大傑作だった前作『Cheer』を経て、さらなる名盤誕生。18枚目のアルバム『TODAY』を一聴してそう感じるファンは多いはず。
なにしろ良曲揃いで、YO-KING、桜井秀俊ともにソングライティングが冴えわたっている。
世の中への危機意識の高まりを音と歌詞でストレートに表現した「一触即発」に始まり、開けたサウンドスケープが爽快な「白い紙飛行機」まで全10曲。
その間には、おなじみのミュージシャンたちとの息がピッタリ合った歌と演奏はもちろん、新たに交流を持った江﨑文武(WONK、millennium parade)、江沼郁弥とのコラボによる楽曲も収録。
江﨑とはピアノのみ、江沼とは打ち込みでYO-KINGが歌っているところも興味深い。
さらに、真心ブラザーズ30年以上の歴史で意外とこれまでほとんどなかった、2人の本格的なデュエットソングもあり。
聴きどころ満載な今作について、また今の時代に歌う“愛”について等、お2人にたっぷりと語ってもらった。
全体的に「元気な50代」な気がしますね(笑)(桜井秀俊)
――またしても名盤誕生、という気持ちで聴かせてもらいました。絶好調じゃないですか?
YO-KINGたしかに。正直、絶好調です!
桜井そうですね、うん。捻りだせば出るもんだなと(笑)。
――曲が降りてくる感じがあります?
桜井真心に限らず、フラワーカンパニーズの新譜もバンドの良い調子を感じるし、フライングでウルフルズの新しい作品も聴いたんですけど、それも素晴らしいし。全体的に「元気な50代」な気がしますね(笑)。世の中や世界が「なんだかなぁ」っていうときの方が、バンドは反対のエネルギーが出るものなのかなって。ぬるま湯状態よりも、バチンッとやりたくなる感じがあるのかなって思います。
――アルバム制作にあたってお2人でどんな話をしたんですか。
桜井作るにあたっては特に何も話さなかったんですけど、お互いに持ってる曲を出し合って、その中から「じゃあこの曲が力があるから録音していこうか」って決めて、なんとなく方向性が定まりつつあって。その中で、初期には採用しようと思っていた曲も「こうなるとちょっと違ってくるからもう1回考え直そう」みたいなことを繰り返しました。なので、だいぶいつもよりも向かう先がどんどん絞れて行ったんですよ。この感覚はなかなか無かったですね。前まではわりと、「出来上がったらこんな感じでした」って後からわかる感じが多かったんだけど。
――その向かう先が見えてくる中で、初めて曲作りを共にするミュージシャンとのレコーディングも出てきたわけですか?
YO-KINGそうですね。ご縁あって出会った人とやるっていう。
――以前、お話を伺ったときにYO-KINGさんが「無理して新しい人たちと出会おうとは思わない」とおっしゃっていたんですけども。
YO-KINGそんなこと言ってた?ブレてんなあ~(笑)。でもね、そういう部分はありますね。例えば飲食店で言えば、「行きつけの店を回って行けばいい」というフシもあるんですよ。どんどん新しくて美味しい店が出来ていても、そうじゃなくて今までの関係性があるお店に「今日は焼き鳥食べたいから久しぶりにあの店行ってみるか」みたいな。そういうのを順番にやっていくうちにときどき流れで新しい店も入って来る感じ。貪欲に新しい方、新しい方に行くっていうタイプではないんです。「看脚下」(かんきゃっか)って言うじゃないですか?まず足元を見てから、自分中心で広がって行くのが良いと思うんですよ。
桜井ああ~、自分も比較的それに近いかなあ。興味があるわけじゃないけど新しいことを見つけなきゃみたいなことはないですね。
――その新しいミュージシャンたちとの曲についても後ほど伺いますけど、真心ブラザーズの中での新しさという意味でいうと「Boy」がすごく印象的でした。こういう歌い分けってこれまで意外となかったですよね?
桜井いやあ、衝撃的でした(笑)。作詞作曲が僕で歌はYO-KINGさんに歌ってもらおうと思っていたんですけど、出だしのメロディで複雑なことをやっていたりして、僕が仮歌で録音したものを聴いてもらっている流れの中で、YO-KINGさんが「これは交互に歌うのが面白いんじゃないか」と提案してくれて。まったくそんなつもりはなかったんですけど。
――これだけ長く活動していて、今まであんまりそうならなかったというのが不思議なぐらいです。
桜井そうですね。まあ、キモいっちゃキモいんですけど(笑)。
――いや、別にキモくはないですよ(笑)。
YO-KINGえっ「キモかわいい」?
桜井ははははは!その発言がキモい(笑)。
YO-KINGわざわざ「キモかわいい」まで引き出すという。言ってもいないのに(笑)。
――キモかわいいと思って聴くようにします(笑)。実際どうしてデュエットしようと思ったんですか?
YO-KINGやっぱり桜井曲だったから、俺がややプロデューサー的な目線で見れたというのもあったかもしれない。曲を作った当事者だと、そこまでの提案ってしにくいかもしれないね。
桜井思いつきもしなかったもんね。以前、PUFFYのトリビュートアルバムで「これが私の生きる道」のカバーをPUFFYのようにユニゾンで歌ったという遊びはあったけど、それはPUFFYの企画っていう前提があったから。
――あと、「サティスファクション」でパートごとに歌い分けているのもありましたね。
YO-KINGああ~、たしかに。
桜井「サティスファクション」はパーツパーツをお互いが作っていてそこを歌っているというのもあるんですよ(※桜井作詞・作曲としては松たか子が参加した「生きる」(『Keep on traveling』収録)も歌い分けている)。「Boy」は、サビをハモったりしたらメロディが豊かになったので結果オーライでした。
YO-KINGそういうことをやるのも、「芸人」としてはもうそんなに気にしていないよってことなんですよ。
――芸人という意識があるんですか?
YO-KING僕は自分のことを、ミュージシャンもしくは「音楽芸人」と言っているので。芸人だからもう、直の感動でも面白いでもどっちでも「ウケりゃいいな」と思ってます。照れもあるけど、ウケる方がプライオリティが上だから、そこは頑張れるかなっていう感じ。恥ずかしいは恥ずかしいですよ?キモいっちゃキモいし。
桜井かわいいっちゃかわいいし。
YO-KING&桜井ははははは!(爆笑)。
自分に向けたメッセージの部分もある(YO-KING)
――この2人の中での新鮮な曲がありつつ、「雨」では初めて参加する江﨑文武さんのピアノでYO-KINGさんが歌っています。
YO-KINGこれは2人だけでスタジオで一発録りしました。文武君との出会いは、ある人を介してごはんを食べたことなんだけど、アルバムを進めて行くうちに「雨」は鍵盤弾き語りがいいかもねっていう流れで、文武君が浮かんだのでお願いしました。
――同じく初めてコラボする江沼郁弥さんは「LOVE IS FREE」にアレンジとコーラスで参加していますが、この曲もYO-KINGさんと2人だけで作っているのでしょうか?
YO-KINGこれは弾き語りを江沼君に丸投げして、オケを自由に作ってくださいってお願いして、「ここだけこうするのはどう?」っていう感じのやり取りを2、3回して終わり。江沼君もプライベートで繋がりがあって。「友達の友達はみな友達だ」みたいな(笑)。
――〈愛あれば 夢なんてほっといても叶うよ〉とは、思い切ったことを言いますね。
YO-KINGそうね、そこも芸人だと思うから言えるのかな。ときどき強く言った方がウケる言葉ってあると思うし。正直、100%そうは思ってないですよ?でもそう言い切っちゃった方が面白いというか。
――言い切ることで、自分がそういう人間になっていくみたいなことってあるんですか?
YO-KINGそれはあると思います。自分に向けたメッセージの部分もあるから、それによって、よりYO-KINGというものを創り上げてきたのかもしれない。俺が俺の人生を楽しくするために、自分の音楽を使ってYO-KINGというキャラを創ってきたんだろうね。
――もはや(本名の)倉持陽一ではない?
YO-KINGいや、そこはじつは近いですよ。ただ倉持陽一というのは封印しちゃってるから言わないだけであって。だから日常でもYO-KINGというペルソナで生きちゃった方が楽なときがあるもんね。どこまで演じているのか、どこまでが本質なのかがもう自分ではわからないっていう(笑)。
桜井僕はそこまで芸人になり切れてないというか。思ってないけどこう言っちゃった方が面白いから書こう、みたいなことはなかなかできなくて。
YO-KINGたしかに、桜井の方がちょっとアーティスト気質が強いかもね。
桜井アーティスト気質っていうとなんかカッコいいけど。曲を書きながら「違うな、違うな」って言いながらやっていてストンって落ちたみたいに1曲ができたときに、「あ、俺はこういうことを考えてたんだ」って、ロマンティストも甚だしいなって恥ずかしくなることの連続なんですけどね(笑)。
自由と愛は増していかないと、よくないよね(YO-KING)
――「白い紙飛行機」はすごく開けた感じの曲で、ロマンティックにも聴こえます。
桜井この曲は、テレビ番組の曲としてのオファーがあったので(テレビ東京「種から植えるTV」テーマソング)、高くて広い晴れた空みたいな抜けの良い景色は舞台としてあって。でもそれだけだと薄っぺらくなっちゃうから、今の生きてて窮屈な感じを逆に入れるチャンスかなと思って。それで、〈ねえ なぜ初めて来たこの草原が どこか 懐かしいの〉って、最初のメロディの音程がどんどん、ものすごく下がって行くんですけど、そこからだんだん暗い言葉に持って行くことで、天と地を上手く表現できたんじゃないかと思います。
YO-KINGこの曲は最初ちょっとむずかしかったけど、すごく人前で歌ってきたから、もう慣れましたね。
――「白い紙飛行機」が先行配信曲だったので、この曲を聴いてアルバムをイメージしていたら、1曲目の「一触即発」がゴリゴリのロックチューンだったので良い意味で裏切られました。〈世界が明日もまだ 続くとは限らないぜ〉というパンチラインが強烈ですが、マイペースでやっているようでいて世の中の空気感を曲に反映するのが真心ブラザーズですよね。
YO-KINGそうなんですよ。やっぱり外に出ないと気が済まないというか、あんまりじっとしていられないんですよね。外に出るイコール、どこか空気感って肌で感じるところがあるんです。
――今年の3月に両国国技館で行われた「ギタージャンボリー2022」を観に行ったときに、「人間はもう終わりだ!」を歌ったことがすごく心に刺さりました。あのタイミングで〈平和なんか一人のバカがぶっこわす〉っていうフレーズを聴いたときに、「ああ、真心ブラザーズは昔から常にこうやって世の中のことを歌ってきたんだよな」と思ったんですよ。
桜井ちょうど戦争が始まった直後ぐらいでしたからね。あの曲を発表したのは、9.11(2001年のアメリカ同時多発テロ事件)のときなんですけど。
――「一触即発」は〈君を抱きたいよ〉と歌ってますけど、種の保存を本能で意識するぐらい今の世の中に危機感があるのかなと思いました。
YO-KINGなるほどね!遺伝子を残す的な?すごく良いね。そういうことですよ。やっぱり作品って自分を超えたものが名作になるから。俺はそこまで考えてないからね。だけど、そこまで考えられるような想像力を作品で働かせるってすごいことだからね。絵とかもそうじゃない?絶対作者が思った以上のことを想像しちゃうというか。
桜井ちなみにこの曲の〈弓張月〉という歌詞は、弓がピーンと張った状態を確信犯的に書いているんでしょ?
YO-KINGああ、それはそうかな。
桜井しかも見方を変えると、不穏な笑みを浮かべているようにも見えるっていう。天才作詞家ですよ。
YO-KINGそうなんですよ。
桜井ははははは(笑)。
YO-KING何かが降りて来ちゃったとしか思えない。「弓張月」っていう別の曲があって、その言葉は使いたいなと思っていたんですよ。最初は三日月かと思っていたんだけど、調べたら半円で、満月と新月の中間で弓を張っている状態になっていて。それぐらいの認識で書き始めたんだけど、それでこんなに想像ができるというのは面白いよね。
――この曲は、2本のギターのイントロの絡みから始まりますが、どんなイメージでアレンジしましたか?
桜井もろにローリング・ストーンズです(笑)。ただ、ベースが鹿島(達也)さん、ドラムがサンコンJr.(ウルフルズ)の力量もあってできたんですよ。20代の頃にこれをやったら、イタいストーンズごっこになってたと思うんですけど、それがまたイイ感じにできて。小手先でストーンズを真似しているんじゃなくて、ストーンズの不良性みたいなものを自分たちのプレイで表現するというところまで落とし込んでの、この“悪さ”ですよ。
――エッヂが利いた内容の曲だけに、そういうサウンドが浮かんできたということですか。
桜井そうですね。作曲者のYO-KINGさんの弾き語りを聴いた時点で、これはそういうことだなって思いました。最初の「ジャッジャー」っていうリフはYO-KINGさんが弾いているんですけど、その2小節で、全員がそこに乗っかろうという演奏になったので。リズム録りの現場は盛り上がりましたね。
――「ブレブレ」も鹿島さん、サンコンJr.さんのリズム隊ですね。
桜井そうそう。ロックンロールのレコーディングが盛り上がる様というか、もう2、3曲やりたいぐらい楽しい時間でした。
――世の中でネガティブと思われている事柄をポジティブ変換するのが真骨頂だと思いますが、〈ブレる覚悟はずっとブレてない〉というちょっと屁理屈にも聴こえるのですが。
YO-KINGはははは、たしかにね。その時点で矛盾してるしね。
――ただ、〈考えがコロコロ変わる〉というのは「愛」(『KING OF ROCK』)でも歌ってますし、その点ではブレてないですね。
YO-KINGそう、「本歌取り」っていうのかな?そういうシャレは入れました。「その頃からそうだよ」っていう気持ちもあるし。それと、ブレないと生きづらい時代だと思いますよ。
そのときそのときで出てくるもの、例えば小難しく言うとWeb1.0からWeb3.0まで体験できる世代じゃない?ネットが出てきた1.0、SNSが出来た2.0、メタバースの3.0もこれから楽しみだし。好き嫌いじゃなくて、ゴルフができたりスキーができたり麻雀ができたりとか、楽しみの選択肢があった方が絶対豊かになるよね。そこで「メタバース、わかんねえよ」って言っちゃうと、豊かさを1つ放棄しちゃってるんじゃないかなって。「知らないからちょっと調べてみよう」っていう態度じゃないと、生きにくい時代になっちゃったから。そういう意味でブレた方が良いし、しなやかでいないとね。
――“真心ブラザーズはこうじゃなきゃいけない”みたいなことも、特にないですか?
桜井それはもともとないですね(笑)。
――このアルバムを聴くと、ますます自由度は増している気がします。
YO-KING自由と愛は増していかないと、よくないよね。
――“愛”と言うことに関しては、本当に色んな曲で歌ってきましたけど、それは今作で歌われている“愛”とはあまり変わってないですか?
YO-KINGいや、変わりましたよ。90年代に使っていた“愛”と、2022年の僕が使っている“愛”は、内容がまったく変わってきていると思います。(99年の「COSMOS」等)あの頃はやっぱり照れがありますよね。本当に思っていたことではあるけど、わざと大袈裟に表現しなきゃいけないぐらい恥ずかしかったというか。よりユーモアの量を大きくしないと成り立たせることができなかったんだけど、今は“愛”に変に含みを持たせずに、素直にそのままの意味で使えるようになったので、そこは違うと思いますね。
こういう良い感じのアルバムができるときって、ちゃんと流れがあるんですよ(桜井秀俊)
――90年代から30年以上経っても、真心にはまったく枯れたところを感じないのですが、「群衆」はウッドベース、ブラシを使ったムードのある曲でシブいですね。
桜井「シブく行くぜ!」っていう意識は全然なくて、音数を少なくした方が良いよねっていうぐらいの感じですけどね。これは去年の梅雨時に、雨ばっかり降るし疫病の出口も見えないし、みんな色んなことを言うし、「大衆ってなあ」って思っていて(笑)。でも俺もその1人だなあみたいな。雨の日って、雨に太陽光線が乱反射して影ができない。真っ暗というわけでもないし、光はあるのに影がない落ち着かない気分だったから、「これは曲を書くチャンスだ」と思って書きました。自分はストレスがあるときの方が、それを形にして確認しないとっていう気持ちになるんです。この曲は最初「雨だれ」というタイトルだったんです。「雨」という曲があるから変更して「群衆」になったんだけど、こっちの方が言いたかったことに近くなれたので良かったですね。こういう良い感じのアルバムができるときって、ちゃんと流れがあるんですよ。「雨」があったから元のタイトルより良いタイトルが浮かぶことができたみたいなことが色々点在して、1つのものになっていくんだなっていうのが実感としてあります。
YO-KINGこれはジャズシンガーみたいに歌おうと思いました。俺って、歌に関してはみなさんが思う以上に器用で、じつはいろんな技が使えるんですよ。ここ10年ぐらいで色々試したんだよね。そんなに計算せずにボーカルブースに入って、オケが流れてきたときに迷わないで、いくつかの声出しのうちのどれかを選ぶというやり方です。
――「破壊」はタイトルとは裏腹に、メロディも歌い回しも優しいですよね。
YO-KINGこれもやっぱり、基本的には愛の歌なんで、愛を伝えるように優しく歌いました。喋るように歌うっていうところを強めに出したかもしれない。この曲は少なくとも反戦歌ではなくてラブソングの中にちょっと怖い風景があるっていう、表裏一体の曲ですね。
――〈テレビの中では 街が破壊されてる〉というのは、テレビの向こう側に違う国のひどい日常があるという今の状況がそのまま描かれていますね。
YO-KING〈手のひらの中では 駅が破壊されてる〉っていう二番の歌詞は、スマホのことを歌ってるんですよ。一番はテレビで、二番はスマホ。自分で言うのも野暮だけど(笑)。
――ああ、なるほど!
桜井そこは大事なとこですよ(笑)。〈テレビの中〉っていうのは70年代からあるけど、いまや〈手のひらの中〉でさえこんなことが起こっているという。「未来は僕等の手の中」(THE BLUE HEARTS)という歌もありますけど。
YO-KING「全部大仏の手のひらの中」とか思ってくれる人もいるかな?面白いよね、言葉って。
――「うたたね」は、ギターリフと淡々としたリズムがかなり耳に残ります。これはどうやってできた曲ですか。
桜井この曲は、じつはアルバムの中で一番古くて2018年ぐらいからある曲で、毎回アルバムに提出しているんですが、ことごとくボツを喰らってきた曲なんです(笑)。何かそのときの流れじゃなかったからだと思うんですけど、今回は最初の曲出しのときから評判が良かったので、生き残りました。きっと時期が来たということなんでしょう。前はもうちょっとぼんやりしていて、サウンドイメージとメロディと詞がそんなにあってなかったんでしょうね。今回はなるべくシンプルに8ビートで、コードも基本2つだけで間奏もないし、どこにも着地しない浮遊感と淡々と続くリズムにしました。
――その淡々とした感じと浮遊感がちょっと怖さを感じました。永遠に続いて行きそうで。
桜井ああ、そうですね。ずっと続いていくような、10秒ぐらいうたたねしただけのような感じというか。
YO-KING桜井曲に関しては、「サマーヌード」とかもそうだったけど、よくわかるまでにちょっと時間がかかるんですよ。やっぱり、自分はシンガーソングライターだからね。人の曲を歌うときには歌手だからさ、歌うときにはブースに入ってパッと集中して歌うだけなんですよ。「うたたね」はまだ歌ってから2ヶ月ぐらいで、気の利いたことが言えるほどまだわからない感じかな。人の曲というは、ライブで歌ったり時間が経てば経つほどわかることはあります。
――『TODAY』はお2人にとってどんなアルバムになりましたか?
YO-KING『Cheer』から『TODAY』までの期間に感じたことが、ちゃんと出た良いアルバムだなって思います。ちょっと重い世の中を軽くするというか。厚い雲を抜けて青空が見れるところまで行って、そこでフーってひと息つけるアルバムになったと思います。
桜井曲を並べてマスタリングしたときに、「一触即発」でビシッと斬り込んで、最後の「白い紙飛行機」で短編映画のエンドロールを観ているような爽快感があって。テレビ番組のために抜けの良い感じを一生懸命作ったんだけど、その明るさがこのアルバムの10曲目にあるとすごく救いになっていて、こちらの意図しないところでハマった感じがありました。決してド派手なアルバムではないけど、みなさんの今の暮らしの中で鳴ってくれたら嬉しいなって思います。
――最後に、今の真心ブラザーズにとって音楽を作るモチベーションってどんなことですか?
YO-KING大きく言えば、「遊び」です。自分を楽しませるためにやっていて、その次に人の心を軽くさせるためにやるっていう遊びをしているのかなと思う。「愛と自由」を持ってやる遊びです。
桜井ひとことで言うと、「好きだからやってる」ということだけです。自分で音を出すことも、その音を通して仲間とコミュニケーションを取って1つの音楽を作るのも、それを聴いてくださるみなさんとその場の温度が上がる感覚は、いつまで経っても楽しいんですよ。鮎川誠さんが、「バンドより楽しいことを知らんのよ」みたいなことをおっしゃっていたり、この先もワクワク楽しいぞっていうことを証明してくれている先輩方もたくさんいるので、私なんかまだまだ(笑)。先の見えない遊びなんだろうなって思うし、それをひとことで言うと、「好きだからやってる」。それに尽きますね。
(取材・文:岡本貴之)