天より堕ちてきた酔いどれ天使の
圧倒的リアルと研ぎ澄まされたリアリティ
破天荒な日常から溢れる想いや感情を文学的かつロマンチックな表現で描いた歌詞とメロディ、それを丁寧に汲み取った荒々しくも繊細なバンドサウンド。「PK shampooの曲って、既存のやり方やフォーマットをよく理解した上でぶっ壊してるよね」と、僕は初めて取材した時にヤマトパンクスに話したが。それはテンプレ通りに作られた世に溢れる退屈な音楽とは一線を画す、大きく枠をはみ出した強烈なオリジナリティをPK shampooの音楽に感じたからだ。そして、そういう型破りな音楽を“ロック”と呼ぶと僕は聞いてる。
PK shampooのメジャー2nd EP「輝くもの天より堕ち」が完成した。彼らの最新型をギュッと拳を握りしめて興奮しながら聴いて、「はぁ」とひと息ついて。僕が思った率直な感想は、「普段、ヤマトがどんなにはちゃめちゃでも、結果、こんなスゲェ作品作っちゃうから許されちゃうんだよな」ということだった。すごく良かった。
1曲目「天使になるかもしれない」はアグレッシブなバンドサウンドと、虚実入り混ぜた独自の世界観で魅了するファストチューン。 「以前は「神崎川」みたいな地名や宇宙や星みたいなのと、君と僕みたいな。“空間と僕と君”って2次元だったところに、最近は宗教というか自我というか、口幅ったいけど祈りみたいな別軸が加わって3次元になってきて。それをもっと抽象化出来るし、具現化出来ると思って書いたのが「天使になるかもしれない」でした」(ヤマト)
破天荒な日常を切り抜いた風景があやふやな中で空想へスライドすると、高揚感あるサウンドに乗せて繰り返されるのは、仄かな希望や願望を感じさせる<天使になるかもしれない>のフレーズ。 「もう、<天使になるかもしれない>って、叫べるだけ連呼してやろうと思って。たとえばお経って、同じ内容を毎日何回も反復しながら唱えたりするじゃないですか? なにか参考にしたとすれば、自分の中にある宗教観というか……。あえて喩えるなら、神や仏のような神聖と厳粛ポップな形でバンドサウンドに落とし込んだ感じです」(ヤマト)
これまで漠然と描いてた3次元的表現を意識的に掘り下げ、形にしたこの曲。演奏に関しては、メンバーに意外な注文を出していた。 「ギターは「クソガキ感を出して」と言われて。半ダサじゃないけど、荒っぽい感じやけど真っ直ぐな泥臭い感じを投げたんですけど、話を聞くとそこでバランスを取ってたんでしょうね」(カイト) 「ドラムも「ドタバタ感を出してくれ」っていうことで、プレイ的にスキルがある方ではないんですが。自分が持ってる部分とマッチして、叩き終わって達成感もありました」(カズキ)
“クソガキ感”の意図について、「アメリカのガキが風船ガム噛みながら♪ジャーンって適当に弾いてるだけやのに、めっちゃ天才に見えるみたいなことがやりたかった」と話したヤマト。純真無垢な悪ガキが、なんの欲や狙いもなく鳴らすギター。きっとそこにも天使が奏でる音色のような、彼の思う神聖さを想像したのだろう。
持ち前のロマンチストっぷりをいかんなく発揮したミディアムチューン「夏に思い出すことのすべて」、結成初期から演奏する人気曲を再録した「翼もください」。そして初の試みとなる楽器隊主導によるコード進行やアレンジで制作に挑んだ「ひとつの曲ができるまで」の4曲が収録された今作。楽曲ごとにアプローチは異なれど、4曲に共通しているのは、圧倒的リアルと研ぎ澄まされたリアリティ。
ヤマトのはちゃめちゃな日常や頭ん中、そして現在のバンドのモチベーションの高さがよく見えるリアルと、それを楽曲に落とし込んで生まれるリアリティ。虚実入り交じった「天使になるかもしれない」や、楽曲が出来る過程さえも曲にしてしまった「ひとつの曲ができるまで」からも分かるように、リアルが充実するほどにリアリティは研ぎ澄まされていき、聴くものの心を深く深く突き刺す。
PK shampooの前身バンドからヤマトと行動を共にして、ヒドい目にもたくさん遭ってるはずなのに、「僕がやめなかったのは、「やっぱりいい曲作るし、才能あるから一緒にやりたい」って気持ちがあったからだし。その気持ちはいまも変わってない」と語るにしけん。そんなメンバーの深い理解やスキルの向上もあって、作品ごとにその才能に磨きがかかってる感のあるヤマト。<⼗五時から脳に突き刺すシンセサイザー>と、早い時間から脳に酒を突き刺す酔いどれ天使は、今日も日々起きたことや感じたことを洗練された言葉やメロディに落とし込む。……で結果、スゲェ曲を作り上げてしまうから期待しちゃうし、許されてしまうのだから、困ったもんだ。
Interviewer:フジジュン(FUJIJUN WORKS)