COVERS Liner Notes

2026年1月21日発売『COVERS』

収録曲全曲のオフィシャルライナーノーツを公開しました
『夢伝説』

 1984年にスターダスト☆レビューが5枚目のシングルとして発表した躍動感溢れるドラマティックなナンバー。カルピスのCMソングに起用され、彼らの知名度を一躍高めた。
 徳永もテレビからふと流れてきた根本要のハイトーンボイスに「なんて爽やかな歌声なんだろう!」と心を掴まれ、すぐに彼らのレコードを買いに行ったそうだ。これは当時の自分を励ましてくれた曲でもあるという。
 旧知の仲だが、2024年3月に開催された彼ら主催のフェスにおいて、ライブでのコラボレーションがようやく実現。当日は彼らの演奏で自身のオリジナル曲をいくつか届けた。
 そして、その年のコンサートツアー“ALL BEST 3”の6月の東京公演で「夢伝説」をサプライズ披露した徳永。「いつかこの曲で彼らとコラボしてみたい」とも話している。
 ポジティブなエネルギーに満ちた、突き抜けるような彼の歌声もまた実に爽快だ。

『「いちご白書」をもう一度』

 ばんばひろふみを中心に結成されたフォークグループ、バンバン。彼らが1975年に5枚目のシングルとして発表したこの曲は、同年のオリコンチャートで6週連続1位を獲得するほどの大ヒットとなった。
 “永遠の果てに”と題した2018年のコンサートツアーで徳永は懐かしいフォークソングを日替わりでカヴァーするコーナーを設け、この曲もいくつかの公演で披露していた。
 作詞・作曲は当時、荒井由実の名で活動していた松任谷由実。また、原曲のアレンジは徳永の数々の作品も手がけ、徳永が尊敬の念をいだいている瀬尾一三が担当。それも今回の選曲の決め手になったようで、「当時は瀬尾さんの存在を知りませんでしたが、あらためて原曲を聴いてみて、さすが瀬尾さんだと思いました」と徳永は話している。
 哀愁のメロディーに乗せ、切々と歌う徳永の憂いを帯びたボーカルが心に沁みる。

『飾りじゃないのよ涙は』

 1984年にリリースされ大ヒットとなった中森明菜の10枚目のシングル。井上陽水の作詞・作曲による独特の世界観を彼女は見事に歌い上げ、アイドルの枠を超える新境地を切り開いた。
 自身が敬愛する陽水が手がけたということもあり、徳永は「今までいくつか明菜さんの曲を歌わせていただいているけど、これも“なぜカヴァーしなかったのか”と思うくらい好きな曲です」と語っている。
 徳永の作品には欠かすことのできない存在の坂本昌之が本アルバムでも全編曲を担当。「今回も坂本が本当に良いアレンジをしてくれた」との言葉どおり随所でセンスを光らせているが、この曲ではアダルトな雰囲気を醸し出すジャジーで洗練されたサウンドを展開。徳永は心地よいグルーヴとともに、エモーショナルな魅惑のボーカルで酔わせてくれる。

『帰れない二人』

 井上陽水が1973年9月にリリースしたシングル「心もよう」のカップリングで、その年の12月に発売され日本初のミリオンセラーアルバムとなった歴史的名盤『氷の世界』に収録。時代を超えて多くのファンを魅了し続ける名曲の一つとなっている。
 中学時代、友人から借りた『氷の世界』を聴いて詞・メロディー・歌声、それら全てに衝撃を受けた徳永は、それを機にシンガーソングライターを志すようになった。「陽水さんが僕にギターを持たせてくれた。自分にとっては神様のような存在で、今でも憧れています」と徳永はいう。
 2021年にテレビ番組に出演した際、徳永はこの曲を披露。その日のために原曲を聴き返していたとき、あらためて感動し、涙が溢れてきたそうだ。
 原曲の美しさを際立たせたサウンドが浮遊感とともに繰り広げられる。シンプルでありながらも奥深い、叙情的な世界を味わい深く表現。感動と余韻を静かにもたらす仕上がりとなった。
 そして、その歌声からは、少年のような喜びをボーカリストとしての誇りに変えた、徳永のひたむきな姿勢をうかがうことができる。

『つぐない』

 テレサ・テンが1984年にリリースした14枚目のシングル。彼女にとっては初めてオリコンチャートのベストテン入りを果たした曲であり、同年の日本有線大賞および全日本有線放送大賞に輝いた。
 徳永は2010年発表の『VOCALIST 4』において、従来のJ-POP路線とは異なる色の作品にもトライしようと、やはり彼女の代表曲である「時の流れに身をまかせ」をカヴァー。献身的な愛情をしっとりと歌い上げて好評を得た。
 今回は愛しい人との別れを決めた女性の悲しみを情感こめて歌い、深い哀愁に浸らせる。
 自身が歌うという意味ではそこまで馴染みのある曲ではなかったため、かなり練習を重ねてレコーディングに臨んだという。その話からも徳永の一切妥協のない姿勢や“どの作品にも敬意を払い、原曲にできるだけ忠実に歌う”という、以前から貫き続けている意志が伝わってくる。

『JAM』

 THE YELLOW MONKEYが1996年にリリースした9枚目のシングルで、大ヒットを記録した代表曲の一つ。メッセージ性が高く詞の世界のインパクトも大きい、壮大でメロディアスなバラード。
 アルバムを聴いて元気をもらったことを自身のブログに投稿したこともある徳永。なかでも「JAM」は以前からのフェイバリットナンバーで「吉井和哉さんのメロディーラインがとても良くて、なぜか親しみを感じた」という。
 2004年名古屋ハートランドスタジオでおこなわれたカヴァー曲を中心としたスペシャルライブ“Boy's Night”と“Girl's Night”でこの曲を熱唱。また、2024年のコンサートツアー“ALL BEST 3”の奈良公演のアンコールでは、この曲をサプライズで披露する場面があった。
 「自分にとって十八番の曲」というだけにレコーディングもスムーズに進行し、魂をこめた歌声を実に力強く、伸びやかに放っている。
 徳永による「JAM」もきっと、多くの人達の心を揺さぶり続けるだろう。

『メロディー』

 玉置浩二が1996年にリリースした10枚目のシングル。シンプルで美しい、それでいて心に強く訴えかけてくるノスタルジックなバラードで、これまでに様々なアーティストがこの曲をカヴァー。2022年に実施されたソロデビュー35周年記念のベストアルバムの選曲に向けてのファン投票で第1位に輝くなど、多くの人々に長く愛され続けている。
 徳永と玉置はかねてから親交があり、2013年のコンサートツアー“STATEMENT”のラストを飾った名古屋公演では玉置がサプライズゲストとして登場した。
 徳永にとっては尊敬するアーティストの一人でもあり「愛溢れる本当に素敵な人」だという。そして、この曲についても「メロディーラインも好きだけど、特に詞が好きなんです。世界観が素晴らしい」と称賛。  そんな徳永の想いのこもったハートウォーミングな歌声は、優しさと切なさに満ち溢れていて感動を誘う。

『見上げてごらん夜の星を』

 もともとは1960年初演の同名のミュージカルの劇中主題歌で、坂本九が1963年にこの曲をシングルとしてリリース。そのミュージカルは彼の主演で再演され、映画化もされた。そして、曲は大ヒットとなり、彼の最たる代表曲で徳永もカヴァーしている「上を向いて歩こう」とともに、時代を超えて歌い継がれる日本のスタンダードナンバーとなった。
 「周りからも“すでにカヴァーしてなかった?”と言われるくらい、歌っていてすごくしっくりきました」という徳永。その言葉からもわかるように、とても自然な仕上がりで、まさに“選ばれるべくして選ばれた曲”と言えるだろう。
 清らかな詞の世界を引き立てるシンプルなサウンドも、祈りがこめられた歌声も本当に温かく、聴く者の心を希望の光でそっと優しく照らしてくれる。

『海を見ていた午後』

 松任谷由実が荒井由実名義で1974年にリリースした2枚目のアルバム『MISSLIM』に収録。年月が経っても決して色褪せることのない、今なお人気の高いナンバーだ。  過ぎ去りし恋を思い返している主人公の胸の内を、横浜の情景とあわせて巧みに描写。詞の中に登場する“ドルフィン”は今も実在するレストランで、ユーミンファンにとっての“聖地”の一つとなっている。  徳永によると「ユーミンさんは自然体でこの曲を歌われているけど、実際に歌ってみたらすごく難しかった」とのこと。
 それでも、一連の『VOCALIST』シリーズで、彼女が世に送り出した様々な名曲を歌いこなしてきた徳永である。その経験値もきっと活かされているのだろう。この繊細で切ないラブストーリーを、やはり自然体のボーカルでゆっくり丁寧に織りなしていく。
 以前、徳永が語っていた「ユーミンさんのメロディーは自分のDNAに合う」という言葉を思い起こさせてくれる1曲だ。

『Story』

 2005年にリリースされロングセラーを記録したAIの12枚目のシングル。スケール感溢れるソウルフルなバラードで、大切な人がそばにいる喜びや互いに想い合うことで生まれる未来への希望を彼女らしい飾らない言葉で伝えている。
  「“一人じゃないから”というフレーズが特にグッとくる」という徳永。以前からずっとカヴァーしたい気持ちはあったものの、メッセージ性が強いため歌いこなすのは難しいと思い、なかなか踏み出せずにいたそうだ。しかし、まだまだ高みを目指し続けている徳永は今回「新たな挑戦」としてこの曲をセレクト。ボーカリストとしての本領を存分に発揮しながら、しなやかで力強い歌声で普遍的なメッセージを心にしっかりと響かせてくれる。
 デビュー40周年の重み、そして、今の徳永ならでは人としての深みも感じさせる、“満を持して”の初カヴァーとなった。

Texted by Hitomi Matsuno

※德永英明の「徳」は旧字体、「英」は草冠の間が空きます。

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