ザ・コレクターズ
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面白い歌詞を書いても、そこに真実があるから最終的には笑えないんだよ
●これは前作からの流れでもあるんだけど、今回のアルバムも現代に漂う閉塞感を切り取ってありますよね。
加:「エコロジー」(♪試聴♪)という曲とかさ、マスコミとかの取り上げ方もそうなんだけど、ちょっと考えれば踊らされているのはすごく良くわかるわけよ。エコだって言って、モノを売ってるんだから。マイナス・イオンって言えば、どこに存在してんだか知らないけど、家中マイナス・イオンだらけにしてさ。健康になったような気分になってる奴もいるわけじゃない? 物事の本質はね、だから、そういう情報を得て自分の中で整理していかなきゃいけない、その能力を自分で高めていく以外にこれから生き残っていくものはないっていうことを言いたかったんだよ。
●だから、今、もの凄く情報に溢れていて、なのに情報を得れば得るほど閉塞感に襲われるという。「twitter」(♪試聴♪)に至っては、リリックにもあるように、世界中の人が「本当のことを教えてやるよ」ってつぶやくわけですよね。すると情報がありすぎて、かえって情報難民になっちゃうという。ひじょうに歪な世の中ですよね。
加:それこそ親戚のオヤジが良いことを言ったことなんてないんだからさ。「気にすんなよ、そんなこと」ってのがさ、「twitter」(♪試聴♪)の言いたいことなんだよ。だから、最終的に何が言いたいのかというと、「自分で確定申告しろ!」っていう。
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古:コンセプト・アルバムなんだよ(笑)。
●自分で確定申告してみろっていうコンセプト・アルバム(笑)。わかりやすい。
加:出来ないところまで行っちゃった人が増えちゃったからなんだけど。まだまだ出来る人もいるのにね。俺たちは小さい崖からはい上がったわけだから、身近にそういう人たちがいるっていうのが、別に大成功した人の話よりも、全然、リアルにパワーになるでしょ? それがいいし、コレクターズがまだヒット・バンドじゃないってのがまたいいわけですよ。
●説得力あるかもね。
加:これが、ただのサクセス・ストーリーになって「情熱大陸」みたいのが追ってきてさ、いいとこだけ編集して「苦労しましたね」で終わっちゃうんだから。そんなんじゃ駄目なんだよ。どちらかというと、俺とコータローくんは日曜14時の「ザ・ノンフィクション」派だから(笑)。
●「ザ・ノンフィクション」が「自分で確定申告しろ!」って言うところに説得力がある(笑)。
加:親と子供が団子屋でね、あんこが多いだ、少ないだ、「オヤジのあんこなんか食えねえ!」みたいな。あれが好きなんだよ(笑)。
古:そうそうそう。
加:つまり「ストリート」なんですよ、いつも(笑)。ストリートを離れたらロックじゃないよ、もう。それがこのアルバムには封じ込められてる。無責任に「俺がそばに居てあげるよ」みたいなラブ・ソングなんか歌わないよ。無駄だもん。居たってウザイし。
●「明るい未来を」(♪試聴♪)も……
加:「子供増やせ、とにかく」みたいな。
古:納税の話だからね。
加:納税の話だから、本当に。子供増えなきゃ年金もどうなるんだって話。そこまで向かっているわけですよ、話が。だから「エコロジー」(♪試聴♪)もさんざんユーモアで笑うように出来てるんだけど、
●笑えないんだよね。
加:最終的には笑えないんだよ、やっぱり。そこには真実があるから。だから面白いのに後味の悪い『未来世紀ブラジル』みたいになっちゃうんだよ。
古:ふふふふふ。
●「明るい未来を」(♪試聴♪)だって笑えない。
加:笑えない。「オバサン、オジサン」って(歌詞で)言ってんのに。「Cold Sleeper」(♪試聴♪)もシャレになってないよ。子供に夢を託すってのは、もう、まさに自分がCold Sleepしちゃってるようなもんなんだよ。自分は死んじゃっててさ、自分を蘇生させてるようなもんだよ。
絶望しているようなときほど「シェケナベイビー!」って言われたい
●そうやって『東京虫BUGS』以降、時代の空気をつかもうという傾向にありますよね。そこは意識しているんですか?
加:「たよれる男」(♪試聴♪)(『東京虫BUGS』収録)を作ってから自分の中でガラリと変わったね。あと矢沢永吉さんの作詞を始めてから。
●あ、そうなんだ?
加:やっぱり他人の作詞をやるときに、その人になりきらないといけない。今までは加藤ひさしっていう人にしかなれなかったんだけど、恐れ多くも矢沢永吉っていう人に自分がなりきって、武道館にライブ観に行って「永ちゃんが何て言ったら、この人たちは一番喜ぶんだろう」って考えたときに、「あんまり深刻なことじゃないよな」って思ったり、「矢沢永吉のライブをお祭りだと思ってる人が凄くいるんだな」とかね。そういう「違う人になりきる」っていう擬似体験を10年くらいさせてもらって、「擬似・加藤ひさし」みたいなものも、ちょっと必要だな、と。それでもうガラリと変わった。本物の加藤ひさしは真面目すぎるから。
●擬似・加藤ひさしがいるからこそ、「エコロジー」(♪試聴♪)のような転がし方が出来るわけですね。
加:なんでもやれちゃう感じ。だけどやっぱり本当の加藤ひさしとの対決が待っていて。「お前、そこでふざけすぎ」って。「世間、ナメすぎ」みたいな。世間は、お前ほど高くから外を見ていないから、それじゃ世の中は見えないっていう本当の加藤ひさしが現れる。
●このアルバムの中の物語として、時代の絶望感とか閉塞感にスポットを当てながらも、もう一方で、こういう絶望した時代なんだけれども、どこで絶望感を突破できるのかっていうと、とてつもなくシンプルなメッセージなんじゃないか、みたいなことを示していますよね。楽曲で言えば、「エコロジー」(♪試聴♪)や「明るい未来を」(♪試聴♪)の先に、「ラブ・アタック」(♪試聴♪)を準備しているという。これが凄く面白かったんですが、リーダーはどういう意図を込めたんですか?
加:辛いときに辛いことを歌われても、案外しみないんだよ。絶望しているようなときほど「ツイスト・アンド・シャウト」みたいな歌が聴きたくなるんだよね。「シェケナベイビー!」って言われたいんだよね。そこで救われるんだよね。
●「シェケナベイビー!」に何かがありますよね。
加:あるの、絶対。だからロックンロールの始まりって、多分そうだったと思って。だから「ラブ・アタック」(♪試聴♪)みたいな曲が歌いたくなるんだよ。
●そうなんですよ。「ラブ・アタック」(♪試聴♪)って、もう凄く重要だと思う。
加:ただ全部それだと「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」を全部入れちゃいました、みたいになっちゃうから。でも常に(そういう要素は)重要だと思っているよ。
●「エコロジー」(♪試聴♪)や「明るい未来を」(♪試聴♪)と「ラブ・アタック」(♪試聴♪)が同居しているところがこのアルバムの批評性なんだと思う。
加:あと「イメージ・トレーニング」のタイガー・ウッズね。「どんなホールもねじ込む」ってもう、穴っていう穴、全部、ねじ込むから(笑)。これが言いたかった、ほんとに。
「青春ミラー」のイントロは言葉に置き換えられないロックのカッコよさがある
加:それは使命だもん。
●終わりゆく光景をわかりながらも、でも、そこでやっぱりロックを鳴らさなきゃなんないし、鳴らすべきだっていうね。絶望と希望が同居したこの作品を象徴していますよね。
加:「青春ミラー」(♪試聴♪)のイントロなんかさ、言葉に置き換えられないロックのカッコよさみたいなものがあるじゃない? 「ジャンピング・ジャック・フラッシュ」のイントロだったり、「サティスファクション」のイントロだったり。聴いた時にゾクっとするカッコよさ。もう言葉なんかなくたっていいんだよ。ギターが鳴った瞬間にさ、「これはじっとしていられない!」っていう、そういうのが作りたくてしょうがなかったの。それがロックだと思った。こっ恥ずかしい歌詞は、(曲と)同時に出てきちゃったからしょうがないんだけど、もうコータローくんのギターのひと掻きで、みんなが「ウオッ!」ってくるっていう曲を作りたくてしょうがなかったの。
●あのギターのフレーズはコータローくんが考えたんですか?
古:あれは最初からあったよね? デモのときから。
加:オレはコータローくんほど上手く弾けないから。イメージとしてはこうなんだって言って。コータローくんに「U2だったり、ピート(・タウンゼント)がやるとどんな感じになるの?」みたいなことを言うと、コータローくんが「だったらこうだよね」って感じでシャープに弾いてくれて。
●7分もあるんだけど、このアルバムはこの表題曲で幕を開けるんですよね。
加:一発目に入れました。だからカッコいいアルバムにしたかったんだよ、とにかく。
●「ライ麦畑の迷路の中で」(♪試聴♪)はサリンジャーも死んじゃって、本当はライ麦畑で迷っている場合じゃないんだけど、迷ってるよっていうリリックなんですよね。未だに迷ってる感じが凄くいいんですよね。
加:迷ってるんだよ。
●青春の終わりの光景を見てるんだけど、何も終わってないという。
加:これはね、The Kinksの『Fobia』ってアルバムがあるんだけどね。あの頃、レイ・デイヴィスも多分40歳くらいだったと思うんだけれど、当時でも、かなりなベテランじゃない? その中に「Still Searchin’」っていう曲があって、「まだ探してんだ!?」と思って。「まだ探してるの、この人?」って思って。いいなあと思ってね。歳とってもずっとこうなんだって。いい歳こいて、まだ探してんだ?って。
古:そうそうそう。びっくりしたね。
加:俺の中では、今でも(「Still Searchin’」が)衝撃で、今年50歳になっちゃうんだけど、別に「悟ってる」みたいな歌詞を書かなくても、「別にいいんじゃないの?」と思って。結局、だって、まだ売れたくてあがいてて。しわくちゃになっても、結局、ビートルズのようなことがしたくて仕方ないっていうさ。
●迷い続けていることを自分の中で受け入れているというね。そこがよかった。
加:だって、ほんとに迷ってるんだもん。
古:40過ぎたら、ほんとに迷うようになってきたよね。
加:迷うよ。
古:何なんだろうなあ。
●悟れないんだ?
加:悟れない!
古:全然、駄目。
加:新人、出てくりゃびびるし。
●あはははは。
古:びびるよね?
加:コータローとOKAMOTO’S観て「かなわねぇなぁ」って言って。何がかなわないって、肌のツヤと動きだよ(笑)。
古:肌のツヤが違うんだもん、そりゃ勝負できない(笑)。俺がどんなにジャンプしたって、向こうのジャンプの方が軽そうだもん。
加:そう。そういうところだよ。でも「青春ミラー」(♪試聴♪)も「ライ麦畑〜」(♪試聴♪)も若い連中には歌えないから。こういうことは、やっぱり俺たちが歌うべきで。でも常にライバルはOKAMOTO’Sだったり、黒猫チェルシーだったり…っていうのは、絶対ある。
●なるほどね。
加:だって負けたくないもん、俺、絶対そういう連中に。今でも。
●そう言えば、『青春ミラー(キミを想う長い午後)』って、前作と比べてもサウンドが若返っていますよね。
加:うん、こっちの方が全然、若いよね。
●これはあえて狙ったんですか?
加:ストリングスが沢山入ったりとかね、そういうものがあんまり聴きたくないのよ。やっぱりそういうものを聴きすぎたんだろうね。ビートルズのBOXが出たこともあって、なんかビートルズがやったことをみんななぞって、薄めて売ってきたんだなっていうのを再々確認し始めちゃって。だから、初期衝動の、自分の思ったロック、カッコいいと思ったロックの感じを、あんまりこねくり回さないで、しかもバンド4人でほとんど出来ちゃうような、そういうものにしたいなと思って。だから壮大な曲もあるけど、曲が壮大でもピースはちっちゃいからね。そのほうが伝わると思ったしね。
古:まあ最近、気持ちが若返ってるからね。
加:歳とって一番いいのは「経験」だよね。たしかに無駄も必要なんだろうけど、本当に無駄なことはしなくなった。昔は「こんなの駄目だ」って、あきらめをつけるまでにスタジオで一日かかっちゃってたんだけど、最近は「あ、こりゃ良くないな」って、すぐわかるから。
古:刑事と一緒だよね。刑事は経験だよ。
加:奴が犯人だと思ったら絶対、無駄な聞き込みはしないよね。若いうちは聞き込んで、聞き込んでね。
古:靴を減らしてね。
加:逃げられちゃうんだよ、だから。
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2年振り17枚目のオリジナルアルバム堂々完成。未だ色あせぬロックがここにある!
ALBUM 2010/04/07 Release
青春ミラー(キミを想う長い午後)
COCP-36086 / ¥3,150(税込)
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