QUBITオフィシャルインタビュー
2023年4月24日。新たなバンドが誕生した。 その名は、QUBIT (キュービット)。 そのメンバーのラインナップに驚きの声を上げる人も多いはずだ。 Daoko(Vocal)、網守将平(Keyboard)、永井聖一(Guitar)、鈴木正人(Bass)、大井一彌(Drums) これはスーパー・バンドと呼んで差し支えないだろう。 それぞれがいまの音楽シーンに欠かせない、その名前をアルバムやライヴで見つけるたびに注目が集まる、そんなアーティスト/ミュージシャンなのだから。 このメンバーが、QUBITというバンドで活動をスタートする。
お気づきの方もいるだろう。この5人のメンバーは2019年からDaokoのライヴ・バンドとして共に活動してきた。当時のDaokoは新たな活動形態を模索していた時期で、そんなさなかにYMO結成40周年記念トリビュート・イベント「Yellow Magic Children」に出演、網守将平と出会う。
「『在広東少年』を歌ったときは緊張しましたけど、ライヴで生のバンド編成で歌ったのは初めてだったので、その楽しさを経験したのは大きかった。YMCのバンドで鍵盤を弾いていたのが網守さんでした。早速、網守さんのアルバムを聴いてみたらすごく面白くて」
(Daoko)
東京藝術大学音楽学部作曲科を首席で卒業した網守は、現代音楽、電子音楽、サウンドアートの分野で作品を発表し、近年はポップ・ミュージックでも活動を展開し、2016年以降はソロ・アルバムをリリースしている気鋭の作曲家/音楽家。
「役割としてはあくまでコンサートのハウスバンドの一員なので、裏方に徹して弾いていたんですが、当時Daokoのプロデューサーであり『在広東少年』でもステージをご一緒した片寄明人さんが気にかけてくれて、そこから始まったんです。高野寛さんがフックアップしてくれた『Yellow Magic Children』がDaokoバンドにも繋がっていったのは、今思えば感慨深いですね」
(網守)
生バンド編成で歌ってみたいという欲求が募ったDaokoは2019年7月、「DAOKO 2019 “気づき” LIVE – Enlightening my world」で、網守とギターに永井聖一を迎えた3人編成でライヴを披露。
「僕はクラシック出身で、バンド経験もなく、ミュージシャンの知り合いもほとんどいなかったんですよ。高野さんや片寄さんのように僕の音楽や演奏を偶然見つけてくれた人に助けられてきて今がある」
(網守)
2006年から相対性理論に参加した永井聖一は、コンポーザー/プロデューサーとしても幅広く活躍する一方、ギタリストとしてもTHE BEATNIKSなど様々なミュージシャンと共演。
「僭越ながら、永井さんは僕の指名です。十代から二十歳の頃にかけて相対性理論を熱心に聴いていた世代なので」
(網守)
クラシック出身ながら、現行のポップ・フィールドの音楽にも親しんでいた網守にDaokoの音楽はどう響いていたのだろう。
「Daokoはインディーズからメジャーの1、2枚目くらいまではリアルタイムで聴いて、明るい声なのに独特の屈折感が面白い存在だなと。音楽的にもフューチャー・ベースやハイパー・ポップをいち早く取り入れているのも興味深かった」
(網守)
「網守さんや永井さんと出会った頃はちょうど過渡期というか、新しい表現を考えていた時期で、右も左も分からないまま音楽の世界に飛び込んで、ようやく自分のヴィジョンが見えてきた頃でした」
(Daoko)
「僕は片寄さんを通して彼女の存在を知りましたが、改めて聴くとインディーズ時代のベッドルーム・ポップっぽい曲とか、稀有な才能だと思いましたね」
(永井)
同年秋、東京・大阪で開催された『enlightening trip 2019』には大井一彌、鈴木正人が参加(ギターは西田修大)。初のリズム隊を入れたバンド編成では、Daokoのそれまでの曲を網守がリアレンジし、新たな形式でのライヴの幕開けとなり、更新されたバンドサウンドで新旧の曲を聴かせた。
「ライヴのプロデュースも務めていた片寄さんのおかげでベスト・メンバーが揃いましたね」
(網守)
LITTLE CREATURESとして1990年にデビューした鈴木正人は、ベーシスト/アレンジャー/プロデューサーとして30年以上に渡り活躍。UA、大貫妙子、高野寛、ハナレグミなどこれまで参加したアルバムやライヴは枚挙に暇がない。
「僕はこのメンバーの中で最年長になるんですが、ベテランとの仕事も多いせいか、メンバーが若いのは新鮮でしたね。まぁ音を出せば、年齢は関係ない。若いメンバーに必死でついていくだけです(笑)」
(鈴木)
メンバーの中では、Daokoに次いで若いのが1992年生まれのドラマー/トラックメイカーの大井一彌。DATS、yahyel、Ortance、LADBREAKSに所属しながら、セッション・ドラマーとしてもmilet、THE SPELLBOUND、アイナ・ジ・エンドなどジャンルを超えて活躍中の大井は最近ではUAのバンドでも鈴木と組んでいる。
QUBITのメンバーが全員揃ったのは、2020年2月の「DAOKO 東名阪ツアー「二〇二〇 御伽の三都市 tour」。世界がパンデミックで覆われる直前のツアーだった。Daokoはライヴで「グルーヴとはこういうものなんだ!」と体感したという。彼女特有の世界観を音で構築し、さらなるレヴェルに昇華したバンドの演奏は、この時点ですでに次の何かを予兆させるものだった。
それは、2020年のDaokoの 4th ALBUM『anima』で明らかになる。アルバムのレコーディングには網守、永井、鈴木、大井が参加し、共作・編曲を担う曲が複数収録された。中でも網守が作曲・編曲を手がけた「anima」は、スリリングかつ大胆な展開で、網守の異才ぶりを改めて認識させられる曲だった。
「スゴい曲が来ちゃったなと、デモの段階で感動しました。言葉をのせるのはハードルが高かったけれど、完成したらヤバいものになるだろうなという予感はあったし、実際にそうなりました」
(Daoko)
「「anima」は、このメンバーでの演奏を意識してつくりました。このメンバーでなければ成立しない曲という意味では現在に繋がる起点になったと言えますね」
(網守)
それまでも様々なクリエイターとコラボレーションを重ね、「打上花火」のようなビッグヒットもあるDaokoだが、新たなミュージシャンとの出会いにより自分の力量が試され、覚醒した部分は大きい。
「皆さんが自分の個性を出しつつ、Daokoに似合うだろうなという音に仕立ててくれたおかげです。お互いが刺激しあいながら音楽をつくる楽しさを知ったことが、QUBITに繋がっていったんだと思います」
(Daoko)
コロナ禍により、『anima』のライヴは2021年1月の渋谷さくらホールまで待たなければなかなかったが、「A(nima) HAPPY NEW TOUR 2021」では再び同じメンバーが集結し、その模様は世界に配信された。
その後も草月ホールやビルボードライブでDaoko、網守、永井に四家卯大(チェロ)を迎えた編成でのライヴを行い、2022年にはDaoko音楽活動10周年記念ライブ「Daoko 10th Anniversary Live Tour 2022」をQUBITとなるメンバーで開催。
QUBITに至る道はこうして4年の歳月をかけて徐々に切り開かれてきた。
「Yellow Magic Children」で網守とDaokoが遭遇し、ギタリストとしてTHE BEATNIKSに参加した永井が加わり、大井と永井は昨年9月に開催された高橋幸宏50周年記念ライヴに参加、鈴木と網守は大貫妙子のステージでも共演とするなどYMO周辺に縁のある彼ら。Daokoのライヴのサポートとして集まったこのメンバーが、QUBITとして新たなヒストリーを刻むことになった理由を永井が語る。
「この3年ほどそれぞれが色んなセッションの現場で一緒になることもあったんですが、サポートという形では目的が見えづらいことも多く、せっかくポテンシャルの高いミュージシャンが集まったんだから、このメンバーでアルバムをつくりたいと思ったんです。そうすると、一度仕切り直しが必要で、名義を変えるかバンドにするかして、焦点を絞る方がいいんじゃないかと」
(永井)
昨年11月、Daoko10周年ツアーの初日の札幌で、永井はバンド結成の口火を切った。
「Daokoは様々な形態の活動を並行して行う才能(タレント)なので、ある日はトラックメイカーとクラブで、ある時はアコースティック・セットでと、活動が多岐に渡っている。でも、その中でこのメンバーを埋もれさせてしまうのはもったいない。網守くんがアレンジした既存の曲も、『anima』以降につくる曲にしても彼のシグネチャーが刻まれ、それを構築できる面子が揃っているのを活かさない手はないだろうと」
(永井)
「僕もこのメンバーで何とかいい形にできないだろうかと考えていたところもあり、永井さんの提案を聞いて腑に落ちたし、どう考えてもバンドにした方が愉しいに違いないと思いましたね」
(網守)
セッション・ミュージシャンやアレンジャーやプロデューサーとしても引く手数多の彼らが、あえて「バンド」という形にこだわったのも興味深い。
「僕以外の3人ははなからバンドマン。僕だけが出自が異なり、途中からポップ・ミュージックの作・編曲を手がけるようになり、引っ張り出されるように出て来たもんだから実質的にバンドをやるのは初めて。だから、永井さんの誘いには即答でした」
(網守)
LITTLE CREATURESで30年以上のキャリアを築いてきた鈴木は、バンドの長短を知り尽くした上で、参加を決めた。
「決めた理由は、このメンバーだったら面白いことが出来るんじゃないかというのが一番ですね。人間的にヤバそうな人もいないし(笑)。それ、バンドはすごく重要なポイントなんですよ」
(鈴木)
大井はすでに複数のバンドに所属しながら、さらにQUBITに参加することになるわけだが、そこに逡巡はない。
「QUBITはバンドという看板がありながらも個が確立された集団になるという気がします。いわゆる同じ釜のメシを喰ってみたいな昔ながらのバンド・ストーリーには当てはまらない、バンドという呼称さえ定かではないバンドですかね」
(大井)
「このメンバーでDaokoのライヴを積み重ねてきたことが礎にはなりましたが、QUBITでの活動、音楽制作は今までとは別もの。それはバンマスの網守くんにかかっているんだけど」
(永井)
「私も最初からこのメンバーでバンドをやってゆくのは大賛成だったし、Daokoとは違う音楽をバンドでどう表現できるのかはワクワクするし、愉しみでしかないですね」
(Daoko)
QUBITとして近いうちに発表される音楽は、「G.A.D.」という曲の仮音源を聴く限り、規制のジャンルに収まらない斬新で刺激に満ちた熱量の高いものだ。メンバー全員が曲をつくる才能に長け、ミュージシャンとしても確固たるスタイルを持ち、なおかつ時代にジャストな音を鳴らすことができる資資は、どんな進化を遂げてゆくのだろう。
「言い方はありきたりですが、このメンバーにしかできないQUBITの音と世界にしたい。あと、このバンドではちょっと笑えるユーモアを大事にしたいと思って」
(永井)
永井は、QUBITを個別のヒーローたちがチームとなって活躍するアベンジャーズに例える。
「僕が曲をつくってアレンジは任せるとか、メンバーのアイディアを柔軟に取り入れていきたいですね。バンドをやる醍醐味を僕も味わってみたいから」
(網守)
「鋭意制作中」のアルバムは、まだ少し先になりそうだが、このハイブリッドな新人バンド=QUBITがシーンをとびきり面白くかき混ぜてくれるであろうことは相違ない。
「QUBIT Assemble!」
取材・TEXT 佐野郷子