鈴木慶一がミュージシャン生活50周年記念ライブを11/28(土)に東京・Billboard Live TOKYOで昼夜2回に渡って行い、ゲーム音楽「MOTHER」のサウンド・トラックを完全再現した。また夜公演は生配信もされリアルライブとオンラインの2本立てで行われている。
鈴木慶一が友人のあがた森魚との出会いをきっかけにミュージシャン活動を始めたのは1970年。以降、はちみつぱい、ムーンライダーズ、ザ・ビートニクス、Controversial Spark、No Lie Sense等のユニットやバンド、音楽プロデュース、映画音楽など多様なミュージシャン活動を経て今年ミュージシャン生活50周年を迎えた。アニバーサリー・イヤーとなった2020年は様々なイベントやライブが予定されていたが新型ウイルス感染症拡大の中、殆どが中止を余儀なくされ、唯一残ったのが、このBillboard Live TOKYO公演。そんな節目のライブのテーマに選んだのは「MOTHER」。糸井重里がゲームデザインを担当したRPG「MOTHER」のサウンド・トラックとして1989年8月21日にリリースされたアルバムだ。PCM音源が中心だったゲーム音楽界に、英国録音の本格的なサウンドに置き換えられたサントラ盤はゲーム本体とともにカルト的な人気を集め、発表から30年以上経った現在も支持を受ける名盤だ。
夜の部、19時32分。名盤「MOTHER」を再現するライブがいよいよスタートする。この日のために鈴木慶一が制作したBGMが流れる中、6人のメンバーがゆっくりとステージに登場。先ずは慶一から『ようこそ!』と客席とオンライン画面に向かって挨拶。慶一によると、死ぬまでにやりたいことがいくつかあり、そのひとつがこの「MOTHER」の再現だったそう。『今日は「MOTHER」の夜ということで始めさせていただきます!』とステージに呼び込まれたのは斎藤アリーナ。アルバム「MOTHER」は3曲のインストゥルメンタルを除いて全てボーカル・ナンバーが収められており、本ライブでもボーカル曲には慶一ゆかりのミュージシャンがゲストに入って歌われる。斎藤アリーナはNHKのEテレ「ムジカ・ピッコリーノ」で共演した仲。ウェデイング・ソングとしても人気が高いミディアム・テンポの美しいナンバー「POLLYANNA(I BELIEVE IN YOU)」でライブの幕が開いた。
続けての「BEIN' FRIENDS」のゲストは弱冠14歳のHANA。慶一との出会いは奇しくも1年前のこの日。7月にリリースしたKERA(有頂天)のユニット・No Lie-Senseのアルバムにも参加。フラワープリントのワンピースをまとってキュートな歌声で客席を魅了。
この日のライブはアルバム「MOTHER」の収録順に演奏されており、3曲めはオールドスクール・ロックンロール・ナンバーの「THE PARADISE LINE」。慶一から『今日はミートローフ(米の巨体ロックシンガー)の役だ!』と紹介されたのはスカートの澤部渡。この日のバンド・メンバーの岩崎なおみ(B)と佐藤優介(Key)はスカートでのサポート・メンバーでもあり、澤部にとっても気心が知れた仲。それゆえ、リラックスして臨めたようで、大きな身体を揺らしながら、迫力あるヴォイスで客席を圧倒する。
ここでインストゥルメンタル・ナンバーの「MAGICANT」を挟み、「WISDOM OF THE WORLD」では真っ赤なイブニングドレスを纏った坂本美雨が登場。この共演には慶一も『美雨ちゃんは、赤ん坊時代から知ってます』と感慨深げ。坂本が2〜3歳の頃、かしぶち哲郎の曲を聴かせると、その場で歌い出し、音感の良さに驚いたというエピソードも披露。『では美雨ちゃんにピッタリの曲を行きましょうか』と「WISDOM OF THE WORLD」を紹介。ゴンドウのディジュリドゥが壮大な大地を彷彿させるスケール感溢れるナンバーで、坂本美雨は会場の隅々まで届くように美しいヴォイスを響き渡らせる。
ここまでの演奏で気づいたファンも多いだろう。ライブのアレンジがオリジナル盤と違うことを。ここで慶一から「MOTHER」のセルフカバー新譜が1/27にリリースされることが明らかにされる。この日のアレンジは「MOTHER MUSIC REVISITED」と名付けられた新作からも引用されている。「MOTHER」再現ライブと共に"死ぬまでにやりたかったシリーズ"のもうひとつが、「MOTHER」の再録音。ゴンドウトモヒコが共同サウンドプロデュースに入り、この日のサポート・メンバーの岩崎なおみ(B)と柏倉隆史(Ds)もレコーディングに参加し、ボーカルは全曲、慶一が担っているそう。
後半はダニエル・クオンがゲスト参加する「FLYING MAN」。さらにコーラスで斎藤アリーナ、澤部渡が加わる。ダニエル・クオンの美声と交互に、慶一もリードボーカルを取る。後半にはビーチ・ボーイズ風のコーラスも飛び出し、客席を沸かす。続いては、インストゥルメンタル・ナンバーの「SNOW MAN」。岩崎のフレットレスベースとゴンドウのユーフォニアムが、この曲の"揺蕩う”感を効果的に聴かせる。後半の慶一と西田修大が奏でるギターのアルペジオは、雪が降っているように思わせ幻想の世界に誘う。
8曲目「ALL THAT I NEEDED(WAS YOU)」のゲストはビューティフルハミングバードの小池光子。慶一とは2005年の三木鶏郎トリビュートライブ「三木鶏郎と異才たち〜Sing with TORIRO」との共演以来の仲。サーフィン&ホット・ロッド ・ミーツ・テクノといった不思議な趣きのサウンドに、児童合唱団で鍛えた小池光子の、全てを包み込むような清らかな歌声が絶妙にマリアージュ。
そして慶一から『最後のゲストです!一緒にMOTHERの音楽を作りました!』と呼ばれたのは田中宏和。開発当時、ゲーム会社側の音楽担当として、慶一と共に音楽制作に関わった。『貴重な体験でした!あの音楽作りは』と、その頃を振り返り、ひとしきり思い出話しがふたりで続けられる。そして『素晴らしい作曲の場を、提供いただきありがとうございました』と客席後方に向かって慶一は一礼。スポットライトの中に浮かび上がったのは、「MOTHER」の産みの"母"である、ゲームデザインを担当した糸井重里。時節柄、糸井がステージに上がることこそなかったが、30年超の時を経て蘇った「MOTHER」を客席から、温かく見守っていた。
本編ラストはアルバムのエンディングでもある「EIGHT MELODIES」。オリジナル盤はマイケル・ナイマンが編曲を担い、英・セントポール大聖堂合唱団が参加した聖歌のような美しい楽曲。かつて音楽の教科書にも掲載された名曲だ。ステージにはこの日のボーカル・ゲスト全員が横一線に並び、聖歌隊のような美しいコーラスを聴かせる感動のフィナーレで、ライブの幕は閉じられた。
これでアルバム「MOTHER」の収録曲の全ての演奏は終了。アンコールでは、1月27日にリリースされる新アルバムの同曲を『さらにリミックスしたヴァージョンでお届けします』と始まったのは「EIGHT MELODIES revisited」。田中宏和はベース、澤部渡がギターで演奏に参加。ザ・ビートルズの「レボリューション9」を彷彿させ、ループをバックにサウンド・コラージュ部分を各メンバーが生演奏するスリリングな競演。いつまでも聴き続けたいような夢心地にさせてくれるサウンドだが、慶一の『会場の皆さん、モニターの向こうの皆さん、今日はありがとう!」を機に演奏は終了。この"死ぬ前にやるシリーズ"は、またやるかもしれません!とファンの期待を煽り、(前回の)45周年ライブ時に参加してくれた二人のドラマー、矢部浩志と高橋幸宏の回復を祈り『次は60周年記念で元気でお会いしましょう、又!』と残し、ステージを降りた。
鈴木慶一の『MOTHER MUSIC REVISITED』は2021/1/27にリリースされる。
【鈴木慶一 ミュージシャン生活50周年記念ライブ セットリスト】
2020/11/28(土)第1部16:30開演/第2部19:30開演
会場:Billboard Live TOKYO
01. POLLYANNA (I BELIEVE IN YOU) with 斎藤アリーナ
02. BEIN’ FRIENDS with HANA
03. THE PARADISE LINE with 澤部渡
04. MAGICANT
05. WISDOM OF THE WORLD with 坂本美雨
06. FLYING MAN with ダニエル・クオン/斎藤アリーナ、澤部渡
07. SNOW MAN
08. ALL THAT I NEEDED (WAS YOU) with 小池光子
09. FALLIN’ LOVE, AND with 田中宏和
10. EIGHT MELODIES with 田中宏和/斎藤アリーナ、坂本美雨、澤部渡、小池光子、ダニエル・クオン、HANA
Encore:
11. EIGHT MELODIES revisited with田中宏和、澤部渡
BAND;
岩崎なおみ(ベース)、柏倉隆史(ドラムス)、ゴンドウトモヒコ(フリューゲルホルン他)、佐藤優介(ボーカル/キーボード)、西田修大(ギター)
【アルバム情報】
『MOTHER MUSIC REVISITED』
2021/1/27(水)発売
© SHIGESATO ITOI / Nintendo
<CD2枚組DELUXE盤>COCB-54321-2 ¥5,000+税
<CD通常盤>COCB-54317 ¥3,000+税
<LP2枚組>COJA-9391-2 ¥5,500+税
発売元:日本コロムビア/BETTER DAYS
収録楽曲:
01. POLLYANNA (I BELIEVE IN YOU)
02. BEIN' FRIENDS
03. THE PARADISE LINE
04. MAGICANT
05. WISDOM OF THE WORLD
06. FLYING MAN
07. SNOW MA
08. ALL THAT I NEEDED (WAS YOU)
09. FALLIN' LOVE, AND
10. EIGHT MELODIES
DISC-2 ※DELUXE盤にのみ収録
『MOTHER』ゲーム・ミュージックのオリジナル音源を収録予定
(2020/12/2掲載)