Kitri

SPECIAL

キトリの音楽会#3

「キトリの音楽会#3」 2021/02/15(月) SHIBUYA PLEASURE PLEASURE ライブレポート

  • Kitriによるワンマンライブ『キトリの音楽会 #3 “木鳥と羊毛”』が東京 SHIBUYA PLEASURE PLEASUREにて行われた。この公演は本来、1stアルバム『Kitrist』のツアーとして2020年4月に予定されていたものだったが、コロナ禍によって度重なる延期に。1年近く経った先日2月15日に満を持して開催された。「Kitrist=Kitriを応援する人たち」にとっても、待ちに待ったライブと言えるだろう。

    Kitriといえば「姉妹によるピアノ連弾ユニット」というプロフィールが真っ先に思い浮かぶだろうが、『Primo』『Secondo』、そして『Kitrist』という3つの作品を経て、その表現性はどんどん拡張してきた。大橋トリオ、神谷洵平をはじめとした手練れのプロデューサーたちによるアレンジ、そしてライブで様々な楽器を取り入れながら、楽曲の肌触りを変化させてきたMona、Hinaの果敢な挑戦がその証である。今回も、そんなKitriの音楽性の広がりをじっくりと味わえるライブになった。

    photo

    開演時刻。拍手に包まれながらMonaとHinaの2人が登場すると、ピアノ連弾でオープニングとなる「水族館(クラシック曲)」「鏡」を披露。まずピアノの調べを丁寧に聴かせてくれるところにKitriらしさを感じたが、ピアノという一見シンプルな1台の楽器が低音から高音まで幅広い音域を担うからこそ、姉妹の連弾の中には光と闇が交互に行き交うように聴こえてくる。「鏡」はそんな“Kitriの連弾”を象徴するような1曲だ。

    photo

    2曲の演奏が終わったところで、早速本日のゲストとして、羊毛(羊毛とおはな)が迎え入れられた。華麗なギターサウンドを交えて、原曲でのアレンジも印象的だった「Akari」を聴かせたのも束の間、今回も驚かされたのは「矛盾律」だ。Monaがピアノとボーカル、羊毛がギターを弾きつつ、Hinaがウッドベース、カホン、ウィンドチャイム、コンサーティーナ(小さなアコーディオンのような楽器)といった珍しい楽器たちを1曲の中でとっ替えひっ替え。ハンドクラップも交えることでこの曲に潜む様々なリズムが露わとなり、独特の跳ね感が印象的な演奏となった。もともと反意語の羅列という挑戦的な歌詞を取り入れた楽曲だったが、ライブでも「矛盾律」は毎回違う顔を見せてくれる。ギターをサポートに任せることで、Hinaがリズムを刻む役割を重点的に果たしていることも新鮮で、まるで「矛盾律」という名の完成形のない深い物語を見ているかのようだった。

    photo

    「青空カケル」を温かい音色で披露した後、会場内の換気を行う合間のMCで、「今日いらしている皆さんは自動的にKitristですよ」「発売後、思わずCDショップでKの欄を探してしまいました」など、初のフルアルバム『Kitrist』がリリースされた喜びを改めて振り返った。この日の天気をそのまま歌い上げたような「雨上がり」に続いて、ライブはカバー曲のパートへ。披露されたのは、久保田早紀「異邦人」、欅坂46「二人セゾン」の2曲だ。どちらも意外な選曲ながら、Kitriの演奏で聴くとスッと体に馴染むから不思議である。「異邦人」は多くのアーティストにカバーされてきた言わずもがなの名曲。ソロアーティストによるカバーが多い印象だが、Kitriのようにコーラスを駆使した歌唱で聴けるカバーというのは珍しいかもしれない。紫の照明と夜空のような舞台演出で、ちょっとした"大人な空間”が作り出されていく。そして「二人セゾン」も、テンポをガッツリ落としたピアノアレンジで聴けるというのは貴重だろう。この曲でもコーラスの美しさが楽曲に彩りを与えており、「二人セゾン」が本来持っている歌謡的なメロディを新しい形で引き立てる。これまでのカバーの選曲を鑑みても、歌謡性あるメロディと切ない歌詞というのは、Kitriの演奏と抜群の相性を見せてきた。〈一瞬の光が重なって/折々の色が四季を作る〉でMonaとHinaの歌唱が重なる瞬間は、この上ないほど儚くて美しかった。

    続く「バルカローレ」でHinaが手にしたのは、ライアーと呼ばれる小さなハープのような、これまた珍しい楽器。神秘的なオーラすら漂う同曲に、羊毛のマンドリンとHinaのライアーが木漏れ日のようなアレンジを加えていく。次の「春」まで羊毛が本編のサポートを務めるが、こうして第3のメンバーがライブで重要な役割を担うのも、「姉妹による連弾ユニット」を飛び越えていく新しい挑戦だと言えるだろう。同時に、それでも揺るぎないKitriらしさとして、ピアノ演奏はもちろん、2人の歌のハーモニーがいかに個性的な役割を果たしているかを実感させられた。 羊毛がステージを去ると、4月に2ndアルバム『Kitrist II』が発売されることが発表された。「皆さんの春に寄り添う作品になったら」という想いを丁寧に述べるとともに、2月24日に先行配信リリースされるという収録曲「未知階段」を披露した。この日8曲ぶりに披露された連弾のみの曲が未発表の新曲であるという演出もなかなか粋だが、この曲が本当に素晴らしいのだ。2人のピアノが激しく交差する連弾の醍醐味をしっかり聴かせ、不穏な空気感が漂うMonaの低音と、春めいたHinaの高音が混ざり合い、“未知階段”という見知らぬ場所へ誘って我々の心を躍らせる。サビでの歌い上げやアッパーなテンポ感も相まって、Kitriの中では特にポップス色も強く感じられ、この曲が『Kitrist II』の中でどのような役割を果たすのか非常に楽しみになった。そして「別世界」をしっとりと、「さよなら、涙目」を晴れやかに歌い上げ、本編が終了した。

    photo

    アンコールでは再び羊毛を招き入れ、「羊毛さんがSNSで私の身長当てクイズを出してくれるんですけど、なかなか正解が出なくて......」と緩くて楽しいMCで場を盛り上げると、そこから、たま「パルテノン銀座通り」のカバーを聴かせたのだから、これまた驚きだ。いきなりピアノから入るのではなく、原曲の良さを活かしてギターとMonaの歌から入るのが新鮮で、Kitriのカバーのレパートリーの広さには感嘆させられる。フラワーカンパニーズ「深夜高速」のカバーを初めて聴いた時もそうだったが、世代が上のロックバンドの曲をセレクトすることで、彼女たちも自ら「Kitriらしさ」の壁を壊しにいってるのかもしれない。それを音源以上に感じられるのがライブなのだから、やはりKitriは面白い。そして「自分たちが歌えばKitriになる」という自信もますます漲ってきているのだろう。今後どんなカバーを聴かせてくれるのか、早くも次なるライブへの期待が高まる。

    最後はKitriの名刺曲「羅針鳥」を披露し、「Lento」で締めくくった。〈夕映えが綺麗/今まばたきはできない/焼き付けた瞳の奥/まだここにいたいと思った〉というHinaの優しい筆致の歌詞が、「このライブが終わらなければいいのに」という会場内の空気と重なって、温かな高揚感を生み出した。羊毛という心強いギタリストをサポートに迎え、Hinaが多様な楽器に挑戦し、ピアノ連弾ユニットの枠に収まらない刺激的なパフォーマンスを見せてくれたKitri。しかし何度か特筆したように、静謐なピアノ演奏と、繊細な歌やコーラスワークという持ち味もしっかりと感じられたライブであり、それは姉妹という関係性でしか出せないものだ。己の武器に磨きをかける2人は、これから新たなKitristとの出会いを糧に、ますます大きな空へと羽を広げていくことだろう。2ndアルバム『Kitrist Ⅱ』リリースまでもうまもなくだ。

    テキスト:信太卓実(Real Sound) / 写真:Masatsugu ide

  • <セットリスト>
    M1 水族館(クラシック曲)
    M2 鏡
    M3 Akari
    M4 矛盾律
    M5 青空カケル
    M6 雨上がり
    M7 異邦人
    M8 二人セゾン
    M9 バルカローレ
    M10 春
    M11 未知階段
    M12 別世界
    M13 さよなら、涙目
    E1 パルテノン銀座通り
    E2 羅針鳥
    E3 Lento

  • (2021/2/17掲載)