〈スウィート・ロボッツ・アゲインスト・ザ・マシーンサン〉のメンバー〈バカリズムサン〉、〈テイサン〉、〈スナハラサン〉の3人に3枚目のニューアルバム『3(さん)』についてインタヴュー。三人三様それぞれの視点からアルバムについて語ってもらいました。ただ、人見知りの3人であるがゆえ、「3人そろって話をするのは気恥ずかしい」とのことで、インタヴューは個別にロボット(スヰート・ロボコ、スヰート・ロボオ、スヰート・ロボミ)が担当することに。前代未聞のAIインタヴューをお楽しみください。
その2 テイ・トウワ インタヴュー
インタヴュアー●スヰート・ロボコ
インタヴュー: バカリズム>>> / 砂原良徳>>>
−−はじめまして。インタヴューを担当するスヰート・ロボコです。
ロビタ?
−−それは手塚治虫の『火の鳥』です。
ロボコン?
−−それはなつかしの昭和のテレビです。
よろしく。
−−さて。スウィート・ロボッツ・アゲインスト・ザ・マシーン、略してSRATM名義では16年ぶり、『Sweet Robots Against The Machine』(1997年)、『TOWA TEI』(2002年)に続く3枚目、ということで『3(さん)』ですね。
もともと、SRATMは、21年前に始めた僕の変名プロジェクトなんですよ。
−−レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンにスウィートに対抗しての。
ロボコ、ビッグデータからひっぱってきた(笑)。ま、全然影響受けてないんですけど、音的には。もともとは、自分のセカンドアルバム(『SOUND MUSEUM』97年)を作ったときに、曲がいっぱいできちゃったというのがキッカケで。いっぱいできるというのは勢いがあったということなんだけど、テイ・トウワ名義ではなく、別パッケージにしたほうがいいなと。で、その頃、レイジばっか聴いてたんで、スウィート・ロボッツ・アゲインスト・ザ・マシーンという名前を思いついたと。それが始まり。レイジとはまったく共通項はないんだけど、「ロボっぽい」っていうのはキーワードになったかな。
−−今回、テイさんだけでなく、バカリズムさん、砂原良徳さんもメンバーに加わりました。まず、テイさんとバカリズムさんとの出会いというのは?
たぶんもう10年近く前になると思うけど、あるとき、スチャダラパーのBoseとお笑いの話をしていて、「最近、バカリズムが面白くない?」って僕が言ったら、Boseが「そりゃそうですよ」と。「バカリズムは結構テイさんとか好きですよ。あの人、そういう音楽好きだから」みたいなことを言って。ああそうなんだ、と。そこからすごく気になったのかな。
−−Boseさんはバカリズムさんとテレビ番組(「バカリズムマン対怪人ボーズ」09年・テレビ東京)をやってました。
Boseはお笑い研究家だもんね。で、その後、バカリさんの架空ブログが本になって出て(『架空升野日記』として08年に辰巳出版より発売。13年に『架空OL日記』として小学館より文庫化)。ヤバいと思ったのは、バカリさんがいまと比べて全然ヒマだったからOLのふりをしてブログを書いていたということで。近年まれに見るSFだなと思ったんですよ。ネットで女のふりをするのはネカマとよばれたりするけれど、そういうことでもなく、平然と女を装う。しかもクスッと笑っちゃうようなことを書いている。イマジネーション豊かな人だなと。
−−バカリズムさんがOLであることに違和感がないというのが面白いブログでした。『架空OL日記』のドラマ(17年・日本テレビ)で演じたときもそうでした。受賞しましたね。
向田邦子賞ね。おめでとうございます。で、出会ったあと、バカリさんとはメールアドレスを交換して。僕は「Records」というレコードしかかけないイベントをいまやってるんだけど、その前進となる「Hotel H」というイベントを青山のクラブ「Fai」でやってたんです(10年)。DJじゃない人も選曲したりするラウンジーなイベントだったんだけど、SAKEROCK(当時)の星野源くんとか、細野晴臣さんとかにも回してもらったりして。で、バカリさんに「遊びに来ませんか」って声をかけたんです。来たらしいんです。だけど、すごく人がいたんで、僕に声をかけるタイミングがわからなかったらしく、端っこで聴いてたという(笑)。次の日、バカリさんから「行ったんですけど、テイさんは細野さんと話てたから声かけられなくて、遠くで観てました」ってメールがきて。「なんだよ、声かけてくださいよ」みたいな。
−−おしゃれな人々に気後れして、壁際にへばりついていたであろうバカリズムさんの姿が目に浮かびます。
その後、結構近年ですけど、2、3年前かな、バカリさんから「『オールナイトニッポン』をやるのでジングルでテイさんの音を使いたい」という話がきて。僕は、自分の音源が二次使用されて想定外な使われ方をするのは結構好きで。「好きに使ってください」と言いながらも、それだけのために書き下ろしたんですよ。
−−やる気満々ですね。やる気!元気!いわき!
で、去年ですか。『架空OL日記』がドラマになると知って。「あれがドラマになるんですねー」ってバカリさんにメッセージを送ったら、ほどなくしてドラマの監督から連絡がきたんです。監督のなかでは僕の『LUCKY』(13年)っていうアルバムの、草間彌生さんがしゃべってる「Love Forever」って曲がイメージなんだけど、深夜ドラマで予算がなくて云々と。だったら、その曲を使ってください、使用料とか別にいりませんよと。そういう流れですね。
−−男前に「金はいらねえ」。やる気!元気!いわき!
面白いことはやりたいと僕はいつも思ってるんで、そういうのは二の次というか。
−−やる気!元気!……
ロボコ、壊れた? ま、いいや。で、バカリさんとは一緒になんかやりたいですねとずっと話してて。「バカリトウワ」という名義で、バカリさんが詞を書いて僕が音を作ってという、そういうことをやりたいですねと。たとえば、バカリさんの好きなセクシー女優の歌をプロデュースするとか、なんかそういう夢の企画(笑)。
−−やる気!元気!セクシーAV!
オーディオ・ヴィジュアル女優企画ね(笑)。それで、それとは別に、ちょうど去年の春先、女優さんに「Radio」(高橋幸宏ボーカルで『LUCKY』収録。その後メタファイヴの定番曲に)を朗読してもらう機会があって。これがすごく良かった。朗読にオケをつけるのは面白いんじゃないか、こういう方法論でバカリさんとやるのがいいんじゃないかと、ふとひらめいたんです。
−−ポエトリーリーディングですね。
ポエトリーリーディング女優編。女優さんが詞を読むと言葉のニュアンスとか表現が豊かじゃない。女優さんによる詩の朗読というコンセプトで1枚できたら面白いなと。それでいくつかオケを作り始めて。何曲かできた頃、バカリさんに僕が分室と呼んでいる机とベッドしかない作業部屋に来てもらって、いくつかのオケを聴かせて。「こういうオケに、バカリさんの書いた言葉を乗せるのはどうですか?」「いいですね」と。「バカリトウワというよりは、SRATM名義にして、2人だけだとカロリー高いんで、砂原ってやつに声かけたいんだけど、どうですか?」って言ったら、「あ、いいですね、砂原さん」と。そこにバカリさんの感情はあんまり入ってなかったと思うんですけど(笑)。
−−それが去年の話ですか?
去年の終わりぐらい。まりん(砂原良徳)には、それよりも前、だぶん夏フェスの頃、「Radio」のデモを聴かせて、「こういう方法論でアルバムやりたいんだけど手伝ってよ」くらいだったかな。テクノリーディングというか。とにかく、僕はソロが続いたし(『CUTE』15年、『EMO』17年)、続いてる間にメタファイヴもあって(『META』、『METAHALF』16年)。ソロだとまったくフリーなんで、どういうコンセプトでどういう人に歌ってもらってどうやって仕上げてというのを全部自分で決めなきゃいけないけれど、メタファイヴの場合は、(高橋)幸宏さんとLEO今井というツインボーカルにめがけて作るので、僕はコピーライター的存在にもなれる。でも、メタは真面目か不真面目かでいったら、真面目な音楽なんで(笑)、不真面目な音楽をやりたくなったということもあった。
−−不真面目な音楽というのは?
自分の音楽を作るって、ひたすら主観じゃない。アウトプットのスイッチを替えることで、もうちょっとスピードアップできる。そういう意味で、もっと不真面目でもいいのかなって。
−−いろんな人を巻き込むことで、力を抜いて音楽を作ろうということですね。
仕上げはまりんに任せようとか、そういうことです。僕もそうだけど、まりんも自己完結型。全部自分ひとりでやっちゃう人。肩凝ってそうだから、鍼行ったほうがいいよって鍼灸院紹介したりしてるんだけど(笑)。ただ、僕は常に、「抜く術」をいつも探してるというか。食いしばっちゃうんだけど、食いしばらないようにいつも興味をそらせるんです。まりんと僕は似て非なるもの。音楽の作り方は似ているけれど、いちばんそこが違うかなあ。だから今日も鳥羽から帰ってきてるわけですけれども。
−−三重県鳥羽といえば鳥羽一郎の出身地。
ただの旅行です。伊勢神宮に行って内宮をお詣りして。「SRATMの印税がたくさん入りますように」みたいなことを願っちゃダメなんで(笑)、ひたすら「ありがとうございます」と。で、鳥羽の漁港でおいしい魚を食べ、温泉につかり。なんもしない旅行。なんもしないと言いながらしてましたけど(笑)。
−−テイさんの趣味はご朱印集めと温泉と蕎麦。
あと鍼灸ね(笑)。だから、SRATMはもともとひとりだし、ひとりでやってきたわけだけど、バカリトウワでやりたいという何年かの思いを結実させる場所はSRATMだと。やるなら「いまでしょ」と。古いか(笑)。
−−はい、2013年の流行語ですから死語ですね。
正直に言わない。
−−でも、テイさんは昔からそういう周期でまわってます。思いっきり二枚目なアルバムを出したあとに、ダウンタウンさんと一緒にGEISHA GIRLS(『THE GEISHA GIRLS SHOW―炎のおっさんアワー』95年)をやってみたり、今田耕司さんとKOJI-1200(『アメリカ大好き!』95年)をやってみたり。「オモロ」をところどころにはさんで「抜く」。
やっぱり、音楽を作ることは自分との対話なんです。ただ、コンピューターは残念ながらまだ思ったことを返してくれるまでは発達していなくて。でも、バカリさんに聴かせれば、「じゃあ、この曲は食べものの話でどうでしょう」と返ってくる。そういう発想は自分にはないわけです。ソロの場合、それを自分だけで探すじゃない。何をモチーフにしようかと。音を作り出すことはいくらでもできるけど、仕上げていくのは大変。でも、仕上げてパッケージにすることが僕は好きなんで、そのために考える。だから、バカリさんとやろうと思ったのは、直感。いまでしょ、ここでしょって。女優のポエトリーリーディングはキッカケとなったけれど、結果的に、バカリさん自身が演じた部分も多くなった。メタファイヴもそうだけど、チームでやるとそうやって転がっていくのが楽しい。ソロだと転びにくいからね。
−−ではここから1曲づつ聞いていきたいと思います。まず、1曲目「フューチャリズム(Futurism)」。ソロデビュー作『Future Listening!』(94年)からそうですが、フューチャリズム、つまり「未来派」という言葉は、テイさんのテーマですね。
フューチャリスティックだと思うんです。音楽を作ること自体が。マーケティングで音を作る人は、いまはこれが流行ってるからこういう曲とやるわけだけど、それは結局過去をなぞること。僕は、常に自分の中で新しい組み合わせ、やったことのないもの、見たことも聴いたこともないものを作りたい。それが僕にとってのフユーチャリズム。だからこの曲は、そのテーマ曲のようなもので。アルバムはどんなタイトルがいいかと考えたときに、シンプルに「3」って書いてバカリさんに渡したんです。「『3』と書いてスリーじゃなくて『さん』と読むのはどうですか」と。そうしたらすぐ反応してくれたんです。「そういうのいいですね」と。そこにもバカリさんの感情はあんまり入ってなかったですね(笑)。
−−なんか、もっと熱いやりとりはないんですか。
僕ら人見知りなんで。人見知り3人の集合体なんで(笑)。で、今回のジャケットは、表紙がコレなんです。
−−おおっ!! SRATMのファーストアルバム(『Sweet Robots Against The Machine』)のジャケをイラスト化。五木田智央さんですか?
そう。中ジャケの僕ら3人の顔は、五木田くんの息子ゲンくん10歳が描いたんです。「そうだ、息子だ!」と思ったわけですよ。「Son」だから。
−−息子!サン!
五木田くんが、「テイさんの顔を息子が勝手に描いてます」って絵を送ってきてくれて。それで中ジャケをいろいろ頼んだんです。表紙は五木田くん、中は息子。親子の共演です。
−−10歳なのに早熟です。
芸風が似てるの、パパに。3人の絵を描いてもらったとき、それが表紙でもいいかと思ったくらい。
−−2曲目「ダキタイム(Dakitime)」。これはちょっと歌が入ってますね。
全編ポエトリーリーディングでメロディーがないのは寂しいから、この曲は歌うことを前提にと。バカリさんは「バカリズムと」っていうユニットをいろんな人とやってるじゃない。歌も歌えるなと。で、なんとなく、バカリさんのキーをイメージして歌を作って。〈ダキタイム アサタイム フロタイム〉というサビの歌部分は全部僕の詞。この言葉とともに仮メロディと一緒にバカリさんに渡して。「これはあくまでもたたき台です」と。するとバカリさんが「キャッチーですね」と。「残りは僕が考えます。会話がいいですかね?」と。
−−そして、夏帆さんとバカリズムさんのかけ合いコントになった。話の噛み合わないカップルの話です。
夏帆ちゃんは、『架空OL日記』のマキちゃん役がすごくよかったし、勘が良い女優さんだなと。僕は面識はちらっとしかなかったですけど、「やりますか?」って聞いたらすぐにOKしてくれて。バカリさんにクイ気味でかぶるところとか、人の話を全然聞いてない感じとか、ああいうのも1回バーッと読んで、セリフ合わせを1回して、本番1回、念のためにもう1回やって終わり。女優さんの才能を見たというか。
−−映画の話をしたい男と、食べものの話しかしない女。バカリズムさんの真骨頂です。話がどんどんすれ違っていく。
会話劇ですが、この場合はレコードなんで、何回も聞かれる面白さというのが前提にある。さあ笑かしにいくぞっていう感じがないんですよね。バカリズムというだけあって、彼は「リズム」をよく考えてる。最初に原稿を読んだとき、だいたい尺が合うなと思ったけれど、やってみたらピッタリでしたから。
−−なぜ〈ダキタイム アサタイム フロタイム〉という言葉が浮かんだんですか?
メタファイヴでツアーまわったときに、みんなでせんべい食いながら、ステージの転換とかはどうしようとまじめな話をしていたんですが、じゃあAKBみたいなことをやったら? とふざけて誰かが言って。ゴンちゃん(ゴンドウトモヒコ)が観客をステージにあげて抱きしめられるのがいいと。
−−抱くんじゃなくて、抱きしめられる。
ゴンちゃんはステージで直立不動で、それを観客の女の子が抱きしめる。それで僕が、「ダキタイム?」って言ったという(笑)。くだらない話ですが、そこで「ダキタイム」というワードが出て。で、今回、歌モノを作ろうと思いながら、温泉つかっていたときに、〈ダキタイム、フロタイム〉という言葉がポッと出てきた。ほんと鼻歌で。特になにかモチーフがあったわけでもなく。ドリフのババンババンバンバン♪に近いですよ。「ダキタイム」が全部「メイクラブ」だったら、どんだけって話ですけど。新婚さんの歌になっちゃうから(笑)。
−−新婚さん、新婚さん、ひとり飛ばして、新婚さん。
新婚さんの歌ってことにしとこうか(笑)。でも、ダキタイム以外は、全部僕の日常ですよ。フロタイム、ネルタイム、ソバタイム、タビタイム、シアツタイム。だから、好きな時間っていう意味でいえば、僕にとってのダキタイムはオトタイムかな。レコタイム。でもダキタイムのほうがワードとして強いから。
−−ところで、砂原さんは、今回はポストプロダクションが主な役回りとのことですが、この曲も含め、どんな風に作業を分担されましたか?
まりんは難癖つけるだけですね(笑)。たとえば、彼は「ダキタイム」のメロディーに関してはこだわった。もっとシンプルにしたほうがいいと修正案を出してきたんです。でも僕は、それに僕が食い下がって寂しくない程度にコードを補って。もともとが鼻歌なんで、手癖とかでねじふせると普通になっていっちゃうんです。そこはまりんもわかっていたんだけれど、具体的に足すというより、文句言って引いてくる(笑)。面白かったですよ、そのやりとりは。1曲目にしてついに解散かと(笑)。
−−砂原さんとは結構昔から一緒にやってますよね。
出会ったのは95年辺りだったかな。彼が突然ニューヨークに来たんですよ。
−−テイさんがニューヨークでブイブイ言わせていた頃。
ギリ、ニューヨークにいた頃。ファーストを出して日本に帰る直前くらいだったかな。ピエール瀧に「オマエ、テイさんとこに行ってこいよ」と言われたみたいで、いきなり来たんです、「電気グルーヴの砂原です」って。できたばっかりのファーストソロアルバム(『CROSSOVER』95年)を持ってきたのをよく覚えてる。でも、僕は買ったばかりの機材に夢中で。まりんのアルバムをそれを通して一緒に聴いて、「ほら、これで聴くといいでしょ」って。彼のアルバムの中身より機材の音について熱く語るという、すごい失礼な出会いだったという。でも、まりんも音に感動したみたいで、それと同じ機材を買ってましたけど(笑)。で、その後、僕はセカンド(『SOUND MUSEUM』)を作り、さっきも言ったように、いっぱい曲ができちゃったと。それを全部ひとりで仕上げるのは大変だから、「途中までできてる曲があるんだけど仕上げてくれない?」ってやってくれたのが、SRATMのファーストに入ってる「Lotus Snack and Thinking Machine」。基本ループは僕が作ったんだけど、ミックスまで仕上げてくれて。その後、セカンド(『TOWA TEI』)も手伝ってもらい、「I.Q. Infinity」という曲を作ってもらった。あの曲は僕、なんにもやってないんです。1曲まるごとまりんの曲。だからある意味、セカンドにはコンピ的な要素があったというか。だから今回も、僕が音をひとりで作るのではソロと変わらないんで、最初からまりんに、「2〜3曲やってよ」と。結局2曲をまりんが担当して。そこのオケに対して僕はなんも言わず。僕の曲に関しては、引いてくれたり足してくれたり。そういう意味ではすごく信頼しているという感じですかね。
−−砂原さんとはどんなところが合いますか?
音を作る上でお互いに共通言語があるところかな。たまたま2人とも表現手段が打ち込みで、プレイヤーではない。ま、最近の彼はメタファイヴのシンセベース担当ですからプレイヤーぽいですけども。そういうところで信頼できる人って日本ではまりん以外には見つからない。国外だったら何人か、アトム・ハーツっていうやつとかいますけど。……ということで、僕は赤ワイン飲んでいいかな? 5時過ぎたら飲んでいいことになってるんで、僕と神様の間では。
−−どうぞ。まだ2曲しか話を聞いてないので、酔っ払わないでください。
ロボコ、冷たい受け答えだなあ。
−−では、続きです。3曲目「サセル体操(Gymnastics to make)」。バカリズムさんは曲があって詞を考える感じでしたか?
ほとんどオケが先です。でもバカリさんは、詞を先に書いてたことが多かったんじゃないかな。「サセル」に関しては曲を渡して、それに詞が乗ってきたけど、トラックには仮タイトルで「はじめてのおつかい」ってつけてたんですよ(笑)。なんか、僕のなかではそういうイメージだった。インドで電車乗ってよく知らないところへおつかいに行かされちゃった、みたいな。
−−ウェス・アンダーソンの『ダージリン急行』的な。だからシタールっぽい音や汽車っぽい音が入ってるんですね。いわれてみれば車窓感があります。
そうなの。そしたら、ラジオ体操みたいな言葉が乗ってきた(笑)。
−−しかし、このオケを聴いて体操を考えるって、バカリズムさんは不思議な人ですね。
スタジオで録るときも、バカリさんはそのキャラになってました。どういう人なのかはよくわからないけど(笑)、いろんなチャンネルがあるんだなって。やっぱ、このトラックはこういうイメージなんでこういう詞でってやっちゃうと、つまんないじゃない。それはソロでできること。思わぬ方向に転がるのがグループの良さなんで。レコーディングでは、曲が始まると、バカリさんはテンポ良くポンポンと言うんです。すると曲の半分くらいで言葉が終わっちゃうんだけど、ポストプロダクションの段階で「言葉を全体に散らせてください」と細かくリクエストしてくる。そこら辺の客観性というか、あの人の中での笑いには編集スキルも含まれているんだなと。脳がやわらかい筋肉をしているなって。
−−4曲目「覚えてはいけない九九(Do not remember 99)」。これは、めちゃくちゃな九九を淡々と言うという曲。歌詞を覚えてしまうと計算できなくなって大変なことになります。
いちばん最初のレコーディングで、この曲をやったんです。バカリさんは1回も噛むことなく2テイクで終わったんですが、そのとき、アルバムには入ってない「トイレ」っていう曲があって、それも一緒に録ったんです。ただ、終わって編集した音を送ったら、「すいません、トイレはやっぱりちょっとやめます」とバカリさんから返事がきて。理由はまったく書いてなかった。なにかがしっくりこなかったんでしょう。で、バカリさんが書き直してきたのが次の曲の「アニマル(Animal)」だった。要するに、同じオケで違う歌詞ということです。それがあったので、じゃあ「九九」を「アニマル」のオケに貼ったらどうなるのかとふと思った。それが9曲目の「集会(Assembly)」なんです。リミックスということじゃなく、言葉のコピーペースト間違いというか(笑)。これが思った以上に良かった。それで、「女の子2人と3人で録るのはどうですか」とバカリさんに提案して。すると「ちょっと宗教ぽくていいですね」と。で、『LUCKY』で「Abbesses」っていう曲をやってくれた中田絢千ちゃんと、もう1人は、タジマックス(田島一成・カメラマン。今回のアー写を担当)の誕生会でたまたま知り合ったサトリちゃんっていう新進女優の子2人にやってもらって。彼女たちは覚えちゃいけない九九を一生懸命覚えてやってくれました(笑)。
−−書き直した「アニマル(Animal)」は、〈犬膀胱〉〈クジラ頸〉〈ラクダ汁〉とバカリズムさんワードが満載です。
書き直してきた詞を見て、これはかけ合いですねと。それで、夏帆ちゃんで「ダキタイム」を録るときに、一緒にやりました。合わせて1時間くらいで終わりましたね。さすが女優さんです。でも、「ダキタイム」のとき、夏帆ちゃんが「え、歌うんですか? 歌うって知ってたら絶対断ってました」って(笑)。
−−そして、ここから2曲が砂原さんパートとなります。6曲目「非常識クイズ(Insane quiz)」と7曲目「捨てられない街角(Boxes)」。
まりんは終始、「僕、笑いのことは全然わからないんで。お二人に任せるんで」っていうスタンスだったんで、僕が、クイズの解答者はバカリさん自身にやってもらって、問題を読み上げる女性は中田絢千ちゃんにやってもらってとディレクションをしたんです。
−−言葉がオケにピッタリとタイミングがあってるのがすごいです。
全曲そうですが、タイミングの編集ほぼしてないんです。タイミングが合わなければ、編集編集で言葉と言葉の間を置く場所を微妙に調整しなくちゃいけないんだけど、バカリさんや女優さんたちにはそういうのが一切ない。演技のプロはやっぱり違うと思いましたね。
−−「捨てられない街角」はガラッと雰囲気がかわってラテンムード歌謡です。
まりんに「歌モノのリード曲を作ってくれ」と。それは最初からお願いしてました。「ダキタイム」ともう1曲ほしいから、ベンチ温めとくからホームラン打ってねと(笑)。しかし、なぜラテンなのかはわからない。まりんは最初から「じゃ、ラテンでいきます」と。夢で見たんだかなんだかわからないけど。構造としては、「ダキタイム」のように、歌はミニマムであとは会話というのを提案したんですが、バカリさんが「全部歌のほうが面白いかも」と。
−−で、箱が捨てられない。
捨てられないよね、箱。どんどんたまっていくもん、アマゾンの箱。問題定義がうまい(笑)。
−−麻生久美子さんに歌わせるというのは?
曲を聴いて、若い人よりもある程度熟した女性が歌うほうが面白いと。しかも、ただ歌がうまいだけじゃなく、「箱は捨てて」と男を説得する演技が必要で。すると久美ちゃんしかいないなと。もともと(松田)聖子ちゃんが好きで歌をやりたかったと言ってたなと思い出して。久美ちゃんは、16年前のSRATMのPVに出てもらってるんです(「FREE」中野裕之監督・02年)。Twitterが広まり始めた頃、エゴサで見つけた知らない人のつぶやきで、「女としての最終目標はテイ・トウワのPVに出ること」っていう言葉とともにこのPVのリンクが貼ってあって。「イイネ!」しておいたんだけど(笑)、それぐらい、久美ちゃんのあのビデオはインパクトがあった。あの頃、中野裕之さんが久美ちゃんでショートフィルムを作って(『SF Short Films』03年)、劇中曲をたのまれたんです。久美ちゃんが口ずさむ「スロー・イズ・ビューティフル」っていう1番しかない曲。それをまりんにも聴いてもらって「久美ちゃんに歌ってもらうのはどうかな?」と。最近は、映画『モテキ』(11年)でも歌ってたし、まりんも『モテキ』は観てたみたいで、「麻生さん、いいと思います」と。……あー、ワインもう一杯。(店員に)もうちょっと重めのちょうだい。
−−あともう少しで終わりますから飲み過ぎないでください。
冷たいなあ、ロボコ。
−−そして、今回のプロジェクトの出発点となった8曲目「レィディオ(Radio)」。
「笑かすぞ!」っていう意識がまったくない曲。もともと僕の曲ですが、メタファイヴでもやってるんで、メタの雛形ともよばれる曲でもあって。近年では思い入れの深い曲ですね。
−−いろんなカタチに展開して。金を生んでる曲です。
コラッ! そんな言い方はしない。
−−不労所得は生んでますよ。
まあ、そうかもしれないけれど。
−−でも、この曲大好きです。野宮真貴さんの「甘い生活」(『Future Listening!』収録)の次に好きです。
ちょっとピリッとしたスパイスのような感じで存在していますね。笑いがまったくないので、アルバムの中では異質ですが、こういう曲があるとしまるというのはあるんです。
−−そして、エンディングは「かわいい(Kawaii)」。
後味良く終わるにはこれしかないなと。佐藤玲ちゃんにやってもらったんですが、彼女も『架空OL日記』に出ていた子で。カワイイの歌詞が来たときに「『OL日記』のサエちゃん、良くないですか?」って言って、バカリさんが「いいですね」と。玲ちゃんは、「いいんですか、私で」と言いながらもすぐにやってくれて。彼女も勘がいいんですよね。
−−ひたすら〈かわいい〉の繰り返しですが、〈なにこれかわいい。あ、それもかわいい。全然かわいくない〉とバリエーションで韻を踏んでいるのが心地いい。
結局、コピペですね。漫☆画太郎先生の漫画ってそういうところがあるじゃない。僕の中では、「かわいい」と画太郎先生はつながってるんです。繰り返すことの面白さ。繰り返す言葉をバカリさんに委ねることで、自分にはないミニマルミュージックになったと思う。音楽では、プログレとかクラウトロックとか、フレーズを繰り返すことはよくわるわけで、JB(ジェームズ・ブラウン)もそうじゃないですか。繰り返しの美学というか。繰り返すと気持ちいいじゃんっていう。それがメロディではなく言葉になったらどうなるんだろうって。
−−今回、スネークマンショー(1970年代末〜1980年代初頭にかけてYMOとともにサブカル少年少女に人気を誇ったコントユニット。メンバーは桑原茂一、小林克也、伊武雅刀)にオマージュを捧げるみたいな部分はありましたか?
バカリズムとテイ・トウワとまりんでやるといえば、スネークマンショーみたいな感じかなってみんな思うだろうけど、他にないわけですよ、比べるものがそれ以外に。お笑いと音楽が合体したアルバムという部分でね。でも、スネークマンショーは、イケてる音楽とイケてるコントが交互にあったわけで、本当の意味では合体してないんです。SRATMの場合は、そこが融合している。だから、いとうせいこうさんの「夜霧のハウスマヌカン」(『業界くん物語』85年)のほうがちょっと近いというか(笑)。あ、そうだ、せいこうさんとバカリさんは仲いいじゃない。
−−いとうさんへのオマージュもあるのかなと思ったんです。バカリズムさん的には。
そこ、いま気づいた(笑)。僕は、いとうせいこうというワードは1回も考えてなかった。僕、観てたもん、芝浦のインクスティックで。せいこうさんとヤン富田さんがやってるのを。いとうせいこう&タイニー・パンクス『建設的』(86年)の頃。当時は、同い年の藤原ヒロシって人、カッコいいな、ヴィヴィアン(・ウェストウッド)にアディダスを組み合わせるスタイルは面白いなって思いながら観てました、客席から(笑)。
−−そのスタイリングを考えたのは高木完さんでした。
でも、そうやって振り返ってみると、やっぱりこれは、スネークマンショーでも、せいこうさんでも全然ないわけで。リファレンスがない音楽なんです。
−−ないです。まさに「フューチャリズム」だと思います。ですから、いまの若い子たちに聴かせれば、インパクトが大きいんじゃないかと。14歳の思春期に聴けば、いい意味でトラウマになる。そういう音楽でもあるなと。
お笑いと音楽が一体化してますから、シームレスに。そう、シームレス。ロボコが好みそうなワードじゃない?
−−好きです、シームレス。アウターに響かないからいいんです。
それ下着の話じゃないの。僕が言ってるのは、お笑いと音楽のシームレスな融合の話。
−−シームレス違いでした。
あとね、僕がよく言われるのが、「テイさんの曲、クイズ番組でかかってました」とか、「バラエティでかかってました」ということで。今回、曲にバカリさんのネタを乗せるというのは、限定するということじゃない。でも、インストだけを取り出しても良い曲であるというのは、目指していたところなので、笑いを抜いても聴けるよと。ですから、アナログは2枚組にして、厳選した5曲をインストで出す予定です。その上で、NSCの若い子たちが練習してくれればと(笑)。番組の音効さんもじゃんじゃん使ってほしい。クイズ番組ではぜひかけてほしいっすね。
−−小銭が入りますからね。
入るね〜っ$$$$$!!!!!
(構成 辛島いづみ)