(「音楽と人」2016年10月号から続きます) ――加藤さんはブルーハーツに入らないか、って誘われてるんですよね? 加藤 「ブルーハーツがすごく人気出て、最初のベースが辞めた頃、マーシーとヒロトくんに、(渋谷)屋根裏の隣にあったアビーズっていうハンバーガー屋に呼ばれて」 古市 「向かいのね(笑)」 加藤 「『加藤くん、ベース弾いてくれないかな』って言われて。すっげぇ悩んで、俺、熱出したもん」 真城 「人生の岐路に立っちゃった(笑)」 加藤 「だって絶対このバンド人気出ると思ってたし、マーシーはマーシーの間ができるぐらい憧れの人だし(笑)。このバンドを一緒にやったら相当盛り上がると思ったんだけど、まだ自分も若かったからね。モッズをもっとやりたかったんだよね」 ――加藤さんをバンドに誘ったこと、覚えてます? 真島 「覚えてますよ。本当に、どうしようどうしようって、すごく悩ませちゃった」 加藤 「ずっと話してて。ちょっと一週間考えさせてくれって」 古市 「一週間(笑)。考えたの?」 加藤 「考えた(笑)」 古市 「即答はできなかったのか(笑)」 加藤 「悩んだよ。ブルーハーツは人気あったからね」 古市 「当時のシーンのオールスターみたいなもんだもんね」 真城 「コーツのヒロト、ブレイカーズのマーシー、バイクの加藤ひさし、だもんね」 真島 「僕たぶんね、加藤くんは断るだろうなと思ったの。あれだけの歌い手だし、曲を作れる人だから。誘ってはみたけど、僕らのバンドに入るより、加藤くんのバンドでやったほうがいいんじゃないかな、って気も少ししてた」 加藤 「でもその後、ブルーハーツはすぐ売れて、あっという間にスターになって行くから」 ――ドラムにピロウズのシンちゃんが入るかもしれなかったわけですからね。 真島 「そうそう」 加藤 「あの時即答していたら、シンイチロウと俺がブルーハーツのリズム隊だったかもしんないんだよ!」 真島 「恐ろしいな、それ(笑)」 古市 「ブルーハーツとしても売れたかどうかわかんないよ」 真城 「あはははは」 加藤 「わかんない。危ないよね」 ――日本のロックが変わっていたかもしれない瞬間(笑)。 加藤 「その後、コレクターズはネオGSっていうシーンに取り込まれていくのよ」 真城 「まさにそういう流れでしたね」 加藤 「ザ・ファントムギフトってバンドがあって、それをネオGS的な売り方をしたいってことで。まあモッズも大きく見りゃあGSでしょ、みたいな捉え方をされて」 古市 「ざっくりしてるでしょ(笑)」 加藤 「だから、デビュー当時のキャッチコピー、〈ネオモッズの若獅子〉だよ? 俺たち」 真城 「あはははは。」 真島 「そうだ、そうだったね(笑)」 加藤 「そしてザ・ファントムギフトは〈ネオGSの王者〉だった。で〈マージー・ビートの貴公子〉がストライクス。そうやって周りがムーブメント作ろうとしてる頃、中森さんに会ったの」 中森 「加藤くんはおっかなかったよ。デカいし」 真城 「もうその時身長このぐらいだった?」 加藤 「当たり前だろ(笑)」 中森 「おまけにユニオンジャックの上下ですから」 古市 「凄かったよね。イギリス行きゃあ右翼だからね」 ――わはははは。 真城 「加藤くん、バイク時代は化粧してたしね」 加藤 「そうそうそう。イアン・マッカロク(註:エコー・アンド・ザ・バニーメン)に憧れてたんだよ」 真城 「屋根裏の屋上で、ファンデーション塗ってたもん。しかもあそこ、水道がなかったから、パイプから漏れる雨水で(笑)」 中森 「そんなことやってたのに、こないだアラバキで俺が日焼け止め塗ってたら、すげぇ大笑いしてた」 加藤 「すげぇ老人っぽかったんすよ、その塗り方が」 一同 「あはははは」 加藤 「だって、日焼け止め塗った上に長袖まで着てるんだもん(笑)」 真城 「方や、こっちの人は、見たら上半身脱いでるし(笑)」 古市 「でも中森さん、もう年寄りだったよねあの時」 中森 「そうそう、もう既に……って違うよ(笑)。あの頃まだ20代だよ」 古市 「20代だったっけ? 嘘だよー。29でしょ?」 加藤 「28ぐらい?」 中森 「いや、違う違う違う」 古市 「ギリギリ攻める(笑)。29でしょって」 中森 「でも20代だからさ。コータローなんかペーペーだったじゃない」 古市 「22とかだからね」 加藤 「バンド同士の繋がりもあんまりない時代でさ。逆に変な噂が流れたりしてたんだよ。ハードコアがモッズを叩き潰すらしいぜ、とか」 ――あはは。そんな噂がライヴハウス界隈に? 加藤 「うん、そのイベントで。俺たちバウスシアターでボッコボコにされるって言われてたからね」 古市 「グールってハードコアのバンドがあってさ」 真城 「MASAMIさんだ!」 加藤 「そうそう、MASAMI。モッズはチャラチャラしてるから明日ぶっ潰すってMASAMIが言ってる、って噂が流れて。コータローくんとその前の日の夜に、『明日ポロシャツ?何着てく?』つって。『怪我してもいいように黒だよ』とか話して(笑)」 真島 「物騒だなあ」 加藤 「で、もう本当にピリピリしてたの。ハードコアの連中と俺達が同じ楽屋だったし。〈いつ来るんだ、これ〉って……で色々言ってたら、たまたまグールのギターがのりを(註:山川のりを/コーツのメンバー。マーシーとも旧知の仲)になってたんだよ」 古市 「振り向いたらのりをが『よー、何してんの!』って」 加藤 「ハードコアとモッズを繋いだの! で、MASAMIくんも『お前らいいやつじゃん』みたいになって、和気あいあいとライヴやって(笑)」 ――でも、この5人はそういう関係から始まった、長い付き合いになるわけですね。 加藤 「そうだね。その後、コレクターズが20周年を迎えて、マーシーが曲書いてくれたり。今回30周年記念の〈愛ある世界〉」でヒロトくんが一緒に唄ってくれたり。そういう節目節目で、またお世話になっちゃって」 古市 「じゃあ「ギター・マガジン」で対談したのが10年前なんのか」 真島 「ええ、そんなになるか」 加藤 「あれはちょうどマーシーがハイロウズ辞めてさ、クロマニヨンズ作る手前の過渡期でさ。俺がマーシーに電話して『いま忙しいよね?』って言ったら『いや、今仕事はストーンズ観に行くだけだからさ』って。すぐ俺、コータローに電話したもん。『ストーンズ観るのが仕事らしいよ』つって」 古市 「で、俺が『金あるからなあ』って(笑)」 真島 「で、曲渡したんだけど、ついでだからじゃあギターも弾いてって言われて。スタジオにギター持ってったんだけど、全然弾けなくて(笑)。自分で作った曲なのに。加藤くんに怒られちゃった、『先生、頼みますよー』って」 ――真城さんはバイク時代からのファンですけど……。 加藤 「でも、真城が好きだったのは、ターキーズでしょ?」 一同 「あははは」 真城 「ターキーズもコーツもみんな好きでしたよ」 加藤 「いや、ターキーズだよお前は」 真城 「なんで決めつけんの(笑)。でも加藤くんとは、ライヴを観てたのも多いけど、よく一緒に居た感じがする。地元の熊谷の方遊びに行ったりとか、バーベキューしたりとかね」 加藤 「たまたま真城の同級生とも知り合いだったの。それもあって、よくメシ食いに行ってたの」 真城 「私の人生初のバーベキュー、人生初の花火大会……」 加藤 「全部、俺だもん。あと、もんじゃ焼きな。東武練馬でやったもんじゃ焼き」 ――青春ですねえ。 古市 「あとは中森さん、車関係に詳しいから、そういう修理するときとか、わりと連絡して頼りにしてんの」 加藤 「あとギターのコードね。俺、コードがわかんなくなると必ず質問してた。一回大傑作なコードを見つけて、中森さんに電話したの。『これ、なんて言うの? Bmなんだけど、B音がC行くんだよね』って。『ちょっと弾いて?』って言うから弾いてみたら『いいね、これ。今、ましまろの作曲中だからさ、これ貰っちゃお』つったの」 一同 「あははははは」 ――とにかくジャムスタがいろいろ教えてくれた、というか。 加藤 「本当にそうだね。タイムマシーンに乗って、60年代に連れてかれたようなショッキングな場所だった。だってモッズってさ、埼玉県なんかで観ないわけよ。それがジャムスタに近づいたらさ、ベスパが15台ぐらいどわーって並んでててさ」 真城 「その道中にも、ちょっとそういうっぽい人の背中が見えたりして。あとモッズとか載ってる雑誌もないし。あと携帯もないから、連絡なんて取りようがないの。おまけに本名も知らないから、ジャムスタに行くしかなかったよね」」 加藤 「階段を降りてったら、モッズスーツ着てたり、派手なワンピース着てる人がいっぱいいるから、びっくりするわけ」 真城 「私はそれに夢中になっちゃって。ジャムスタに行くことを覚えてから、勉強何もしなかったもん(笑)」 古市 「ペイズリーブルーだからね(笑)」 加藤 「真城はペイズリーブルーってコーラスグループをやってたの。マグマ大使のお母さんみたいな衣装着てね」 真島 「あとジャムでの思い出はね。タカノさん」 加藤 「あははは」 中森 「いなくなっちゃったタカノさんね」 真城 「でもさ、タカノさんが居なかったら、みんなああやってジャムスタに行かなかったよね」 真島 「そうだね。タカノさんは、アマチュアの子たちがブッキングしに行っても、けっこう寛容だったんだよね。『いいよいいよ、出してあげるよ』みたいな」 真城 「別にデモテープ持って来なくても、OKだったもんね」 加藤 「当時のロフトや屋根裏、厳しかったもんなあ」 真島 「厳しかったよね」 真城 「既にセミプロくらいの存在じゃないと、出れないから」 古市 「ロフトなんか相手にしてくんないもん」 真島 「一応さ、デモテープ持っていくんだけど『ああ、じゃあそこに置いといて』みたいな扱いだもんね。で、それっきり連絡こない」 ――それがジャムの店長さんは。 真島 「寛容だった。事務所でテレビも観せてくれたよ(笑)。ちょうどその頃〈昨日、悲別で〉ってドラマの再放送をやってて。それをよく観に行ってた」 加藤 「なんでジャムで観てんのよ(笑)」 真島 「だってテレビ持ってなかったんだもん」 真城 「あと、本当はいけないんだけど、タダでライヴを観せてもらったし」 古市 「だってあそこ、客の半分以上が裏から入ってるんだもん(笑)」 加藤 「出入り自由みたいになってたよね」 真島 「裏に階段があって。そこからみんな出入りしてた(笑)」 中森 「あとリハーサルスタジオが一緒になってるから、観たいバンドのライヴがあると、その日にリハーサル入れて、ライヴも観て帰ってたね」 ――いい思い出ですね。ていうか、その頃から30年近く経って、こういう仲間がみんな音楽やってることがいいですよね。 加藤 「びっくりするよね。あの時代に、ジャムスタに集まってた連中がここにまだいるっていうのは」 古市 「みんな今でもやってるからすごいよね」 真島 「しぶとくやってんなあ、って感じだよね。特にコレクターズは、スタイルにちゃんとこだわってるし。それはすごいよ。一貫してブレてない、この姿勢が素晴らしい」 ――そうですね……加藤さん、何で照れるんですか(笑)。 加藤 「いやいや。褒められたこと、あんまりないからさ」 真島 「リンゴ田巻復帰でしょ?」 加藤 「いいドラマーだったよね」 古市 「復帰してほしいけどね。でもこの3人が一緒にやるって聞いて、ちょっとびっくりしたね」 真城 「私もびっくりしましたもん」 古市 「それに、いい名前だよ」 加藤 「ネーミング最高だよね。仲間がこうやっていっしょにやるのは、面白い企画だなって。フォーキーなマーシーの魅力は、3人でやったら余計に出るな、って」 ――なるほどね、わかりました。 真島 「3月の武道館、楽しみだね」 加藤 「マーシー、武道館何回かやったことあるんでしょ?」 真島 「何回か。あのね、ステージに立ってみると意外と狭いよ」 真城 「まあでも、大丈夫でしょ絶対」 真島 「全然、大丈夫だよ。いいライヴ出来るよ」 加藤 「心配してるのは客入りだけど」 真城 「あははは。それが大丈夫だ、つってんの!」 加藤 「なんか真城にそう言われると、勇気出るわ」 真城 「大丈夫。関係者だって買って行くよ、チケット。少なくとも私達は買って観に行くもん!」 |