河合奈保子ファンなら誰もが自分だけの思い出のコンサートがあるはず。けれど、なんでも「最初」というのは非常に興味深い。河合奈保子さんは小さい頃からピアノにマンドリン、そのほかギターなどいろいろな楽器が弾ける他、譜面も読めるし、絶対音感もある。今だったらきっとギター女子として活躍していたかもしれないほどの才能の持ち主。デビューしてわずか4ヶ月半、持ち歌は10曲しかないのに東京・芝の郵便貯金ホール(現在のメルパルクホール)で1stコンサート「カナリー・コンサート・Part1」を開くことになった。 オリジナル作品の「大きな森の小さなお家」、「ヤング・ボーイ」、「ハリケーン・キッド」などを披露するのはもちろんのこと、「ヴォラーレ」、「パローレ・パローレ」、「オー・シャンゼリーゼ」、そして「日曜ははだめよ」など、果敢に過去の名曲に挑戦し見事歌いきっている。こういうことができるのもやはり彼女に音楽的素養がきちんと備わっているからだろう。音を外すことなく、感情をのせて歌うことができるから、いろんな歌を歌い切ることができる。初期の歌から、「ヤンクグ・ボーイ」ほか短調から長調へと転調する難しい歌が多いのも彼女がアイドルとしてずば抜けた実力をもっていたからだろうと想像ですきる。
人の気持ちは伝わるものだ。気持ちよく歌えれば、それは人に届く。河合奈保子さんと奈保子ファンは「歌」という共通のキーワードを通して一つに結ばれる。その様子はまさに現代でいうところのフェス。最初の野外コンサートは東京・日比谷野外音楽堂。コンサート前にはスタッフと強化合宿を行い、1981年7月28日、彼女は6000人のファンとともに熱く燃えた。この成功に端を発し、河合奈保子さんが20歳を機に始めたバースデー・コンサートは1983年から6年連続、彼女の誕生日である7月24日に、我々の聖地であるよみうりランドEASTで開催された。どのコンサートも趣深く、ファンのなかでは宝物になっている。
ファイナルバースデーコンサートでは、もはやアイドルの枠を超え、観客と呼応し、そして歌声をうち響かせるアーティストとしてそのステージに立っていた。ちなみにEASTのバースデーコンサートは毎年ビデオリリースされていたことは、勿論ご存知であろう。合宿風景を中心に構成された1983年のコンサートの模様は2007年に発売されたオリジナルBOX「Naoko Premium」の特典DVDとして、僅かなシーンではあるが垣間みることが出来る。
そこにはただ音楽が好きだった少女がディーヴァ(歌姫)としてその翼を広げてゆく成長譚が描かれている。ファンとともに大人への階段を登り、そして、ファンにも奈保子さんにも今がある。
そのあたりの話は、また来週。