第4章:再開〜
祖父江は、戦前生まれの、セゴビアに直接指導を受けたような世代のギタリストで、日本のギター界を技術的に「開国」させた功労者の一人だった。後進の指導にも熱心で、国内外に多くの弟子を持ち、蒔野もこの人だけには「頭が上がらない」と常々公言していた。
清廉高潔な人物で、クリスチャンなのに、祖父江の禁欲的なバッハのリュート組曲のレコードは、「禅の精神によりバッハ」とヨーロッパから評されていた。
リュート組曲第4番(J.S.バッハ)より
第5章:洋子の決断〜
フェスティバルは盛況だったが、蒔野は、独り取り残されたのように、今回の参加の不首尾を感じていた。自分の演奏には懐疑的で、他人の演奏には無感動だった。唯一の例外は、四日目に聴いた若いポーランド人ギタリストの演奏だった。(中略)
平日の午後の客の疎らな小会場で、蒔野は知人のギタリストから少し離れて、独りで彼の演奏を聴いた。律儀にセゴビア所縁の曲でまとめられたプログラムで、特にタンスマンの《カヴァティーナ組曲》と《スクリャービンの主題による変奏曲》は、蒔野自身も以前にレコーディングしていたので、隅から隅までよく知っていた。
カヴァティーナ組曲(タンスマン)
第5章:洋子の決断〜
マドリードのフェスティヴァルで、蒔野が精彩を欠いたのは事実だったが、この日は、その「最後の曲」までは、虫眼鏡で見ても疵一つ見つからないほどの見事な演奏だった。
(中略)
コシュキンの《プレリュードとフーガ》やロドリーゴの《ソナタ・ジョコーサ》、バークリーの《ギターのためのソナタ》など、非常に豊富なプログラムで、マドリードで若いポーランド人のギタリストに触発されたところもあったろうが、振り返ればそれは、蒔野がこの時点まで積み重ねてきたスタイルの言わば究極であり、もういよいよ、その先はないという行き止まりのようでもあった。
ギターのためのソナチネ(バークリー)
マチネの終わりに and more
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