スクロヴァチェフスキ&読売日響
ブラームス
交響曲第1番 ハ短調 Op.68
J.S.バッハ/スクロヴァチェフスキ編曲
トッカータとフーガ ニ短調 BWV.565
★スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮、読売日本交響楽団
[録音:2007年9月29日、東京芸術劇場ライヴ]
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「トッカータとフーガ」のオーケストレーションについて
私はオルガンの響きをオーケストラによって純粋に再創造しようと思いました。子供のころから青年時代にかけて私はたくさんのオルガンを演奏しました。ポーランドにある古いオルガンはとても大きく、豊かな音響を持っていましたが、ときに打楽器や鐘の音を模したような面白いレジスターがついていました。私のスコアにもティンパニや鐘やシロフォンなどが入っています。私のオーケストレーションが他の人の編曲と違う点は、この「オルガン的な響き」をより重視している点でしょう。また私が意図したのはバッハのテクストをできるかぎり忠実に正確に反映することでもあります。
スクロヴァチェフスキのレコーディング
今回のCDは昨年9月29日に東京芸術劇場で行われたコンサートを収録したもので、私たちスタッフは前日に行われた会場リハーサルから立ち会いました。マエストロの音楽作りはまさに10数年前に見たケルンと変わらず、細部にわたるきめ細かいものでした。慣習に流された強弱、クレッシェンドやディミヌエンド、不要なリタルダンドなどがきびしく排除され、入念な楽器間のバランス調整―スコアと実演との関係を知り尽くした彼ならではの職人技―が行われ、理想のサウンドと明解な音楽が形成されていきます。そして要所要所で引き締められる手綱、感傷を断ち切るかのような烈しい切り込み、また通常埋もれているような裏メロディをチャーミングに浮き立たせるなど、ややもすれば「ロマン派」として重厚な響きで包まれるブラームスの音楽がきわめて新鮮な生命力にあふれて再現されます。歌うべきところは十二分に歌わせる、そしてもちろん大団円を描く爆発力の凄まじさ。
84歳(当時)の老いの影など一切感じさせないミスターSの音楽作りに圧倒されます。春の就任コンサートから半年、余分な緊張も解けて創造の喜びに満ち溢れた両者の関係の結実です。
コンサートの1曲目に演奏された「トッカータとフーガ」は作曲家でもあるスクロヴァチェフスキ自身がオーケストレーションしたもので、ピアノ、チェレスタ、ハープ、様々な打楽器を加えた大編成のオーケストラが要求されています。「荘重なオルガンの響きやバッハの精神をオーケストラで再現したかった」というマエストロ自身の言葉の通り、演奏効果狙いの編曲とは一線を画す、充実の芸術作品に結実しています。読響の千変万化のパレットの豊かさ、とくに難しいトッカータ部分での一糸乱れぬアンサンブルの見事さなど、聴きどころ満載の名演です。
マエストロの読響常任指揮者契約は1年延長され、2010年3月までとなりました。
何を聴かせてくれるのか今から楽しみでなりません。間違いないことはその1回1回がファンにとってかけがえのないものであるということです。
制作担当プロデューサー[2008/8月掲載]