デビュー50周年を迎えた俳優・歌手の夏木マリが、日本が誇るジャズの殿堂「BLUE NOTE TOKYO」で2017年からスタートした恒例ライヴ・シリーズ「MARI de MODE」の第5弾となる「MARI NATSUKI “MARI de MODE 5 Jubilee” New Single Release Live」を4/20(木)&21(金)の2Daysで開催。昨日、初日の公演が行われ、6名のミュージシャンを携えた夏木マリが渾身の歌唱で全16曲を披露。満員の観客280人を盛り上げました。
4月19日(水)に、笠置シヅ子の国民的名曲「東京ブギウギ」をカバーしたニューシングル「「TOKYO JUNK BOOGIE(トウキョウ・ジャンク・ブギー)」をリリースした直後のレコ発ライブにもあたるこの2日間。
初日のライブの模様を以下、レポート。
数多くの国民的な映画・ドラマに出演する一方、舞台演出家や慈善活動家としての顔も持つ夏木マリ。自分らしさを愚直に追求する生きざまと凛としたたたずまいは多くの日本人を魅了しているが、音楽ジャンルを超越して活動する夏木の歌手としての側面も見逃せない。歌手デビューから50周年という節目の今年、ジャズの殿堂ブルーノート東京で行われたライブを聴いた。
クールなブルーノートの舞台に華やかな黄緑の衣装で登場した夏木は、まず元ピチカート・ファイヴの小西康陽による楽曲「私のすべて」を抒情溢れる表現で歌い、すぐさま聴衆の心をつかむ。同じく小西による「港のマリー」では、ボサノヴァスタイルの軽やかなスタイルを披露。前半はその後も「むかし私が愛した人」など、小西による楽曲を中心に、一気に歌いきった。
夫でパーカショニストの斉藤ノヴ、ギターの田中義人ら腕利きのミュージシャンが支えるバンドを背後にして歌う夏木は、ひたすらこの舞台を楽しんでいるように見える。このジャズシンガーを凌ぐような夏木の圧倒的な歌唱力と表現力を目の当たりにすると、なぜ小西がここまで夏木マリに固執してきたのかがよくわかる。
夏木は少女時代、27歳でこの世を去ったカリスマ、ジャニス・ジョプリンに憧れて歌手を目指した。まさに歌手としての原点であるジャニスの「Cry Baby」では、夏木の持つ類稀な感性が爆発。続く「60 Blues」では、自身の人生を振り返った歌詞をユーモアも交えて情感たっぷりに歌い、会場を大いに盛り上げた。伝説的ブルースバンド、憂歌団の「おそうじオバチャン」など意外性のある曲も用意され、ブルーノートは変幻自在かつジャンルレスな音楽の舞台と化した。そこには、まさに「夏木マリ」としか言いようがないパフォーマンスがあった。
デビュー50周年の今年、夏木は笠置シヅ子の名曲「東京ブギウギ」を現代風にアレンジした「TOKYO JUNK BOOGIE」を発表した。現代音楽や映像音楽の世界で活躍する作曲家、坂東祐大をプロデューサーに迎え、ドラムの石若駿ら現代ジャズのトップランナーが収録に参加した話題作だ。今回のライヴでも新作アレンジ2曲のうち、スタンダードヴァージョン「TOKYO Standard BOOGIE WOOGIE」が披露された。
原曲の東京ブギウギは過去の映像や音源でしか聴いたことはなかったが、夏木が歌うとまるで別物の曲になる。ジャズや現代音楽、ブルースなど様々な音楽の要素を取り入れつつ、世代を超えて楽しめる音楽を届けたい。そんな夏木の迸る想いがあふれる熱唱だった。
コロナ禍では音楽や演劇をはじめとする文化芸術は「不要不急」とされ、肩身の狭い状況に追い込まれた。むろん夏木も例外ではなかったが、このコロナ禍を経て夏木が再認識したことがある。それは、「やっぱり歌が大好きだ」という極めてシンプルな感情だ。歌を歌っている時は、自身の全てを解放し、自由になれるのだろう。表現者・夏木マリの音楽への愛が、誰よりも深いことを強く認識したステージだった。
Text by 岩崎貴行