山中 「とにかく僕にとってコレクターズは特別だったんです。僕がコレクターズを最初に知ったのは〈NICK! NICK! NICK!〉だったんですけど、いわゆる反戦歌なのに〈僕は知らないさ〉って一言から始まるんですよ。パンクバンドはあたかも知ってるかのように唄って、バカにでもわかる伝え方しかしないのに、〈知らない〉ってところから始まって、扉をもう一枚開けないと理解出来ない。加藤さんの歌詞って基本そうなんです。すぐわかるように出来てない。でもそれがわかったように思えた時、自分はこのバンドに選ばれたような気持ちになって」 加藤 「それまでも反戦の歌はたくさんあったけど、全部が全部、自分が経験したことを歌にしてるわけじゃなくて、やっぱり何か嘘くさく感じる歌が多かったのよ。だから〈NICK! NICK! NICK!〉は、俺たち戦争とか知らないけど、どこかの国の紛争を伝えるテレビのニュースには、悲しくて泣いてる人ばかりが映ってる。銃で撃たれたこともないし、銃を背負ったこともないけど、そんなのいいわけないってことは知ってる。だからそれしか唄えない、ってことで」 山中 「あとサウンドも、コレクターズにはオリジナリティがあったんです。メロディアスな部分とキャッチーなポップネスをちゃんと持ちつつ、それとロックンロールが融合した音楽を僕はあまり知らなかった。THE JAMもちょっと違ってたし。そんな時に聴いた〈NICK! NICK! NICK!〉や〈問題児〉のギターソロは、超ロックンロールでカッコ良かったんですよ。超モダンだと思った」 古市 「それがなかなか伝わらなくてね(笑)」 加藤 「それまでは、暴力的で怒ってるのがロックンロール、だとされてたの。ルースターズみたいな博多のバンドが〈やりたいだけ〉って唄ってた。でも俺、そこだけじゃないよなって思ってたんだよ。日本のロックンロールって、そのテーマがえらく狭かったんだよ。俺はそれがとにかく嫌だったの」 山中 「ワイルドとセットになってなきゃいけない、ってうか」 加藤 「そうそう。ドロップアウトしてて、不良の溜まり場で酒と煙草やって、女とやりまくってないとロックンロールじゃない、みたいなさ。俺が聴いてたロックンロールはそんなにバカじゃない、と思って」 山中 「ロックの話をする同級生は、みんな革ジャンに鋲とかなんだけど、なんか違うなって思ってた時に、ジャストフィットしたのがコレクターズで。しかもそれはナンパじゃなく、ロックンロールにロマンチックが同居してた。こんなの他になかったんですよ。だから僕が体感したモッズ感って、THE JAMとかTHE WHOよりも、コレクターズの方がリアルだったんです」 ――そもそも加藤さんの中で〈モッズ〉ってどんなものだったんですか? 加藤 「モッズってさ、1950年の終わりから60年の半ばまで、イギリスの若者の間で流行ったヤングカルチャーなんだよ。最初はモダンジャズを聴いてたけど、だんだん時代とともに音楽もマニアックなものを聴くようになって。ヒットチャートとは別のところに価値を見出していったんだ。ファッションも大人達に反抗するために細いスーツを着て、金がなくて車に乗れないからスクーターを乗り回し、覚醒剤飲んで、クラブで夜な夜な遊んでる。そういうものだけど、俺たちが体現したモッズは〈さらば青春の光〉に代表される、パンクの中から出てきたネオモッズなんだよ。だからその時のモッズよりもパンク気質に溢れてて、パンクよりもパンクだった。つまりその頃パンクをやるっていうのは、もう古かったんだよ」 山中 「流行ってましたからね」 加藤 「ガーゼシャツ着たって、ライダース着たって、もう流行ってるんだから終わりじゃん。簡単に手に入るしさ。ところがモッズはスーツもオーダーメイドで作らなきゃいけない、スクーターは買って改造しなきゃいけない、しかもパーカーは絶対に必要。手間暇かかる反抗をする若者なわけだ。だからやりがいがあるし、誰にもマネ出来ないだろって思ったの。金銭的にも音楽的にも。だから一番自分が目指したいところだったし、自分がオンリーワンでいるには、モッズになることしかなかった。みんながマネ出来ないものになったら、初めて自分を誇れるんじゃないか、って思ったから」 古市 「俺もパンクから入ってるけど、パンクもだんだん精神性が強くなってきちゃって、あまり居心地がいいものではなくなったし、カッコいいものでなくなったんだよね。そんな時に、凄くファッショナブルなモッズを見て、同じことを感じたんだよ」 山中 「髪を染めてモヒカンにするより、きっちり前髪短いマッシュルームカットのほうが過激だ、ってことですよね。カッコいいって言われちゃおしまい、みたいな」 古市 「だって高校生の時さ、タバコ吸わないヤツが不気味だったじゃん(笑)」 山中 「俺そうでした(笑)。みんな吸ってたから、吸わないほうがキャラが立つと思って」 古市 「あいつ吸わねーよ!って(笑)。それと同じで、周りから見たら相当洒落者だったと思うよ」 山中 「ていうかコレクターズは、90年代前半までは洒落のスピードが凄すぎて、ちょっと追いつけないレベルだったんですよ。だってまだイカ天がブームだったあの時代に、パワステ(註:日清パワーステーション/ライヴハウス)でロックオペラとかやってたんですよ(笑)。進化が凄すぎてついていけないんです」 加藤 「バカロックとかポコチンロックとかやってる時代に、俺たちのライバルは劇団四季だったからね(笑)」 古市 「俺も意固地になってたからね。ほんとポコチンロックとか嫌で。もっと言うと●●●●●とか耐えらんなかったんだよ!(笑)」 加藤 「ブルーハーツが売れて、その劣化コピーバンドがどんどん出てきたじゃない? それとは真逆に行かなきゃって思ってたから、どんどん難しいこと始めちゃったんだよね」 古市 「売れようっていうんじゃなくて、違う方向に行こうとしか考えてなかった」 山中 「それが2年おきとかじゃなくて、半年くらいで変わるイメージなんですよ(笑)。ほら『夜のヒットスタジオ』とか出てたじゃないですか?」 加藤 「ああ、出たねえ。ヒットスタジオとかロックショーとか」 山中 「その時も、いわゆる一番スタンダードなモッズスーツで出るかと思いきや、赤のエナメルのパンタロンみたいなぶっ飛んだ衣装で出てくるんですよ。さらに突き抜けてて(笑)。それが俺的には痛快だったけど、たぶんディレクターはキツかったんじゃないかなあ(笑)」 ――やっとテレビ出演取ったのに!って。 加藤 「だって俺もコータローくんも、デビューする頃にはモッズはやり尽くしちゃってたんだもん」 山中 「早いっすよ!(笑)」 古市 「でも思ってることは似てるんだよ。次はこのへんだよね、みたいな」 加藤 「だってオアシスが出てきた時に言われたんだよ。『なんか、イギリスにコレクターズみたいなバンドがいますよ』って」 (一同爆笑) 加藤 「でも結局ね、今のロックバンドでもさ、モッズファッションとかスタイリッシュな衣装でお茶の間に出てさ〈何だコイツら、カッコいいな!〉って思わせるようなことをやってる連中がいないのよ。ピロウズだってそこそこ売れたよ? 俺らより先に武道館やりやがってさ。でも、お茶の間に土足で踏み込むほどは売れてないじゃん!」 山中 「そうですね」 加藤 「それをやるのが俺たちの仕事だと思ってるからさ。結局、初心と何も変わってないんだよ。〈TOO MUCH ROMANTIC!〉でいいんだよ。俺たちが思ってるスタイリッシュ感がお茶の間に土足で踏み込んで、カッコいいなと思わせるまで、俺たちはやらなきゃいけないな、ってずっと思って、ずっとやってるだけなの。それが俺の原動力なんだよな」 |