〈スウィート・ロボッツ・アゲインスト・ザ・マシーンサン〉のメンバー〈バカリズムサン〉、〈テイサン〉、〈スナハラサン〉の3人に3枚目のニューアルバム『3(さん)』についてインタヴュー。三人三様それぞれの視点からアルバムについて語ってもらいました。ただ、人見知りの3人であるがゆえ、「3人そろって話をするのは気恥ずかしい」とのことで、インタヴューは個別にロボット(スヰート・ロボコ、スヰート・ロボオ、スヰート・ロボミ)が担当することに。前代未聞のAIインタヴューをお楽しみください。
その3 砂原良徳 インタヴュー
インタヴュアー●スヰート・ロボミ
インタヴュー: バカリズム>>> / テイ・トウワ>>>
−−こんにちは砂原さん。インタヴューを担当するAIスヰート・ロボミです。
えーっと。どう反応すればいいんだろう。
−−私はインタヴューロボットです。いろいろとお聞きしますので、気兼ねなくいろいろとお話ください。
あんまりしゃべることがないかもしれませんけども。
−−ではまず、今回のプロジェクトに加わった経緯を教えてください。
1年半くらい前だったのかな。テイさんに「女優さんのポエトリーリーディングでアルバム作ろうと思ってるから手伝って」と言われ、「ああ、わかりました」と。テイさんの仕事でちょこちょこシンセを足したりとかはずっとやってるんで、その延長だなと最初は思ってて。で、その後……どうなったんだっけ………。
−−「レディオ(Radio)」のデモ音源をテイさんが聴かせてくれたんじゃないですか? 夏フェスのときに。
あ、そうそう。よく知ってるじゃないですか。
−−ビッグデータから拾ってきました。
思い出した。だから最初、これこれこういう女優さんとやるとテイさんから言われたんですが、僕は誰ひとりとしてわからなくて(笑)。地上波を観たりしないんで、みんなの話題になってるものがなんなのかとか知らないんです。最近衝撃だったのは、ひさびさにテレビを観たら、知らない人が出て、知らない人のモノマネをしてることだったんですよ(笑)。
−−まりんには伝わらないモノマネ選手権、ですね。
うわ、オレ、そういうところまで来たんだなっていう実感がありましたけども(笑)。
−−思えば遠くへ来たもんだ。
だからまあ、音だけやってればいいのかなと。で、その後、テイさんから「バカリさんとやることになりました」と連絡がきて。
−−バカリズムさんのことは知ってましたか?
知ってました。なんかあのー、県の形を持ってネタやる人っていう。
−−「都道府県の持ち方」ですね。
そうそう。あれだけは知ってた。
−−それはテレビで観たんですか? 数少ない視聴で?
どうなんだろう。写真で見ただけだったのかもしれない。で、まあ、バカリさんというのは県の人だなという認識はあって。「そうですか、わかりました」と。で、テイさんが「2曲ぐらい書いて」と。2曲ぐらいならいいかと思って「いいですよ」という話をして。そうしたら、そのプロジェクトはスウィート・ロボッツ・アゲインスト・ザ・マシーンでやるという話になっていて。テイさんから、「まりんもメンバーだから」って言われたんです。
−− 一方的にメンバー加入宣告。
知らないところでメンバーにされてしまいました(笑)。で、僕は、プロダクション的には、2曲作るということと、テイさんの曲をアレンジしたりする、いわゆるポストプロダクション、後半の作業をするということだったんですが、アルバム全体の音を調整するミックスダウンとマスタリングという最終作業があるんですが、それも全部やってとテイさんに言われて。自分の作品では、たまに自分でやってしまうこともありますけれど、他の人と一緒にやるときにミックスダウンまで僕がやるというのは実は初めて。これが結構寿命が縮む作業なんですよ。
−−砂原さんが作ったのは「非常識クイズ(Insane Quiz)」と「捨てられない街角(Boxes)」の2曲ですね。
「クイズ」を作ったときは、どんな言葉が乗るのか、何もわからない状態で作ったんです。僕は、曲を作るときは曲の背景や物語みたいなものを想像して作るんですが、「クイズ」のときは、カップルがビーチに寝転がって話をしていて、そのうち何かが起きる、みたいな感じにしようと。
−−確かに。茫洋たる海のイメージというか、リゾート的な雰囲気がありますよね。
そう。それで、ちょっと西海岸ぽい感じの音になっているんです。あと、バカリさんの声や女優さんの声が入ったりすると、楽曲に入っているチキチキチキっていう音や、ガサガサガサっていう音が声とバッティングしてじゃまになるんです。だからそういう音をちょっと少なくしたりしましたね。
−−「捨てられない街角」は直球のラテンムード歌謡です。テイさんは、「まりんは最初から『じゃ、ラテン歌謡でいきます』と言った」と。
テイさんからは、メタファイヴのときもそうですが、「リード曲を書いてよ」っていう注文がよくあるんです。最初は「バカリさんは歌をあんまり歌えないからセリフものになると思う」という話だったので、セリフがほとんどで最後のキメのところでちょっと歌う、みたいなものを作ったんです。そうしたら、テイさんが「歌が少ない!」と。「え、歌いらないって言ったじゃん!」って(笑)。もともと曲をバックにしゃべるという構成だったんで、メロディは入っていたんです、すでに。だからそれを普通に歌にして。歌詞はまだなかったので、自分で物語を考えて。
−−どういう物語ですか?
アルゼンチンの漁港から日本の漁師町へ出稼ぎにやって来た男がいて、日本人女性との恋愛が始まるんですが、彼は故郷に家族を残しているっていう(笑)。だから、ラテンぽいし、ちょっと漁師町の雰囲気が混じってるんですけど。でも、その上にバカリさんが乗せた詞は、それとは全然関係のない、ただただ部屋の中に箱が積み上がっててなんとかしてほしいっていう(笑)。
−−いい曲だなと思いました。
こんな曲、オレ作れるんだなと思いました(笑)。やってるときはあんまわかんなかったんですけど。できあがってミックス終わって聴いてみたら、わりとちゃんとした曲だなって。こういった曲って、面白く作ろうと思っても面白くならないんです。まじめにやればやるほど面白くなってしまうという。歌詞はふざけてますけど、歌い方は一切ふざけてないじゃないですか。むしろ本気っていう。
−−あれ、こういう曲ってあったかなという、デジャヴ感もあります。
そうですよね。僕も作ったとき、あれ、これ誰かの曲じゃねえか? と思って、まわりのスタッフに「この曲知ってる?」って聴かせたんです。スタッフは音楽に携わっているから詳しいじゃないですか。でも、誰もなんも言ってこないんで、あ、これ大丈夫なんだなって(笑)。
−−ありそうでないラテンムード歌謡。結構、計算して作られましたよね。緻密な曲だと思いました。
計算は結構してます。普段曲を作るときは、あんまり計算はしない。わりと自分の感性だけで作っていくんです。でもこの曲だけは、結構計算で作りました。めずらしく。
−−では、1曲づつお聞きしていきます。まず1曲目「フューチャリズム(Futurism)」。この曲に関しては、どういった状態でテイさんから音がやってきましたか?
音は8割くらい現状のものが入っていて。いちばん問題だったのは構成。構成があんまりできてなくて。まわりのところにちょっと東洋っぽいサウンドがあるんだけど、最初はそれがもうちょっと短かったんでそれを倍にして、曲全体の折り返し地点として機能するようにして。その変化がいちばん大きかったかな。
−−そもそも今回のアルバムに関して、テイさんから「音はこんな感じでまとめたい」と話があったり、打合せをしたりということは?
なんにもなかったです(笑)。だから、どういう感じなんだろうなと、音がくるまでわからなかったところがあって。
−−じゃあ、面と向き合って相談はしていない。
全然会ってない(笑)。テイさんと会ったの2回だけだもん。バカリさんとも「捨てられない街角」のレコーディングで初めて会ったのと、アー写を撮ったときの2回しか会ってないし。
−−3人とも極度の人見知りだから、全員集合してもまったく会話がなく、目も合わさないと聞いています。
話てみたいと思わないわけではないんだけど、だからって、突然関係のない話もできないし。僕、テレビ観てないし。
−−人見知りすぎです。
ジェネレーションもちょっとみんなバラバラなんだよね。バカリさん、僕、テイさんでみんな5歳づつくらい違うんです。でも、ちゃんと3人並んで写真を撮りましたから。あれはもっとも接近した瞬間でしたね(笑)。
−−無言のまま写真を撮ったんですか。
ほぼ無言ですね。
−−ところで、テイさんとの最初の出会いは憶えていますか?
電気グルーヴの頃です。23、24年前になるのかな。ピエール瀧がテイさんともともと知り合いで、僕は直接知り合いじゃなかったんですけど、間に人が入れば知り合い、みたいな。で、ニューヨークへ行ったときに、テイさんのスタジオへ遊びに行って。そのときテイさんはGEISHA GIRLSをやってる頃だったと思うんです。
−−砂原さんが『カルトQ』(93年・フジテレビ/特定のマニアックなジャンルに特化したクイズ番組。砂原良徳はYMOの回に出場。予選を勝ち抜き見事優勝)に出たときは、テイさんについての問題が出題されたところで、ちょっと他人行儀な感じで答えていました。
あのときはまだ会ってなかったんですよ。テイさんと槇原敬之さんの問題は出ると思ってたんで、予習していきましたけど(笑)。
−−解答ボタン押してる砂原さんはカッコよかったです。
あのボタン、押しても押しても反応がなかなか(笑)。あのとき、問題出ても誰もなにも答えない場面が結構あって。でも、誰も答えなかったら番組になんないじゃないですか。だから、僕、間違えてるかもしれないけど頑張って答えているんですよ。
−−YMOがアメリカのライヴで使用していた機材の問題ですね。
まさにそう。あのときも沈黙があって。誰も押さなくて。しょうがねえってバンと押して。
−−それは、まわりは一般人の解答者だけど、自分はそういう業界の人間だから答えなきゃいけないという役割を背負っていたということですか。
もちろんそう。それで見事に間違うんですよ(笑)。でもあれ、ひっかけ問題だった。あのときは、教授(坂本龍一)も矢野(顕子)さんも細野(晴臣)さんもみんなプロフェット5を使ってたんですけど、あの日だけ、教授のところにプロフェット5がなかった。なんでなかったかというと故障した日だったから。あとで調べたの。悔しくて。
−−いい話です。
話がそれちゃった(笑)。で、テイさんがニューヨークから帰ってきて、三軒茶屋付近に住んでいて。当時、僕も家が近かったんで、たまに遊びに行かせてもらったりしてました。そのときは普通にしゃべってましたよ。「そこにラーメン本あるから見ていいよ」とか。
−−男の子の話題といえば、まずはラーメンからです。
でも僕、ラーメン食べないんです。「え、ラーメン嫌い?」「あんま食べないっす」で会話が終わるという(笑)。
−−それじゃ仲良くなれないじゃないですか。
中華料理で小分けにされたラーメンは食べるんだけど、丼一杯食べるのはちょっと。あとカレーライスも食べないですね。
−−男の子が好きな2大ご馳走をどちらも否定するんですか。
カレー食べるとね、その後の作業がうまくいかない。自分の中にデータがある。
−−じゃあ、普段はなにを食べてるんですか?
野菜は食べます。肉も少しは食べます。でも、ギャートルズみたいな肉のかたまりを食べたり、鹿のおしりに噛みついたりはしないです。肉のかたまりに興味がないんですよ。
−−あんまり噛まなくていいものが好きなんですね。
ゼリーは好き。もうね、満腹は敵です。全然いいことがない。
−−2曲目「ダキタイム(Dakitime)」。この曲はテイさんぽさが凝縮されていますよね。
この曲は仕上げるのにはちょっと苦労しました。僕もそうだけど、テイさんって音楽をちゃんと勉強してきた人じゃないんです。だから、コード進行や和音に対してオリジナルの理論があるというか。普通のセオリーにあってない音の置き方をしてくるんです。それがテイさんの特徴で、「すごいね!」って言われるところ。音楽がわかってる人からすれば、どうやってあれが出てきて、どうしてあれが成立するのかと思うんです。その感じが僕はうまくつかめなくて、つじつまを合わせるのに苦労したんです。最初はキレイにしようとしたんです。セオリー通りにしようと。でも、そうすると、テイさんサウンドじゃなくなってしまう。ルールを破っても成立させる、そういう面白さっていうんですかね。それはホントにテイさんの昔からの特徴で。そこは誰でもできることじゃないと思います。結構、変わってますよ。僕も普通からすればちょっと変わってるほうだけど、もっと変わってる。
−−3曲目「サセル体操(Gymnastics to make)」にもそういった「テイさんぽさ」が。
この曲を聴いたとき、こんないいトラックをなんでこんなところで使うんだろうって(笑)。この選手をこの打席に立たせる意味が最初はちょっとわからなかった。もっといい打席があるんじゃないのかなって(笑)。ちょっと不思議というか、これも誰にでもできるものじゃないなと思いましたね。そもそも、どうやって作ってるんだろうなと。ギターも生で入ってて、独特のオリエンタリズムがあるんですよね。これはオケがすごい好き。バカリさんのセリフも面白いんだけど、ただなんか、もうちょっと、この曲じゃなくてもいいんじゃない?って(笑)。テイさんのソロとか、もっとなんかいい打席があるんじゃないのかなあって。もったいないっていうか(笑)。このトラックはいちばんカッコいいんじゃないかと思うなあ。
−−4曲目「覚えてはいけない九九(Do not remember 99)」についてはどうですか?
バカリさんの言葉を最初に聴いたとき、意味がよくわかんなくて。「これ、どういう意味なの?」ってテイさんに聞いたもん(笑)。やっぱり、人間っていうのは、法則を探そうとするんです。音楽でもそうで、僕とか石野(卓球)くんとかは、壊れかけのエアコンがウィーンウィーンって鳴ってるのを聴きながら、「こういうのって完全に音楽だよな」って言ってたことがあるんだけど(笑)、周期や法則を探そうとするんです。でも、この歌詞には法則がない。それで、意味を聞いたんです。
−−だとすれば、それはバカリズムさんがイメージした通りに聴こえたということです。
じゃあ、オレはいちばんのカモだ。いい客なんだ(笑)。だって、探したくなるじゃない。Xとかでてくると、このXには何が入るんだろうと思っちゃうし。〈しご〉はやっぱ「死後」なのかなとか、〈さんご〉は「産後」なのかなとか。
−−「暴走するAI」という感じにも読めます。
世の中のAIに対するイメージって、擬人化されすぎてて、お前らそれ間違ってるよ! って僕はいつも思うんです。AIが人間の仕事を奪うとかさ。確かに人間の仕事を奪うもしれないけれど、人間がやってることをなにもかもAIがするようになるかっていうとそれはやっぱり違う。AIの開発に携わっている人がいちばん突破したいところって、人間と同じ価値観を持たせることだと思うんです。計算とかロジカルにルールが決まったことを処理していくのは普通のプログラムでもできることだし、そんなのは全然クリアできてること。要は感性、どういうふうに感性を持つのか。この曲がいいとか、この絵がいいとか、それが判断できるようになるかならないか。そこがまずは第一ステップなんじゃないかなと。
−−たとえば、砂原さんはコンピューターで音楽を作っているわけですが、自分では思いつかないような音やメロディをAIに出してもらいたいとか、そういうことを思うことは?
僕がAIにお願いしたいのは、判断ですね。いいか悪いか。音を作るのは全然こっちでできるから、AパターンがいいのかBパターンがいいのか、その判断をしてくれるのがいちばんいい。この音がここでこうなったら、この先こういう展開になるけれど、こっちの音を選ぶとこの先行き詰まるでしょうとか、そういうことを教えてほしい(笑)。人生でもなんでも、選択の連続じゃないですか。この人と結婚したら楽しい未来、この人と結婚したら地獄が待ってるよとか(笑)。ただ、AIのアドバイス通りに音楽ができあがったとして、AIが「この曲最高!」って判断しても、自分がつまんないと思ったら意味がない。だから、そういう意味でも「感性」をどう持つかということじゃないですかね。でもひょっとしたら、人間がつまんないと思っても、AIが正しいと思うほうが正しいという、AIの感性に支配される世の中になっていくかもしれない。たとえば、駅に大きな壁画が飾ってあって、それをちっともいいとは思わないんだけど、AIがいいと言ってるからそれでいい、そういう未来は想像できます。というか、すでにそうなってる部分はありますよね。機械の判断のとおりに人間が動いてるというのは実際にあるわけで。AIがマスターで人間がスレイブになる、そういう世の中がやってくるんだろうなとは思います。でも、その頃には僕らはもう生きてないからね(笑)。
−−5曲目「アニマル(Animal)」は「ダキタイム」と同じくバカリズムさんと夏帆さんのかけ合いが面白いです。
夏帆さんの声はいいと思いました。やってていちばん絵が見える。実は、この子の力はすごく大きいと思っていて。声、話し方、間、すべてにおいていいと思います。バカリさんと一緒にドラマ(『架空OL日記』)をやってた人なんですよね? だからかもしれない。バカリさんとのかみ合いもすごく良かった。この子の声はいいなあと思いながら作業してました。
−−声だけで判断するのは面白いですね。
逆に知らなかったから良かったのかもしれない。
−−知らない人だらけですもんね。
全員、顔がわからないですもん。夏帆さんとか名前はよく聞くんだけど、どの子がそうなのかがわからない。ていうか、若い子って、みんな同じ顔してるじゃないですか。
−−いや、全然違いますよ。
全部同じだよぉ。たま〜にテレビを観たりすると、「え、この子とこの子って、違う子だったんだ!」ってビックリすることがあるもん(笑)。
−−そして、6曲目は、砂原さん担当の「非常識クイズ」。これは、さきほどもお話を聞きましたが、西海岸のイメージで曲を作ったと。
それで、テイさんに、「正解と不正解の音を作って」と言われて。僕、記憶だけで『アメリカ横断ウルトラクイズ』(70年代後半〜80年代に大ヒットしたクイズ番組・日本テレビ)の正解音を作ったんですよ。
−−確かに「ウルトラクイズ」の音ですね。なんだか馴染みのある音だとは思っていました。
記憶だけで作った後、「ウルトラクイズ」の映像を観たら、ちゃんとキーも合ってた(笑)。ただ、キーは合ってるんだけど、タラララーン♪って、2回だったんだよね。僕3回打っちゃった。タラララララーン♪ ま、そこは記憶で作ったんでしょうがないです(笑)。ていうか、これ著作権ないよね? ま、サンプリングしてるわけでもないから問題はないんだけど。回数も違うし。
−−そして7曲目はリード曲「捨てられない街角」。麻生久美子さんのことは?
麻生さんだけはちゃんとわかってます。認識してます。
−−なんで知ってるんですか、逆に。
『モテキ』(11年)に出てたから(笑)。あの映画は面白かった。自分らの仕事がちょこちょこそこに挟まってたから面白かったのかもしれないけれど。だから、麻生さんが歌うことはテイさんが決めたけど、デュエットにしようっていうのは僕が言って、「だったら、麻生さんが歌ったらいいんじゃない?」ってテイさんか提案があって。麻生さんの声は『モテキ』を観てたからわかってたし、映画でもカラオケのシーンで歌ってたし、結構いいとこいけるんじゃないかなっていう予感は作ったときからありましたし、その通りになりました。普通の女優さんではここまで歌えないと思います。ただ、バカリさんがあんないい雰囲気の声を出すとは思ってなかった。やっぱりああいうコントをやる人って、演技力があるというか。歌を歌うには、そういう能力が必要なんです。「成り切る」演技力というか。そこがふたりとも効いてる感じがしますね。
−−ちなみに、「捨てられない街角」を聴いてふと思い出したのが、いとうせいこう&タイニーパンクスのアルバム『建設的』(86年)に収録されている「恋のマラカニアン」(作詞:いとうせいこう/作曲:ヤン富田)でした。
お、きましたね(笑)。実は、僕もそれを聴いて作りました。サンディさんとせいこうさんがデュエットした「恋のマラカニアン」。『建設的』は、僕にとって大きいな存在のレコードだったんです。東京に行かなきゃと思わせたレコードはあれでしたもん。「うわヤバい、東京でまたなんか起きてる!」って。北海道で思いましたもん。『建設的』のあとに「BODY BLOW」(87年)という12インチが出たんですが、あれのB面に「東京ブロンクス」のライヴが入ってたの(「原宿モンクベリーズ」でのライヴ)。オーディエンスの声がすっごい入ってて。あれを聴いて、「ヤバい!」と思った。「こんなライヴ、札幌では絶対に観られない!」って。この東京という都市が発する熱は実際に行かないと受け止めることができないなと。あれはホントに大きかった。で、高校を卒業して、89年に東京に出てきたんです。
−−ちなみに、今回、スネークマンショーは意識しましたか?
僕も当時聴いていたし、テイさんも影響を受けてるわけだし、こういう企画ものをやるとなると、僕ら世代がいちばん意識するのはスネークマンショーなんです。僕は、内容的には、こうやって笑わせようとか、そういった部分は一切わからないんですが、楽曲とセリフ、楽曲とコントとの関係性がどうだったかというのを思い出すために、スネークマンショーはひととおり聴きました。今回、セリフと音楽がイーブンで成り立っているんですが、スネークマンショーに限らず、こういったセリフやコントが入るときって、音楽は全然小さいんです、レベル的に。でも、テイさんも僕も音楽を聴かせたかったので、そこのバランスを取るのが結構悩んだところ。音楽はある程度大きくしつつ、かつ、バカリさんのセリフも生かす。でも歌とは違う。そこが結構難しかったところであり、スネークマンショーと大きく違うのはそこなんです。あと、スネークマンショーの音楽は基本マジメじゃないですか。今回はマジメな音楽はあんま入ってない(笑)。ところで僕、中学に入ったときのいちばん最初の英語の授業で聴いたのがスネークマンショーだったんですよ。いまでも覚えてるんですけど、三島先生っていう先生が、授業にラジカセを持ってきたんです、リスニング用の。で、先生がカチッってスイッチ入れたら、流れてきたのが、「Can you speak English?」(小林克也と伊武雅刀のかけ合いコント。英語でしゃべりかける小林に「ア・リトル」とだけ伊武が答える)だったという。
−−ヤバい先生ですね。
それがいちばん最初の英語の授業だもん。そうすると、僕はこうなっちゃうよね(笑)。
−−では、寿命が縮んだミックスダウンについお聞きします。どういう部分にいちばん神経を使いましたか?
これはさっきも言ったように、しゃべりを聴かせようと思うと、音楽のレベルを下げなきゃいけないんです。だけど、なるべく音楽を出してしゃべりも聴かせなくちゃいけない、そこがいちばん難しいところなんですよね。高域のチキチキ音とかシンバルの音と、いちばんバッティングするのが、サシスセソのノイズの入った言葉なんです。そうすると何を言ってるのかわかりにくくなる。それがいちばん大変でしたね。すごいスタッフっぽいコメントですけど(笑)。
−−サシスセソ。
ノイズがバッティングするんです。歌の場合は、そこがバッティングして、音の縦グリッドのルール上で多少ズレて意味がわかんなくなってもそこそこ成立しちゃう。そういうのっていっぱいあると思うんです。子供の頃に聴いた曲で、あそこなんて歌ってるのかわかんなかったけど、ずいぶん時間が経ってから、ああそういうことだったとわかるとか。でも、セリフって、縦グリッドのルールに全然合わせてないんで、そこは難しいところでした。それを確認するために、スネークマンショーを結構聴いたんです。関係性がどうなってるのかなって。ひとつ近かったのは、「咲坂と桃内のごきげんいかがワン・ツゥ・スリー」(81年)。曲の途中で、伊武雅刀さんと小林克也さんがやり取りをするんですけど、そこは近かったかな。ただ、あれは、あそこまでちゃんと聞こえなくてもいいものだけど、こっちの場合はバカリさんがはっきりしゃべってるんで、ちゃんと聞こえなくちゃいけないわけで。そこがいちばん難しかったんです。
−−テイさんにも言いましたが、思春期の子供たちがこれを聴いたら面白いんじゃないかなと思うんです。中学生の砂原さんがYMOやスネークマンショーを聴いて「こうなってしまった」ように、これをいまの子供たちに聴かせれば、意味不明なトラウマをかかえ、面白い人生を歩むことになるんじゃないかと。
じゃあ、学校の前で二次元バーコードを配ろうか。これ聴いてねって(笑)。昔、西城秀樹が新曲をプロモーションするために学校の前でヒデキグッズを配ったことがあったんだよね。
−−「西城ノート事件」(72年)ですね。女子校の前でサイン入りノートを配って大騒ぎになった件。
収拾がつかなくなって、学校側は「ヒデキからノートをもらっちゃいけません」って注意したらしい(笑)。だから、バカリさんが学校の前で二次元バーコードを配って、「バカリズムから二次元バーコードをもらっちゃいけません」って注意されるぐらい盛り上がれば面白いね(笑)。
(構成 辛島いづみ)