〈スウィート・ロボッツ・アゲインスト・ザ・マシーンサン〉のメンバー〈バカリズムサン〉、〈テイサン〉、〈スナハラサン〉の3人に3枚目のニューアルバム『3(さん)』についてインタヴュー。三人三様それぞれの視点からアルバムについて語ってもらいました。ただ、人見知りの3人であるがゆえ、「3人そろって話をするのは気恥ずかしい」とのことで、インタヴューは個別にロボット(スヰート・ロボコ、スヰート・ロボオ、スヰート・ロボミ)が担当することに。前代未聞のAIインタヴューをお楽しみください。
その1 バカリズム インタヴュー
インタヴュアー●スヰート・ロボオ
インタヴュー: テイ・トウワ>>> / 砂原良徳>>>
−−こんにちは。インタヴューを担当するAIスヰート・ロボオです。よろしくお願いいたします。
あ、はい、よろしくお願いします。
−−このたびは第36回向田邦子賞(テレビ界を支える優秀な脚本作家に贈られる賞)受賞おめでとうございます。
ありがとうございます。
−−受賞作であるドラマ『架空OL日記』(2017年・読売テレビ)では、テイさんの「Love Forever」(アルバム『LUCKY』収録・13年)がオープニングテーマでした。
もともと『架空OL日記』が書籍として出たときにテイさんが読んで面白がってくれて、何かしらの形でご一緒できるといいですねみたいな話をちょくちょくしていたんです。それで昨年、連続ドラマ化されることになって、僕からぜひテイさんに音楽をやってもらいたいですとスタッフさんにお伝えして、お願いすることになったという流れです。
−−その前にもラジオ『バカリズムのオールナイトニッポンGOLD』(13〜15年・ニッポン放送)のジングルやエンディングテーマ曲「The Burning Plain」でご一緒されています。
なにかとテイさんにはお願いしてますね。テイさんも快く使っていいよみたいな感じで言って下さって。テイさんの音楽は僕が学生時代の頃から好きで、アルバムもほぼ持っていると思います。
−−テイさんの1stソロアルバム『Future Listening!』がリリースされたのが1994年です。
90年代半ばといえば、僕が東京に出てきた頃ですね。コーネリアス、小沢健二さん、ピチカート・ファイヴ、スチャダラパー、電気グルーヴ……かっこいい音楽がいっぱいありましたよね。
−−テイさんと最初に出会うきっかけは覚えていますか?
ある日、僕がTwitterをフォローしたらテイさんもフォローしてくれて、そこからなんとなくやり取りするようになった感じです。その時は一緒に何かやりましょうという感じでもなく。
−−同じ質問をテイさんにしたところ、10年ほど前スチャダラパーのBoseさんに「いま一番面白い芸人さんは誰?」と質問したところバカリズムさんの名前が挙がって、やっぱり!と思われたそうです。
へーっ! そうだったんですね。いや、ありがたいです。スチャダラパーとは僕のライブでオープニングテーマを歌ってもらったり、一緒に『バカリズムマン対怪人ボーズ』(09年・テレビ東京)という特撮をやったり。もちろん電気グルーヴも聞いてましたし、僕がずっと好きだった人たちと一緒にできるのは嬉しいですね。
−−今回の『3(さん)』は、スウィート・ロボッツ・アゲインスト・ザ・マシーン名義では、実に16年ぶりのアルバムとなります。テイさん、バカリズムさん、砂原良徳さんの3人が並んだアーティスト写真も素晴らしいです。
砂原さんとは今回の制作で初めてお会いしたんですけれども、砂原さんのアルバムも全部持ってます。自分がずっとファンだったお二方なので、そういう方とやらせていただいけて非常に光栄だなと思っています。
−−これまでもテイさんはダウンタウンさんのGEISHA GIELS(坂本龍一と共同プロデュース)、今田耕司さんのKOJI-1200をプロデュースされています。
面白いことが好きっていうのは昔からあるみたいですね。
−−何か一緒にやりたいねと話していたことが『3』で作品として結実しましたが、制作作業はいつ頃から始まっていたんですか?
今年の春先ぐらいからです。とりあえず音楽制作に関しては素人なので、どんなものが合うかわからないままネタの台本だったり、ちょっとしたアイデアを送ったら、テイさん、砂原さんからこういう音楽を作っていますとか、こういう音楽に合うんじゃない?っていうサンプルで送って下さって。そういうデータのやりとりをずっとしてました。
−−最初にテイさんからこういうコンセプトで作りたいという具体的な提案はあったんでしょうか。
ロボットがコンセプトとしてあるけど、それに縛られなくてもいいとはおっしゃってました。いままでの曲も聴かせていただいたりしながらテイさんの仕事場で軽く打ち合わせをして。特に具体的にこれというテーマはなかったですね。とりあえず面白いものを作りましょうみたいな感じで、じゃあ僕も思いついたらどんどん送りますねって。僕としては通常テレビでやるような思いっきりお笑いに振り切ったより音楽となじみそうなトーンのネタを作るようには心がけたつもりですけれども、あとはテイさんにお任せしたので、これが正解だったかはわからないんですけれども……。聴き心地の良いものにすること、ずっと残っていくものなので今の流行は一切入れないように書くことに関しては気をつけていました。
−−1枚目、2枚目のアルバムとの連続性については?
僕自身はあまり意識はしなかったですね。いい意味で変わった感じのものになればいいなと思っていました(笑)。
−−作業としては歌詞と曲どちらが先行することが多かったんですか?
どちらのパターンもありました。砂原さんの曲に関しては曲先行で、それに詞をつけてくださいという発注でした。あとはテイさんから音楽が送られてきてこんな感じのコンセプトのもので何かありませんかって言われて、じゃあこんなのどうでしょうかって、とりあえず文章を送ってみたり。そこから、この声は女優さんでどうですかとか、この声はバカリズムさんどうですかという提案があって。わかりました、僕の声でやりましょうみたいな感じで。結構それによって作り方が違ったりするから。
−−全10曲ありますが、どの曲がいちばん最初に出来上がったんですか?
1曲ずつという感じでもなく、アルバム全体が同時進行でいろいろ進められていたイメージですね。僕の方も、もともとネタとしてあったものをアルバム用に書き変えたものもあれば、完全な新作もあったり、割とまとめて送った記憶があります。そこから今日はこれとこれを録りましょうという感じだったので、最初にできたのがこれっていう記憶はちょっとないですね。
−−ドラマ『架空OL日記』をご覧になっていた方は、マキちゃん役の夏帆さん、サエちゃん役の佐藤玲さんが参加されていることに、おっ!と思うでしょうね。
特にドラマとつながっている意識は僕自身ないですけれども、単純に夏帆さんと佐藤さんの声が良かったからテイさんがどうですか?って。ああ、全然やりやすいんでいいと思いますみたいなやりとりはしました。
−−テイさんはこれまでもモデルの方をボーカリストにフィーチャーされたり、女性の声にこだわられていますね。
それは僕も女性の声が好きなのでわかるというか。僕がやるより本当は女性が全部やったほうがよかったんじゃないのって(笑)。今回参加されている皆さんもすごくいいですよね。だいたいテイさんがいいという女性の声って、僕が聴いても確かにいいんです。
−−麻生久美子さん、中田絢千さんの声も素晴らしいです。
全員テイさんの提案なので参加の経緯はわからないんですけど、いいですよね。ちなみに僕が一緒にスタジオに入ったのは夏帆さんだけです。
−−そうなんですか?
皆さんスケジュールの合間をぬってそれぞれ録っていたので。ただ、夏帆さんだけはかけ合いだったので、そこは日程を合わせて録りました。
−−息の合ったかけ合いで素晴らしかったです。それぞれの曲のタイトルも絶妙ですね。
僕がぜひこのタイトルでって言ったのもあれば、テイさんからこういうタイトルどうですかというのもあったり。これもなんとなく話し合いながらですね。
−−では、ここからは1曲ずつお話をうかがいたいと思います。1曲目「フューチャリズム(Futurism)」。これはテイさん作詞作曲ですが、のっけから<スナリズム、テイリズム、バカリズム>というくだりにやられました。
テイさんからこんな感じでって口頭で伝えられて(笑)。それをリズムに合わせながら言っていく作業でしたね。
−−〈スナハラサン、テイサン、バカリズムサン〉という呼び方が、アルバムタイトルの「3」にもつながって。
〈マシーンサン〉って言い方してますもんね(笑)。これもテイさんのこだわりというか、そうしましょうって言われて。
−−1曲目でアルバムの全体像が俯瞰して見える感じですね。レコーディングはいかがでした?
僕、相当早かったですよ。とりあえずやりましょうかって、そんな細かく指示されることもなく。こんな感じでどうですか、あそれいいですねみたいな。割とノリでやった感じですね。
−−続いて2曲目の「ダキタイム(Dakitime)」。ミディアムテンポのダンサブルな曲に仕上がりました。
最初、歌の部分の歌詞をテイさんが用意してくださって。間に大体これぐらいの尺があるから何か入れたいという話があったんです。だったらいかにもセリフっぽいものより飲食店で隣からうっすら聴こえてくる男女の会話くらい自然な感じでどうですかって返信したら、それいいですねということで僕が台本を書いて、夏帆さんと一緒にレコーディングしたという流れです。
−−会話の流れも、よく聴くと、んっ???みたいな。バカリズムさんの真骨頂ですね。
いかになんてことない会話にするかに気を遣いました(笑)。普通に聴いていたらスッと流れていきそうな感じにしたかったので。ラジオで流れたとき、不思議な感じがしていいと思います。
−−3曲目「サセル体操(Gymnastics to make)」もオリエンタルな雰囲気の中に漂う不穏さが最高です(笑)。
先に楽曲をいただいて、朝だったり始まりっぽいイメージでっていうことをテイさんから言われたので、いろいろ考えてこれにしたんですけど。……まあ、ネタですね。何のメッセージ性もないですし。
−−そこから畳み掛けるように4曲目「覚えてはいけない九九(Do not remember 99)」。
もともとあった僕のネタなんですけど音楽に合いそうだなと思って。これをたくさん聴くことによって皆さんが小さい頃から体に染み付いている九九を崩壊させられたらいいなという(笑)。だから一応「覚えてはいけない」って警告してるんです。当たり前のようなことをちょっといじる感じというか。
−−没入感がありますね。この曲は同一歌詞で9曲目「集会(Assembly)」にもなっているくらいですから、さぞかしテイさんもお気に入りなのではないでしょうか。そして5曲目「アニマル(Animal) 」。こちらも夏帆さんとの会話劇です。
歌の部分がないので、「ダキタイム」よりはちょっと非日常的というか、会話自体を変な世界観にしたら面白いかなっていう感じで。
−−ビジュアルをイメージしながら聴くと、より楽しめますね。6曲目「非常識クイズ(Insane quiz)」もその流れで、こちらの作曲は砂原さん。問題を読み上げるのはテイさんのアルバム『LUCKY』にも参加していたモデル・女優の中田絢千さんです。
これもネタですね。砂原さんとデータのやり取りを2、3回して、後はレコーディングで一発録りみたいな感じでした。
−−7曲目「捨てられない街角(Boxes)」も砂原さんの楽曲です。こちらは麻生久美子さんとのデュエットですが、バカリズムさんのクルーナー唱法といい、麻生さんの歌声といい、昭和ラテン歌謡的なムードがあります。
麻生さん、レコーディングでご一緒できなかったのが残念です。砂原さんからムード歌謡っぽい感じの曲がありますって言われて。だったら聴いても何にも残らない歌詞にしようと思って書きました(笑)。あくまでそのときの気分なので、1週間後に曲が送られてきていたらまた違ったかもしれないっていうくらいですね。
−−本格的な歌ものですが、完成した曲を聴いていかがでした?
やっぱり麻生さん、いい声してるなと思いました。セクシーで、可愛らしくて、歌もお上手で。こんな歌い方するんだ? すごいなぁ、テイさんがお願いするだけあるなって。
−−8曲目の「レイディオ(Radio)」は、TOWA TEI名義で発表された同名曲の詞を、まった〈新しいトラックに乗せて朗読したものです。テイさんの歌詞も〈ゲルハルトのリヒター〉、〈パリで聞いたセルジュ〉というワードが並んでますね。
僕には書けない歌詞ですね(笑)。やっぱり、こういうのがあることでアルバムが締まりますよね。
−−そしてラストを飾る10曲目「かわいい(Kawaii)」。
かわいいは時代関係なく女の人が使う言葉だなと思って。よく読むと結果全否定してるんですけど(笑)。これも特にメッセージ性はなくて、なんとなく女の子がかわいいを連呼してる曲があったらいいかなっていうくらいですね。
−−ボーカルは佐藤玲さんにお任せしたんですね。
これ僕が言ったら変じゃないですか?(笑)。女性に何を言わせたらいいかなっていうところから始まっているので。テイさんから女性のつぶやきが音楽の中に溶け込んでいる感じがいいということだったので、だったらこれは笑いじゃなくてもいいということでした。
−−「かわいい」はテイさんもお好きな言葉の1つだと思います。さて、こうして1枚のアルバムになった感想はいかがですか?
どうでしょう? 僕自身は伝えたいことは1個もないんで(笑)。
−−それはまさにテイさんが考えていた目論見通りではないでしょうか。
まあ、なんとなく聴き心地の良いもの、日常に溶け込む感じがいちばんいいと思うので。あまり主張の強いものにはならないようにはしました。
−−このアルバムがどういう風にファンの皆さんに届くのか非常に楽しみです。ちなみに今後ライブなどの予定はお話しされてらっしゃるんですか?
どうなんですかね? これをライブでどうやるか、結構難しい気がします。「捨てられない街角」はまだ歌だからいいですけど、会話の部分に関しては演者側の負担が大変というか、結構長尺のセリフを覚えないといけないので(笑)。
−−バカリズムさんの単独ライブに近いものになりそうですね。あと、今回はアナログ盤も出ますので、クラブプレイでの反響も気になります。
いいですね。たまにテイさんからメールで「昨日イベントでかけたよ」とか「結構いい反応でした」とか制作途中の曲をこっそり流していたみたいで(笑)。それで僕も反応が分かるから、ああ、じゃあこの方向性でいきましょうかみたいなこともありました。
−−バカリズムさんはクラブイベントに出演される予定は?
まったくないです(笑)。やる理由がないですから。技術もないし、知識もない。これに関してはコントのひとつとしてやってますし、僕の目的はあくまで笑いなので。
−−これまでのバカリズムさんのライブをご覧になられている方はその延長線上で聴けると思いますし、ぜひとも広くこのアルバムを聴いていただきたいなと思います。
そうですね。面白がってもらえれば嬉しいです。あまり聴いたことのない感じのものになっていると思いますので、よかったら聴いてください。
(構成 秦野邦彦)