1967年3月17日生まれ。北海道出身。O型。 クラシック、ジャズの録音に深い興味を持ち、アーティストそれぞれの「魅力」と「感動」を伝えられる作品創りを心がけている。 スタジオ録音からホール録音、ソロから大編成、ステレオからサラウンド、PCM録音、DSD録音などあらゆる録音をこなすマルチエンジニア。
ほか多数受賞。
塩澤さんに始めてメインエンジニアをお願いしたのは、彼がまだ20代後半の1994年、クラシックギタリストのソロアルバムのレコーディングでしたが、以来20年以上、本当に多くの作品を一緒に作ってきました。クラシック、ジャズから、ポップスの歌ものまで、私のヒット作のほとんどは、彼と一緒に作った作品です。
なんでそんなに彼ばかりに頼んできたかと言えば、まずはもちろん彼の作る音が好きだからです。 アーティストが出す音や声がいくら素晴らしくても、それを録ってミックスするエンジニアが良くないと、いい素材も台無しになってしまいます。塩澤さんは、優れた料理人のように、素材を活かし、私のリクエストに応じて、様々な味付けを絶妙なバランスで施してくれます。 これまで、海外を含めて、多くのエンジニアと仕事をしてきましたが、恐らく、素材の良さを活かすということにおいては、世界的に見ても、トップクラスの技術と感性をもったエンジニアではないでしょうか。 また、同じようなタイプの録音でも、常に新しい挑戦が何か加わっているのも、魅力のひとつです。
そして、彼が素晴らしいのは、音だけではありません。何処に行っても、スタジオはもちろんですが、ホールなどでも、事前事後を含めて、様々な担当者とのやりとりを、彼に任せておいて問題が起きたことが1回もありません。とにかくコミュニケーション能力が高いのです。 それは海外でも同じで、彼は、英語がそんなにできるわけではないのですが、現地のアシスタントや技術者、機材業者などと、普通に意思の疎通ができてしまいます。プラハに行ったときなどは、ホールの技術担当者がチェコ語しかできなくて、私も話が通じなかったのですが、塩澤さんは、特に問題なくその彼と機材の打ち合わせをしていました。相手はチェコ語、彼は日本語で。
そんなわけで、彼との仕事が多くなってしまうのですが、いろいろなエンジニアと仕事をしてきて感じるのは、優れたエンジニアというのは、自分を写す鏡であるということです。 未熟なエンジニアは、こちらがどんなリクエストをしても、同じような音しか作れません。その人の限られた技術と狭い感性の範囲でしか音が作れないからです。 力のあるエンジニアは、ディレクターやアーティストの世界を感じ取って表現してくれるので、逆に、こちらの感性の広がりや限界が写し出されるのです。 その中に、自然とそのエンジニアの個性もにじみ出て、ひとつの音世界が出来上がってくる。これが素晴らしいエンジニアと仕事をする醍醐味です。
塩澤さんの師匠だった、やはり名エンジニアの岡田則男さんがよく言っていたのが、エンジニアは、二本のスピーカーの間に絵を描くんだ、という言葉でした。 塩澤さんの描く絵は、生音の良さを活かしながら、その陰影、様々な感情を映し出し、複雑な表情を見せてくれます。そんな中で、最後は必ず、艶やかで人を明るい気持ちにさせる音の世界を作ってくれる、それが彼のキャラクターでもあり、音の最大の魅力だと感じています。
私は今は現場の録音を行うことはめったにありませんが、これからも、次代のディレクターと、素晴らしい音の世界を作って行ってください。
寄稿:日本コロムビア株式会社 A&C本部インターナショナルディレクター 岡野