人間国宝である尺八演奏家山本邦山(1937〜2014)と箏曲家、作曲家の沢井忠夫(1937〜1997)は、ジャンルをこえ「現代邦楽」の旗手として、数々の名演を残した。
本作収録の「春の海」は、新日本音楽を代表する箏と尺八の曲。
1992年5月9日、熊本八千代座にて行なわれた“山本邦山 八千代座 鮮セイションライブ HOGAKU JAZZ「第一部 邦楽演奏会 山本邦山(尺八)VS沢井忠夫(箏、十七弦)」”におけるライブ録音。
沢井忠夫は、山本邦山と共に、ジャンルを超え「現代邦楽の旗手」として演奏だけでなく作曲にも新たな手法を描き出した。それぞれ“天才”と謳われたふたりによる記録にのこる趣あふれるライブ競演である。
本公演の名は、
「八千代座年表」にも記載されている。
山本邦山 八千代座 鮮セイションライブ HOGAKU JAZZ
<演目>
第一部 邦楽演奏会
山本邦山(尺八)VS沢井忠夫(箏、十七弦)
1.尺八・箏二重奏 みだれ (八橋検校 作曲)
2.尺八・箏二重奏 春の海 (宮城道雄 作曲)
3.箏独奏 翼にのって (沢井忠夫 作曲)
4.尺八・箏即興演奏 伽藍 (山本邦山 作曲)
第二部 尺八+佐藤允彦トリオ
トリオ・セッション
1.Take Five (デーヴ・ブルーベック 作曲)
2.Misty (エロール・ガーナー 作曲)
3.It might as well be Spring(まるで春の様) (オスカー・ハマーシュタイン 作曲)
4.East Bound (佐藤允彦 作曲)
5.Impression of Hikone (佐藤允彦 作曲)
6.Silky Adventure (佐藤允彦 作曲)
◆熊本八千代座
熊本県山鹿市にある芝居小屋。1910年(明治43年)に建設された。1988年(昭和63年)に国の重要文化財に指定され、2001年(平成13年)に復原・大修復が完了した。
◆山本邦山
尺八演奏家、作曲家。元東京芸術大学教授。人間国宝。
都山流尺八の第一人者。本名山本泰正。幼少より父初世山本邦山に学び、のち中西蝶山に学ぶ。1958年京都外語大学英文科卒業。62年正派音楽院楽理科卒業。2002年に都山流尺八の重要無形文化財保持者(人間国宝)の認定を受ける。
若い時からその才能が認められ、映画(「悪魔が来りて笛を吹く」等)、テレビドラマ、演劇の音楽を担当したほか、海外での演奏もアメリカ、イギリス、ドイツ、オーストリア、フランス、オランダ、タイ、韓国と世界におよび、国内では1964年に青木鈴慕、横山勝也と「尺八三本会」を結成して現代邦楽での尺八の存在を確立した。またジャズとの共演、オーケストラとの共演など、活動の巾の広さは彼に及ぶ演奏家はいない。もちろん作曲活動も盛んで佳作が多くあり、また文化庁芸術祭での受賞、芸術選奨文部大臣賞をはじめ各種の受賞はかぞえきれないほどである。一方で後進の育成にも熱心で、「尺八一九七九」を立ち上げ、また2004年まで東京芸術大学教授をつとめた。2014年76歳で他界。著書に『尺八演奏論』があり、息子山本真山は二代目山本邦山として活躍中。
◆沢井忠夫
箏曲家、作曲家。沢井箏曲院の創始者。
小学生の頃から古典箏曲をおさめ、東京藝術大学邦楽科で宮城道雄に師事。また作曲を清水脩らに学んだ。
同大専攻科を卒業して演奏家となると、山本邦山ら尺八奏者と「民族音楽の会」を結成する一方、ポピュラーやジャズ、クラシック音楽にも積極的に挑戦。幅広い演奏活動を展開した。
妻で箏曲家の沢井一恵と共に1979年に沢井箏曲院を設立。
1985年にネスレの「ネスカフェゴールドブレンド」のCMに出演。
多忙を極め1997年59歳で他界した。
沢井箏曲院熊本支部は多くの会員が集まり盛り上がっていた。熊本は、江戸末期から明治にかけ九州系箏曲地歌の著名な長谷検校の出身地。長谷検校は1893年に東京に進出、日本中に九州系地歌を広めた。現在歌・三絃手法など九州系箏曲演奏家も多くなりつつある。
◆春の海
宮城道雄(1894〜1956)が1929年に作曲した新日本音楽を代表する箏と尺八のための二重奏曲。
曲の構成は三部分形式となっており、1932年来日したヴァイオリニストのルネ・シュメーが尺八のパートをヴァイオリン用に編曲、録音したことがきっかけとなり、1953年には作曲者とアイザック・スターンが合奏する等、広く海外にも有名になった。他にもフルート等にも編曲され、合奏されている。