歴史的名器プレイエルの響きの、筆舌に尽くしがたい美しさ。
仲道の繊細極まるタッチ×雄弁なる管弦楽が、ショパンの協奏曲の真価を啓示する名演!
生誕200年のショパンイヤーの最後を飾る、世界に誇るべきレコーディングがこの夏おこなわれました。ショパンが最も愛した楽器、プレイエルを使った、時代楽器によるショパンの協奏曲全2曲です。
「もしショパンがいなかったら、私はピアニストにはならなかった…」と語る、日本を代表するピアニストの一人、仲道郁代にとって、NHKが2007年に放送した番組「ピアノの詩人 ショパンのミステリー」への出演は、自身の大きな転機となりました。番組で、仲道の大きな興味をひいたのが、ショパンが愛用していた「プレイエル社製のピアノ」。現代のピアノとは大きく異なる特性のその楽器を実際に弾いてみることで、それまでなかなか解決できないできたショパン独特のピアノの用法について、目から鱗が落ちる思いであったといいます。それ以後、仲道は様々な時代の歴史的楽器を実際に弾いて、その楽譜の意味するところを直接に感じ取り、現代楽器での演奏に活かすようなり、それだけでなく歴史的ピアノの演奏を実際のコンサートで披露するようになります。
一方の有田は、ルネサンスから現代までの様々なフルートのコレクションで有名ですが、実はたくさんの鍵盤楽器も所有しています。彼の持つ1841年製のプレイエルは、ショパンの愛用していた楽器と全く同じモデルであり、しかも何本かの低音弦が切れていた以外はハンマーも含めて当時のオリジナルのまま保存されていた奇跡的な楽器です。有田は、その前身である東京バッハ・モーツァルト・オーケストラを発展的に解消してクラシカル・プレイヤーズ東京を新たに主宰、レパートリーをロマン派へと拡げる野心的な試みをスタートしていました。
有田正広と仲道郁代の出会いは、もはや必然であったといってもよいものだったのです。
■オリジナル・プレイエルを使用。
ショパンは、「気分がすぐれないときは、エラールを弾く、それなりの音を出すから。体調のよい時は、プレイエルを弾く。自分自身を自由に表現できるから。」と言ったと伝えられています。そのオリジナルのプレイエルが持つ極めてデリケートで美しい音色が堪能できます。歴史楽器を使ったショパンの協奏曲では、エラール社の楽器を使ったものが知られていますが、このプレイエルの美しい響きは筆舌に尽くしがたいものです。シングル・エスケープメントという機構を持つこの楽器は、鍵盤を完全に上げないと同音連打が出来ないという特徴があります。それは、速いパセージでの演奏を難しくする反面、楽器の特性を素直に活かすことが、実にロマンティックな表現に結びついてゆくことを図らずも実証しています。
管弦楽も、当時の楽器を揃えて万全のサポート体制をとりました。
■ピアノ独奏部分では、オーケストラも「独奏」
歴史的習慣にもとづき、ピアノ独奏部分では、弦楽器も独奏としています。これによりピアノとオーケストラの音量的バランスの問題は完全に解決されました。ソリスト仲道さんは、管弦楽とのバランスに神経をすり減らすことなくプレイエルの繊細な音色をとことん追求することが可能でした。緩徐楽章の夢を見るような美しさは、まったく時間が経過を忘れさせるほどです。
また、ソリストと管弦楽の音楽的対話が極めて親密に交わされている点も、室内楽と同様の編成での演奏ならでは、といえましょう。「ショパンの管弦楽は貧弱」というのは、俗説に過ぎなかったのだと聴くものを納得させるに十分なものです。
『ショパン:ピアノ協奏曲第1番、第2番』
仲道郁代(ピアノ、オリジナルプレイエル)
有田正広 指揮、クラシカル・プレイヤーズ東京
COGQ-49 ¥2,940(税込)
SACD Hybrid [CD Audio, SACD Stereo/4.0ch Surround]