配信
1-6 ブラームス:6つのピアノ小品 Op.118
7-9 ブラームス:3つの間奏曲 Op.117
10-13 ブラームス:4つのピアノ小品 Op.119
15 主題と変奏Op.18(原曲:弦楽六重奏曲第1番より第2楽章)
録音:2011年8月22、23、25日 上野学園石橋メモリアルホール
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田部京子2年ぶりのリリースとなるアルバムは、ブラームスの後期ピアノ作品集。2009年7月のメンデルスゾーン以来CDリリースがなかった田部ですが、その間もたゆまぬ進化・深化を続けてきたことを、この新しいブラームス・アルバムは何よりも雄弁に証明してくれることでしょう。
録音は今年の8月、田部が教鞭を執っている、上野学園の石橋メモリアルホールにて。日本の音楽専用ホールの草分けといえるこのホールは、昨年改築され新装オープン(?)したばかり。美しく豊かな響きが自慢のこのホールには、田部自身が何度も弾いている非常に良好なコンディションのピアノがあります。良い録音への条件はバッチリ整っていました。
とかく「渋い」と評されがちなブラームスの後期作品ですが、田部の手に掛かるとどうでしょう?美しく流れゆく音楽には恣意的な作為は全く無く、耳に心地よく響くその音楽からは、「渋い」どころか親しみやすさを感じるほど。しかし一方で、ひとたび集中して耳を傾ければ、聴こえてくるのは作曲家によって張り巡らされた、さまざまな「仕掛け」を伴った、心に染み入る味わい深い音楽です。メロディーラインはもちろんのこと、バスや内声に至るまでが美しいレガートで奏されると、まるで最上級の室内楽を耳にしているかのような錯覚を覚えます。また、作品118の第1曲や、作品119の第4曲では、青年ブラームス(!)と見まごう(聴きまごう?)ばかりのはつらつとした音楽も!常々、「渋いばかりではないブラームスの魅力を伝えたい」という田部の言葉を思い出します。そして、あの有名なメロディーの《主題と変奏》。正にブラームスの真髄ここにアリといえましょう。
アルバム全体を通して聴き手の心を揺さぶる深い感動を、いささかの押し付けがましさもなく織り込む「さりげない」至芸こそ、田部の一番の魅力ではないでしょうか?
ベルリンの静かな秋の夜、田部は、編集の済んだ音源を聴きながら、同じく北ドイツを生きたブラームスに思いを馳せたといいます。「ついに、ドイツ音楽の本流へ」というキャッチコピーは、多くの音楽ファンも納得の一言としてこの名盤の誕生と共にリスナーの皆さんの記憶に刻まれることでしょう。