。
同年秋に発売されたLPレコードはアルヒーフ・レーベル(ドイツグラモフォンの古楽レーベル)初の日本人演奏として大変話題となる。聞くところによれば、当時、音楽評論家の故佐々木節夫氏やポリドール社の担当者が編集済テープをドイツに送って演奏・録音の審査を受け、アルヒーフ・レーベルの責任者から「日本限定での発売許可」を得て、発売されたという。

以降、アルヒーフ・レーベルでの録音発売が続けられたが、1987年ドイツより「以降の録音販売不可」の連絡が届いた。
この素晴らしい演奏家達の録音をどうすれば続けられるか?模索する関係者から日本コロムビアに打診があった。当時、日本コロムビアはCD市場の急速な成長、国際的には「インバル/マーラー交響曲全集」、国内では「鮫島有美子/日本のうた」が大ヒットして国内外からレパートリーの拡大の声が寄せられていたし、クラシック音楽市場ではバロック音楽を中心に古楽器での演奏が急成長しており、日本コロムビアもその方面の演奏家を探しているところで、正しく「渡りに船」の話だった。

まもなくして佐々木氏の仲介で日本コロムビアの制作・営業・宣伝担当者と有田との会合が開かれた。新たな古楽シリーズの名称を「アリアーレ」として、記念すべき第1作は「バッハ/フルート・ソナタ全集(新作・贋作を含む)」、発売予定は89年秋と決まった。

当時の有田はブリュッヘン指揮の18世紀オーケストラの国内版である「東京バッハ・モーツァルト・オーケストラ」を89年4月に立ち上げる準備に追われ多忙な日々を過ごしていたが、その合間を掻い潜って録音スケジュールが組まれていった。また、2作目、3作目は89年12月にオランダで行うことも順次決まっていった。演奏家と市場の要望を吟味して、意思決定が社内で迅速にできることは演奏家との信頼関係に繋がっていった。
とはいっても、発足したばかりの東京バッハ・モーツァルト・オーケストラのセッション録音は経費が掛り過ぎるためにオーケストラの録音は先伸ばしにして、小編成のアンサンブルでレパートリーの拡充を図った。
暫くしてヴィヴァルディのフルート協奏曲集作品10の企画が持ち上がった時、有田は強く原典版での録音を希望した。一般に知られている版はフルートと弦楽合奏だが、原典版ならばさらにオーボエとファゴットも必要だ。
オーボエとファゴットには東京バッハ・モーツァルト・オーケストラと東京都交響楽団首席奏者の本間と堂阪が呼び寄せられた。

日本コロムビアと東京都交響楽団の共同制作シリーズは1980年、モーシェ・アツモン指揮東京都交響楽団のシベリウス/交響曲第2番の録音から始まったもので、都響側がオーケストラ経費を、日本コロムビア側が会場・録音費を負担する。レコード会社側はオーケストラ曲のレパートリーが増え、都響側は楽員の録音経験が増し、さらに都響のCDが店頭に並んで知名度が上がるというメリットがあった。同年秋にはジャン・フルネ指揮、翌年3月には再びアツモンと年2回のペースで進められていったが、その録音には都響の首席奏者として本間も堂阪も加わっていた。
90年代は若杉弘指揮により現代日本作曲家の録音が行われ、94年の武満徹の「ジェモー:オーボエ、トロンボーン、2つのオーケストラ、2人の指揮者のための」では本間はオーボエのソリストとして演奏している。その演奏への武満氏の絶賛は幻のオーボエ協奏曲の約束に繋がっている。

アリアーレ・シリーズでの本間のバロック・オーボエの演奏は90年の「フルート協奏曲作品10」に続いて92年に「木管楽器のための協奏曲集」、そして98年の「オーボエ四重奏曲集~古典派時代のオーボエによる」に結実する。
このアルバムで、特にモーツァルト/オーボエ四重奏曲の第3楽章で本間はバロック・オーボエのテクニックを危険なほどに発揮している。残念ながらこの録音には立ち会えなかったが、おそらくいつもニコニコして、大騒ぎしながら録音を進めていったに違いない。

オトテール・アンサンブルから東京バッハ・モーツァルト・オーケストラの管楽器のリーダーとして、またアリアーレ・シリーズの録音の中で、本間はいつも有田を支えていた。二人は桐朋学園時代からずっと盟友だった。
昨年の晩秋、神田のレコード店で有田とでバッタリ遭遇した。久しぶりの再会で積もる話の中で有田が「本間が危ない。2月まで持つかどうか。」と心配そうに呟いたが、残念ながらその予想は現実のものとなった。

昔、気のおけない仲間内での酒宴の席で本間と隣り合わせたとき、彼から散々面白い話を聞かせてもらった。大半は忘れてしまったが、1つだけ強く覚えている話がある。
「このあいだ、旨い赤ワインにサイコーに合わないおつまみを見つけた。なんだか解る?」、首を横に振ると「炙ったスルメ!ほんとに両方とも不味くなるから。試してみてよ」

残念ながらこれまで試す機会が無かったが、供養のために彼のオーボエ四重奏曲をバックに炙ったスルメと赤ワインを味わってみようか。

(久)


アルバム 2012年6月20日発売

ヴィヴァルディ:フルート協奏曲集(作品10)
録音:1990年8月14〜17日 中新田バッハ・ホール
COCO-73300 ¥1,143+税

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アルバム 2006年12月20日発売

ヴィヴァルディ:木管楽器のための協奏曲集
録音:1992年6月、府中の森芸術劇場ウィーンホール
COCO-70836 ¥1,000+税

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アルバム 2012年6月20日発売

武満徹:ジェモー/夢窓/精霊の庭
録音:1994年7月25〜29日、東京芸術劇場(池袋)
COCO-73292 ¥1,143+税

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