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連載内容

オペラをこよなく愛する吉田光司さんがお送りするオペラ・ニュース月報。国内外の歌劇場の様々な話題、ニュースを活きのいいうちにご紹介。5分で世界のオペラ界が垣間見える、月1回更新の速報型ウェブ連載!
※煩雑になるので伝聞調を採っていませんが、基本的に実際に公演を観た人から得た情報を基に書いています。

プロフィール

吉田光司

早稲田大学法学部、および国立音楽大学声楽科卒。音楽関係の会社に勤務後、現在はフリーで活動中。オペラDVDの日本語字幕翻訳・制作、ノーツ執筆両方を手掛ける職人であり、また稀にNHK-FMのクラシック番組で案内役も務める。大のオペラ好きで、オペラと名のつくものは何でも聴くが、特にお気に入りはヘンデルとロッシーニ。イタリア、ペーザロで開催される「ロッシーニ・オペラ・フェスティバル」には十年来通い詰める常連である。オペラ公演は「自腹で聞くのが当然」の主義。和食の魚、ことに寿司と干物が好物。猫をこよなく愛する。

日本コロムビア

オペラ・コラム道場

オペラ・ニュース月報:マンスリー“オペラ”レポート/吉田光司

第5回 ヘンデルづくしのボーヌ音楽祭 ほか

 2013年のバイロイト《指環》

2013 年はリヒャルト・ワーグナーの生誕200年記念年である。この年バイロイト音楽祭では《ニーベルングの指環》が新制作される予定で、その指揮者、演出家が誰になるかが話題になっている。指揮者として下馬評が高いのがキリル・ペトレンコだ。1972年、ロシア南部のオムスク生まれ。ウィーンで学び、主としてドイツ語圏の歌劇場で活動している。2002-07年にベルリン・コーミシェ・オパーの音楽総監督を務めて高い評判を得ているのが候補になった理由だろう。彼はこの7月末、バイロイトでの《指環》の総練習に顔を出していたそうだ。ただし本人はこの件について、まだ確定しているわけでないので、メディアの報道を深読みしないよう求めているという。
 キリル・ペトレンコは、まだ日本での知名度は低く、録音も僅か。むしろ同姓、同郷、同年代のヴァシリー・ペトレンコ(1976年、ザンクトペテルブルグ生まれ。現在英国のロイヤル・リヴァプール・フィルの首席指揮者)の方が知られているくらいだろう。バイロイト音楽祭はこれまでも指揮者に関して意外な抜擢をして成功を収めた実績がある(もっとも、失敗して1年限りという例も少なくないが)。キリルの期用がどう出るのか、4年後が楽しみだ。

 バイロイト音楽祭2009

そのバイロイト音楽祭は、7月25日に開幕。今年は新制作上演はなし。
開幕公演の《トリスタンとイゾルデ》は、演出のクリストフ・マルターラー、指揮者のペーター・シュナイダーはもちろん、歌手も2008年とほぼ同じ。カーテンコールでは指揮者のシュナイダーにブーが飛んだそうだ。
しかし最も盛大なブーを喰らったのは、実は2日目、26日の《ニュルンベルクのマイスタージンガー》でのカタリーナ・ワーグナー。もう3年目の演出だと言うのに、演出家に盛大なブーが飛ぶのは珍しい。ザックス役がフランツ・ハヴラータからアラン・タイトゥス(2公演のみロベルト・ホル)に代わったのが大きな変化だったそうだ。

 ジョイス・ディドナート 舞台で骨折

ロンドンのコヴェント・ガーデン王立歌劇場で7月4日からロッシーニ《セヴィリアの理髪師》が上演された。アルマヴィーヴァにファン・ディエゴ・フローレス(とコリン・リー)、ロジーナにジョイス・ディドナート、フィガロにピエトロ・スパニョーリ、バルトロにはアレッサンドロ・コルベッリと、非常に豪華なキャストだ。
 ところがこの初日に事故が起きてしまった。第1幕のアリア〈今しがた 心の中で 声が響いたわ〉を歌った直後、彼女は足を滑らせて、右足首を骨折してしまったのだ。しかし彼女は降板せず、残りの場面を杖をつきながら歌った。偶然にも第 2幕でロジーナが登場する時に歌うのは「足を怪我したの E un granchio al piede(直訳だと「足を攣った」という感じ)」というものだった。歩くのはままならなかったものの、歌は怪我の痛みを感じさせることのない素晴らしいものだったという。
 ディドナートは、残りの公演では車椅子も使いながら出演を続けた。もちろん、彼女の素晴らしいロジーナは大喝采を浴びた。彼女のブログ Yankeediva には、車椅子から右脚を高々と上げているディドナートの写真がたくさん見られる。
 7月27日、ディドナートは予定通りエクサン・プロヴァンス音楽祭の演奏会に出演。ここでも椅子に乗りながら、クリストフ・ルセの指揮するレ・タラン・リリクの伴奏でヘンデルのアリアを歌い、最後は観客総立ちの大熱狂を巻き起こしたそうだ。
ディドナートのブログ

 ヘンデルづくしのボーヌ音楽祭

フランスの夏の代表的音楽祭といえばエクサン・プロヴァンス音楽祭。でもブルゴーニュ地方のボーヌ音楽祭も意欲的な内容で興味深い。バロック音楽が中心の音楽祭なので、ヘンデル・イヤーの2009年は、演奏会形式とはいえ、5演目中4つまでがヘンデルのオペラ、しかもそのうち3つは人気オペラという驚きのラインナップである。
《アリオダンテ》は、フェデリーコ・マリア・サルデッリ指揮モード・アンティクォ。アリオダンテにアン・ハレンベリ、ジネーヴラにカリーナ・ゴーヴァンと、旬のヘンデル歌手が揃った。 《ジュリオ・チェーザレ》は、スペインを代表する古楽団体、エドゥアルド・ロペス・バンソ指揮アル・アイレ・エスパニョル。近年チェーザレ役を得意とするローレンス・ザゾと、クレオパトラ役がノルウェイの若いソプラノ、マリタ・ソルベリ。
そして《リナルド》は、オッターヴィオ・ダントーネ指揮アッカデミア・ビザンティナ。アルミレーナ役に、最近ムーティがオペラに抜擢したことで知られるマリア・グラツィア・スキアーヴォが加わっている。この《リナルド》、配役表でもエウスターツィオが欠けており、1714年もしくは1717年の再演の楽譜に準拠しているようだ。
ボーヌ音楽祭のサイト

 来シーズンの王立モネ劇場

ベルギーの王立モネ劇場の来シーズンの演目を見て驚いた。9月に上演されるヘンデル《セメレ》。クリストフ・ルセ指揮レ・タラン・リリクの演奏なのだが、演出家、スタッフ、歌手の多くは中国人。なんでも中国国家大劇院(National Center of Performing Arts、略称NCPA)との共同製作なんだそうな。こういう取り組みは今後も続くのだろうか。
2010年5月には、マルク・ミンコフスキ指揮、ロラン・ペリ演出の名コンビでマスネ《ドン・キショット》が上演される。ジョセ・ヴァン・ダムがドン・キショット役とのことで、これは人気公演となることだろう。
王立モネ劇場の2009-10年のプログラム

第5回・了

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