ザ・コレクターズ
祝!30周年・「音楽と人」対談企画
『とてもロマティックなコレクターズと僕らの30年』

ザ・コレクターズ対談企画『とてもロマティックなコレクターズと僕らの30年』特設
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(「音楽と人」2016年4月号連載から続きます)

加藤
「ボゥディーズのこの揃いのスーツ!かなりの無敵感だよ。だから俺も今日、スーツは着てこなかったけど、フレッドペリーくらいは着てこようと思ったんだ」

TAXMAN
「僕らはこれが正装なんで。とは言え、僕らも結成11年くらいになって、ちょっと変わってきましたよ。昔は4人ともマッシュルームカットにしてたくらいだけど、今やこいつ(註:MARCY)なんて、サイド、刈り上げですよ」

加藤
「まあ、長年やってると始まっちゃうよね」

TAXMAN
「結構チャラつき始めてる」

MARCY
「そんなことないって(笑)!」

加藤
「でも、10年たってもその姿で臨むポリシーを崩さないところは羨ましいね。歳とってからのスーツって難しいんだよ。貫禄を出すスーツを着ると、ちょっと儲かった不動産屋みたいになっちゃうし(笑)」

古市
「ボゥディーズは不動産屋っぽくならないと思うけど、どう変化していくかだよね」

TAXMAN写真(1)
「ボタンとかどうするか、よく話すよね。今すでに、三つボタンで上2つ留めるのがちょっと恥ずかしくなってきてて。今一つボタンですもん」

加藤
「タイトではないかもしれないけど、一つボタンのほうがスリムに見えるもんね。三つボタンにするとちょっとコメディ入ってくるんだよ」

――最初の頃は違ったんですか?

TAXMAN
「三つボタンで、完璧なモッズ仕様でした」

古市
「モッズといえば、三つボタンの上二つがけ、が定番だから。そのルールからなかなか逃れられないの」

加藤
「ところが30代半ばのさっきの現象が起こったあたりから、だんだん始まってくるわけですよ」

古市
「じゃあ今その時期だ。これでツアーがきつくなってくると、もっと変わってくるんだよね。『もういいんじゃない? みんな自由で』って。あと時代との付き合い方もあるのよ。俺らの時は『今スーツもどうなのかな?』って雰囲気もあったし。『なんか今髪の毛長いほうがいいよね?』みたいな」

加藤
「それはほんとにあったよ。アシッドジャズとかが流行った時とか。逆に1969年のビートルズとかレットイットビーが流行ったあの頃の感じあるじゃん。デニムにロングに髭っていう。あれが一番モッズな感じがしたもんね。69年を表現する、みたいな。その時代にパツパツの三つボタン着られても『おまえわかってねーだろ』って感じになっちゃう」

古市

「それだとさ、昔からスタイルが変わってないだけでさ、全然おしゃれでもなんでもないじゃない。そこが一番難しい」

写真(2)ROY
「でもコレクターズの時代と僕らの時代で違うのは、やっぱり日本でもモッズシーンはしっかり存在してて、それを引っ張ってきた皆さんなので、モッズっていうものから外れることがなかなか出来なかったと思うし、そこから踏み出すことに、凄く勇気がいったと思うんです。でも僕らの時代は、日本の音楽シーンの中にそれがあったかっていうと、ほとんどなかったんですよ。自分の大好きな音楽の柱としてモッズは揺るぎのないものとしてあるけど、現代のバンドとしてその香りを残すってことなので、縛りがそれほどないんですよ。スーツの形もわりと今っぽく変えれるし」

古市
「我々の頃は、みんな定規持ってて『ちょっと待って……俺のVゾーンもうちょっと下で』みたいな(笑)。そういうものすごい縛りしかなかったからね」

加藤
「自分たちがモッズというスタイルを布教活動してる意識だったから、モッズの形のスタンダードをみんなに見せなきゃいけなかったわけだよ。だからもう縛る縛る。ルールが歩いてなきゃいけなかった。凄く大変だったんだから」

古市
「フレッドペリーなんて買えなかった時代だもんね」

加藤
「正規代理店もないし、並行輸入してた店に行って買わなきゃいけない。挙句の果てに、その業者とイギリスまで買い付けに行っちゃったんだから。向こうの郵便局から送ったんだよ?」

古市
「そんなだから厳しいんだよ。楽屋調査とか入って」

加藤
「普段どんな靴履いてるか、チェックするんだよ。ステージ衣装に着替えて脱いだポロシャツが、フレッドペリーじゃなかったらとんでもないことが起こるんだから。密告されて終わりだからね。『あいつ、私服はラコステ着てるんだよ?』って言われたら、モッズの信用問題だからね。もう終わりだよ」

――「あいつはモッズじゃねぇ」と(笑)。

写真(3)古市
「だから通勤にこそ命かけたよね。朝起きた瞬間からショーは始まってたんだよ(笑)。むしろステージはリッケンバッカー持っちゃうからなんとかなるんだけど」

加藤
「リーバイスの501じゃなかった日にはもうねえ!」

TAXMAN
「僕らの頃もそういう匂いは少し残ってましたよ。よくU.F.O CLUBのモッズのイベント出させてもらってたんですけど、モッズのイベントってみんな、ランブレッタとかベスパで来るじゃないですか。ライヴハウスの前にバーンとそれらが並んでる中、ROYがカブに乗ってきて(笑)」

加藤
「それはダメだよね」

ROY
「事務所の社長に『お前、ここにカブ止めるな』って言われて、かなり遠くに止めました(笑)」

TAXMAN
「だから僕、家出る時からスーツで行ってました、私服じゃなくて」

古市
「そういう意識が強い分、広がりに欠けるんだよね。メジャーになりたいって思ってるなら、どこかでそこから抜けないとダメなんだよ」

加藤
「俺たちがメジャーと契約が決まった時も、気持ち的にはモッズ・スピリッツ持ってるつもりだったんだけど、シーンの連中からは冷たい目で見られたからね。周りが手に取るように離れていった」

ROY
「それは僕らも感じましたね。もちろんシーンはすごく素敵だし、音楽への愛情があるからこそ強く固まってるんだと思うけど、それだけ自分たちがのめりこむような素晴らしい音楽があるんだから、知らない人たちに教えたいって僕らは思ったんですよね。だから僕らはそこを出て、メジャーシーンに行こうと思ったんですけど、やっぱり当時のお客さんは離れていきました。それでも、モッズ&ガレージシーンの人たちも納得してくれるものを作らないと、どっちにも顔がたたないなと思って出てきましたね」

加藤
「やっぱり、あいつら組合を出ちゃった、みたいな感じになっちゃうんだよ。そうするといきなり『あいつらモッズじゃねぇ』『R&Bもソウルもやってない』って話になって。そういう居心地の悪さもあったよね。ただROYくんと一緒で、自分はモッズをすごくカッコいいもんだと思ってるから。ボゥディーズはボゥディーズの、コレクターズはコレクターズのモッズ感を拡げればいいわけ。表現の仕方はちょっと違うけど、最終的にはモッズがこんなにカッコいいんだよ!っていうのを教えたい活動をしてるつもりなんだよね」

写真(4)古市
「だからボゥディーズが売れて、良かったよ。これが相変わらず〈ああ、モッズはやっぱりこんなもんか〉だったら残念だったけど、きちんと結果残したからね」

加藤
「だってモッズシーンから、形をそんなに変えずに飛び出した存在の中では、いちばん成功したんじゃない? 当時のモッズシーンでめちゃめちゃ人気のあったヒロトくんとマーシーが結成したのがブルーハーツだったけど、ブルーハーツはパッと見でモッズだとはわかんないじゃない? モッズの姿や形をとどめたままこんなに大きくなったのはボゥディーズが始めてだろうね。それはすごい嬉しかったよね」 

ROY
「加藤さんにそんなこと言われるなんて、こっちが嬉しいですよ!」

――じゃあボゥディーズから見て、今のコレクターズはどう見えてますか?

ROY
「このバンドは、自分たちの柱になってるものが何もブレてないんですよね。それは自分たちの目指すところなんです。表現の仕方はバンドそれぞれあるけど、根っこの部分は一緒だと思うから。コレクターズの、しっかりルーツを持ってみんなに伝えていく姿勢を、僕らも追っかけていけます」

――ちゃんとスーツが似合うままでいけると良いですね。

加藤
「そうだよ、俺らみたいになんないように気をつけないと」

古市
「こないだ俺、峯田(註:銀杏BOYZ)と撮った写真でスーツ着てたけど、見て〈あ、ダメだ〉って思ったもん。どう頑張っても醸し出すムードが……残念だね。年齢というか貫禄というか」

加藤
「やっぱりモッズカルチャーってティーンエイジャーのものだからね。10代なのに背のびして、大人には着れねぇだろっていう細いスーツを着る、そういう精神が根っこにあるから、歳とった連中がモッズモッズ言ってても、ほんとはそこに無理があんのよ」

古市
「たぶんポール・ウェラーもそれで悩んだんだと思うよ。スーツ脱いでカットソーみたいなの着たりさ。だってあいつ、それがステージ衣装で、普段がスーツだったからね。俺がユニオンジャックのスーツ着て行って、ポロシャツでライヴやってるようなもんだよ」

加藤
「カットソーなんか、俺が着ちゃうと日曜のお父さんになっちゃうんだもん。またユニクロがそれに近いもの出してきたしね」

古市
「ユニクロ品質上げてきたもんね。ステージでポリエステルはいててもわかんないからね」

――品質にもですか!

加藤
「そういうことが重要なんだよ、モッズとしては」

古市
「洋服のヨレ方ひとつで、高いかどうかわかるんだよ。クタッとするにもその塩梅が大事だからね。苦労してんのよ……でもボゥディーズも、ちょっと変化がきてるからね。そのMARCYの髪型から始まって(笑)」

写真(5)ROY
「ルーツが見えないんだよね、髪型に」

MARCY
「これ? いやいや、伸ばしてるだけでしょ(笑)」

ROY
「でもJIMはビートルズの後期そのままだし、TAXMANはボブ・ディランだし、ルーツが見えないとダメじゃん。こういうことが若い子のきっかけになって、音楽聴き始めたら良いなあって思うんですよね」

加藤
「それぞれが被んないようにしようとしてると思うんだよ。それってバンドのことを考えてるからこそそうなるんだよ。ほんとの個人プレイになっちゃったら、そういうことにはならない。そうやって、常にみんながバンドのことを考えてるっていうところが羨ましいよね」

MARCY
「ほら、意外と考えてるんだよ(笑)」

――でもモッズって、共通項がとらえにくいですよね。

加藤
「モッズってさ、形としてはスーツを着るとかいろいろあるんだけど、モダンジャズを聴いてたから〈モッズ〉だって言われる説もあるんだよ。ところがザ・フーとかが出て来た65年頃、モッズがメジャーになってイギリス中で流行るんだけど、それはビートルズ以降のブリティッシュポップというか、R&Bやソウルを吸収したロックバンドのことを指すようになってるんだよ。モッズとは言っても、時代によって聴いてる音楽が全然違うわけ。だから共通項ってあるようでわりとないの。ただ一つ言えるのは、モッズを好きになったやつだけがピピっとくるスマートさ。それがあるかないか、なんだよね」

ROY
「わかりますね」

加藤
「なんかあるんだよね。語らずともピピッとくると思う。チャック・ベリーから影響受けて同じロックンロールやってたとしても、モッズスピリッツがある連中がやるものと、全然それがないアメリカンハードロックテイストなロックバンドがやったのとは全然違うんだよな。同じ曲をやっててもだよ?」

ROY
「音でもわかりますね。特にギターの音色とかで」

古市
「着せられてるスーツじゃないけど、モッズとか何も知らない、ただギター弾けるやつを無理やり入れたバンドの音って、ギターソロ聴くともうだめだもんね」

ROY
「そういう芯をちゃんと持ってるかどうか、なんですよね」

加藤
「そう。だからボゥディーズとスカパラだと、音楽性はまったく違うじゃん。でも聴いてると〈あ、こいつらモッズが好きなんだな〉って感じるんだよ。ここだ、っていうポイントがわかるんだよね」



写真(6)
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