carnation(カーネーション)a Beautiful Day (Deluxe Edition)

DISCOGRAPHY ディスコグラフィ

carnation(カーネーション)

a Beautiful Day (Deluxe Edition)

[ALBUM] 2009/11/25発売

a Beautiful Day (Deluxe Edition)

COCP-35807-8 ¥3,080 (税抜価格 ¥2,800)

DISC-1 (*Original Release:1995.8.19)

  • 1.Happy Time

  • 2.市民プール

  • 3.It' s a Beautiful Day

  • 4.未来の恋人たち

  • 5.車の上のホーリー・キャット

  • 6.ハイウェイ・ソング

  • 7.VIVA!

  • 8.Hey Mama

  • 9.GLORY

  • 10.摩天楼に雪が降る

  • 11.世界の果てまでつれてってよ

DISC-2

  • 1.PARTY
    *from sg『It's a Beautiful Day』c/w

  • 2.摩天楼に雪が降る (新宿西口下水道MIX)
    *from sg『世界の果てまでつれてってよ』c/w

  • 3.市民プール (Demo)

  • 4.It's a Beautiful Day (Demo)

  • 5.未来の恋人たち (Demo)

  • 6.ハイウェイ・ソング (Demo)

  • 7.世界の果てまでつれてってよ (Demo)

  • 8.市民プール (Home Demo)

  • 9.It's a Beautiful Day (Home Demo)

  • 10.車の上のホーリー・キャット
    (Home Demo)

  • 11.ハイウェイ・ソング (Home Demo)

  • 12.摩天楼に雪が降る (Home Demo)

  • 13.摩天楼に雪が降る
    (Home Demo/Summer Snow Version)

  • 14.摩天楼に雪が降る
    (Home Demo/Instrumental)

  • 15.世界の果てまでつれてってよ
    (Home Demo)

※お使いの環境では試聴機能をご利用いただけません。当サイトの推奨環境をご参照ください。

1995年リリースの通算6作目。
「カーネーション史上最も軽やかでポップ、かつコンテンポラリーな作品」とも評され、バンド初のシングル「It's a Beautiful Day」はその夏全国のラジオ局を席巻、「EDO RIVER」以降のグレー・リスナー層をさらに拡大するとともに、ライブ動員も急増した。DISC-2には入手困難となったシングルのc/w曲、貴重なデモ/ホーム・デモ音源等を収録。[ライナーノート:鹿野淳 (MUSICA)]


直枝政広による『a Beautiful Day』セルフ・ライナーノート
 天現寺の交差点手前で突然「Edo River」がFMから流れてきたのだ。驚いて車を停めラジオの中の自分の曲を聴いたのだけど、その時は「こんなこともあるのか」と思った。渋谷川沿いの黒い桜の木で蝉が鳴いていた。そのイントロが何らかの合図だったのかもしれないけれど、あの日から大きく流れが変わったような気がする。『Edo River』から『a Beautiful Day』に至るまでの記憶がほとんどないのは、きっと自分の意志とは別の目論みや企てに一気に飲み込まれたことと、それまでに体験したことのない新鮮なショックが続いたからだ。
 ヴィンテージのアコースティック・ギターを買ったのは『a Beautiful Day』のプリプロ時。その時はとにかく金がなくて、あと一ヶ月食えるかどうかというありさまだった。それなのに衝動買いをした。中古のGibson J-50(後に調べてもらったら1969年製と判明)。思いっきり枯れた音が気に入ったのだ。ローリング・ストーンズ『ベガーズ・バンケット』あたりのあの音。Gコードを鳴らすとそのレコードの雰囲気が蘇ってくるほどだった。ギターは今でももちろん元気で、ライヴでどう扱おうがタフな音をいつも鳴らしてくれる。あいつはたくさんの曲を運んできた。
 95年のいつだったかは忘れたけれど、夜中の井の頭線のホームで震えた記憶があるし、おそらく時期的にも初春。下北沢のとあるマンションの地下にあった渚十吾さんの仕事部屋をお借りし、TASCAM488を囲んで作業に没頭した。その部屋にはおびただしい数のLPレコードがあった。アレンジのイメージを伝える際も「こんな感じじゃないか?」とすぐに参考となるレコードが聴けた。マニアックなLP群の背中を追いかけるだけでも息抜きになったし、ちょっぴり豊かな気持ちにもなれた。作業中はコーヒーの消費量も半端じゃないから、豆は大きな袋の物をよくピーコックで買った。キリマンジャロ・ブレンドの濃い目が流儀で「直枝くんの煎れたコーヒーは酸っぱ濃い」とさんざん笑われたものだ。その時のDemo作業はDisc-2の5曲(M-3からM-7)で聴けるが、完璧に作り込まれたDemoで恐ろしいほどだ。前作『Edo River』の出来にはもちろん手応えがあったし「ひたすら気持ちよければOK」というのがジャッジの基準として全員にあった。ライヴでの再現性はこのメンバーならほぼ問題ない。だから何をやってもよかった。
 夏に響く音を提供することになったのは偶然だったけれど、アルバムを年に1枚出すサイクルは、『Edo River』の好成績もあってコロムビアと正式契約が成立したからだった。音楽性もよりソウルフルに、内部では少しずつ自己のヘヴィなルーツ音楽に回帰しはじめていた。バンドにとって初のシングルとなった「It's a Beautiful Day」はアレサ・フランクリン「I Can't Wait Until See My Baby's Face」に影響を受けている。それはソウル音楽をあらためて勉強をし始めてから出会った曲で、Aメロの出だしなんてほぼ同じなのだが、その後半はジョージ・ハリスン「マイ・スウィート・ロード」調のかけあいとなるという、独自のブレンドはあくまでも「酸っぱ濃い」ものだった。「ハイウェイ・ソング」のブレンド具合はさらに濃く、フランク・ザッパ『アポストロフィ』を目指しつつもジョン・リー・フッカーやライトニン・ホプキンスの手癖をなぞることからひょっこりと生まれてきた。再発見だらけの日常とルーツ回帰。力を抜いて素直に感じたままにやればいいと、開き直ったのがこの時期だ。すらすらと明快な曲が生まれたし、メンバーも毎日興奮しながら懸命に作業をこなした。
 批評性うんぬん、その理屈を捏ねだせばとたんに周りの世界は曇り出す。これは不思議なことなんだけど、作り手はその自分の音楽に対して常に批評的であるべきなのだが、物を世に送り出す時には上手にそのロジックの庭から抜け出さねばならない。ある日、やっかいな論理の迷路から一歩抜け出すことができたら作家はずっと楽になれるはずなのだが、なかなかうまくはできないものなのだ。徹底的に外へ向かおうとした『a Beautiful Day』だが、無自覚にもその微妙な一線を越えた瞬間があったのかもしれない。「It's a Beautiful Day」という曲が多くの人に愛された理由のひとつには、作り手側にもいい意味での無防備さがあったからだと言えなくもない。
 余談だが、このプリプロ時の夕飯は「王将」のテイクアウトが多かった。大田くんが頼んだ「チャーハン弁当」はなんとおかずがなく、チャーハンと白米が半々に入ったものだった。彼はそれを見て「ふざけるな!」と一度は箸を投げたが、文句をぶつぶつ言いながらもしかたなく食べていたことを思い出した。はたしてチャーハンはおかずだったのだろうか?

“Home Demo覚え書き”
 今回のリイシューにあたって、Home Demoの音質(オリジナル版はトータル・コンプがきつすぎたので…)を良くするためにできるだけリミックスを行おうと思い、TASCAM488は友人宮原清くんの愛機をお借りした。外付けのエフェクターもなるべくチープな宅録感をそこなわぬよう、昔から使っていた(耳鼻咽喉科のザチョーから貰った)コルグのアナログ・ディレイ(Korg Signal Delay)と90年代のZoomのリヴァーブを使用し、それをProToolsに流し込んでから作業をしている。音をたちあげてもすぐにバランスがとれたし、フェーダーの上げ下げも自由自在で、さすがにHome Demoは自分の分身なのだなと思った次第。
 「車の上のホーリー・キャット」。これは好きな曲だ。じつはアイデアは『エレキング』以前にすでにあって、同タイトルのまったくの別曲(未発表)も存在する。借りていた駐車場でボンネットの上に眠る猫を見てひらめいたわけだが、まぁ、こういう時は車を出せないわけで、困るけどうれしいみたいな…。欲張らずに、ふと外に出てみるとこうしていろんなことが歌になるのだ。
 「It's a Beautiful Day」もHome Demoの段階でそのアレンジはほぼできあがっている。ピアノもやんちゃなフレーズが多くて面白い。この頃はキーボードで曲を作ることも多く「市民プール」はウーリッツアの音源で作った。技術がない分、不思議なテンション・コードや展開が生まれたりして予想外の成果を生むことが多々あった。「私」視点の作詞も幼少期の記憶とリアル・タイムの感情を混ぜ合わせて演出。ここでの市民プールとは松戸駅東口の山の上にあった市営プール(水がやたらと冷たかった)と本牧市民プールのイメージの合体。野球場の隣接するのは本牧の方で、今も高速から見える赤土の崖の下にあるはず。当時、横浜ヴァージン・メガ・ストアの人たちに混ざって野球をよくやっていたんで本牧はたまに行ったのだ。帰りは中華街というコースが懐かしい。曲作り=アレンジの時代。そのずうずうしさがHome Demoの面白みだと思う。
 中でも「世界の果てまでつれてってよ」はかなり反則で、今回はプレートのリヴァーブを思いっきりかけてウォール・オブ・サウンド風のリミックスを作った。元々、この曲はフィル・スペクター風でいきたかった(現場ではかなわなかった)ので、ここにそのヴィジョンを残しておくのも一興だろうと。聴き取り様によってはロイ・オービソンからシュガー・ベイブに通ずる不思議なポップス。そんな夢のエッセンスを感じとってもらえれば幸いだ。
 矢部くんの「未来の恋人たち」はバック・トラックができたものの「肝心のメロディがうまくのらない」とのことで、ぼくが後にメロディをのせた。イメージはTLC「Diggin on You」。つまりはベビーフェイス調。こういったブルージーなリフを積み重ねて成り立つ曲はなかなかぼくには書けないのだが、それに対する回答のようなものが「摩天楼に雪が降る」だった。それにはいくつかヴァージョンがあり、ここで珍しいのはボツになった「Summer Snow Version」ということになるだろう。歌詞もメロディも違うので笑いながらお楽しみください。当時のヒップホップの手法に影響を受けつつもかなり本質は泥臭いこの曲、ベーシックはスティーヴ・ミラー・バンド「Shu Ba Da Du Ma Ma Ma Ma」の間奏部分のループだったり、さらにはマイナー・コードを使う時のザ・バンドを意識して作られた。ちなみに「新宿西口下水道ミックス」はおいしいサンプリングの嵐。ティム・ハーディンすら登場するマッドなリミックスだ。毎週のようにヒップ・ホップの12インチを買い漁っていた頃で、ドラッギーなトラック作りには興味があった。この3ヴァージョンはマニアックなヘヴィ・リスナーに捧げたい。

※PDF バージョンはこちら(▼)pdf[pdf:187KB]
プリントして切りとっていただければ各CDジャケットに収納できるサイズになります