音盤中毒患者のディスク案内
音盤中毒患者のディスク案内 インデックス
クラシックメールマガジンにて2013年5月~2021年12月まで配信のコラム「音盤中毒患者のディスク案内」
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.100 最終回]
■2021年12月付 ~二十億光年の孤独 ~ ブラームス/後期ピアノ作品集 ヴァレリー・アファナシエフ(p)~
クラシック音楽を聴くようになって、今年でちょうど45年になりました。振り返ってみれば、ずいぶん長い旅路を歩んできたように思います。心動かす音楽に出会うたび、聴く前とは違う場所にいる自分に気づく、そんな旅を繰り返してきたからです。私がたどってきた道筋には、いくつもの音盤があります。何度も訪れるお気に入りのもの、その後に進む方向を変えたもの、忘れがたい時間の記憶が刻まれたものがあり、それぞれがかけがえのない意味を持っています。もしもこれらの場所を通ってこなければ今の私とは違う人生を歩んでいたかもしれないし…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.99]
■2021年10月付 ~二十億光年の孤独 ~ ブラームス/後期ピアノ作品集 ヴァレリー・アファナシエフ(p)~
村上春樹氏の最新刊「古くて素敵なクラシック・レコードたち」(文藝春秋社)がベストセラーになっています。氏が所蔵するクラシック音楽のLPコレクションから、これはというものをジャケット写真つきで紹介した書籍ですが、その中にこんな一節があります。「これら小品はコンサートホールに向かない。自宅で夕刻に、ひっそり一人で聴くべきものだろう」これはブラームスの後期ピアノ作品集の欄(タイトルは「間奏曲集」)でとり上げられたワルター・クリーン盤の解説からの引用で、氏は続けて「まったくそのとおりだ」と全面的に…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.98]
■2021年9月付 ~曖昧礼賛 ~ プロコフィエフ&ピアソラ バッティストーニ指揮東京フィル~
アンドレア・バッティストーニ指揮東京フィルの最新盤、生誕100周年を記念して日本初演されたピアソラの2台のバンドネオンとオーケストラのための「シンフォニア・ブエノスアイレス」と、プロコフィエフのバレエ音楽「ロメオとジュリエット」からのセレクションを組み合わせた一枚がリリースされました。衝撃的だったレスピーギの「ローマ三部作」からはや8年、バッティストーニのコロムビアからの通算15枚目となるアルバム。今年(2021年)5月16日、Bunkamuraオーチャードホールにておこなわれた定期演奏会を丸ごと収めたもので、ストラヴィンスキーの「春の祭典」以来4年ぶりのライヴ盤…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.97]
■2021年8月付 ~正統的ハイブリッド箏曲家LEO ~ In a Landscape LEO(箏)~
若き箏曲家LEOの新盤、「In a Landscape」(COCQ-85523)を聴きました。
収録曲の一つであるジョン・ケージの楽曲名をタイトルに冠した当盤は、彼の通算3枚目のCD。八橋検校の名作「みだれ」や、自ら藤倉大に委嘱した「竜」といった箏のオリジナル曲を始め、ダウランド、バッハから、ドビュッシー、ケージ、ライヒ、坂本龍一に至る幅広いレパートリーに挑戦した意欲作で、彼にとって初めてのクラシック・アルバムです。
この「In a Landscape」は、カルチャーショックとも言うべき聴体験を私に与えてくれました。箏がこれほどまでに魅力的な音色と、どんな曲にも順応できる柔軟さを持ち、無限とも言える可能性を秘めた楽器であるということを…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.96]
■2021年7月付 ~それより僕と踊りませんか ~ Danzón 原田慶太楼/NHK響~
昨年来のコロナ禍の影響で海外アーテイストの来日中止が相次ぎ、日本人演奏家の活躍の場が広がるとともに、有望な若手指揮者たちの台頭が注目を集めています。中でも、先ごろ東京交響楽団の正指揮者に任命された原田慶太楼の活躍ぶりには、目覚ましいものがあります。1985年生まれ、アメリカとロシアで名だたる巨匠のもとで指揮を学び、国際的に指揮活動を繰り広げてきた彼はいま、NHK交響楽団(以下N響)を始めとして、全国各地のオーケストラから引っ張りだこ。各メディアへの出演を数多くこなす一方、インターネットを使った情報発信にも熱心で、音楽ファンにはとってはすっかりおなじみの存在です。
その原田慶太楼が…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.95]
■2021年6月付 ~ここにいない誰かへの優しき歌 ~ Le Départ 朴葵姫(G)~
ギタリストの朴葵姫が昨年デビュー10周年を迎え、記念アルバム「Le Départ」をリリースしました。ただし、今回の制作はコロムビアではなく、昨秋韓国で発売されたディスクのライセンス販売です。ライナーノートのクレジットを見れば、プロデュースは朴自身になっていますし、録音スタッフにも韓国の方々が名を連ねています。「Le Départ」が変則的な形でのリリースになったのは、言うまでもなく、コロナ禍の影響です。昨冬のコロナ感染爆発時に韓国にいた彼女は国外へ出ることができず、韓国内でセルフプロデュースに初挑戦、試行錯誤の末にアルバムを完成させました。エンジニアもクラシック録音のプロではなかったので、産みの苦しみを…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.94]
■2021年5月付 ~名盤の理由 ~ ブルックナー/交響曲第7番 マタチッチ/チェコ・フィル~
今年は、アントン・ブルックナー(1824-1896)の没後125周年に当たります。
1996年の没後100年の際は、世界的にもかなり盛り上がった記憶がありますが(思えば、ヴァントも朝比奈もまだ元気でした)、コロナ禍の中で迎える今回は、そこまでの高揚はまだ見られていません。125という数字にあまり迫力がないですし、3年後には生誕200周年を迎えるという計算もあるのでしょうか。
それでも、ウィーン・フィルがクリスティアン・ティーレマンの指揮で交響曲全集の録音・録画を開始(単独の指揮者と組んでの全集制作は史上初とのこと)したほか、日本でも各地のオーケストラが積極的にブルックナーの交響曲をとり上げ続け、少し前には新聞で…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.93]
■2021年4月付 ~必要火急の音楽 ~ Travelogue 宮田大(Vc)/大萩康司(G)~
昨年末、チェリストの宮田大と、ギタリストの大萩康司が共演したアルバム「Travelogue」が発売されました。宮田にとっては、2019年秋に発売されたエルガーのチェロ協奏曲に次ぐ、コロムビア移籍第2作です。前作のエルガーは、エスプレッシーヴォな歌に溢れた演奏が、ダウスゴー指揮BBCスコティッシュ響の名演とともに強い印象を残しましたから、次は何を聴かせてくれるだろうかと楽しみにしていました。しかも、今回は、宮田が「お互いにもつ音楽が似ている」と語り、何度となく共演を重ねてきた大萩とのデュオです。大萩と言えば、近年はソリストとしてだけでなく、多彩な顔ぶれの演奏家との共演で充実した活動を繰り広げていますし、少し前に本欄でとり上げた…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.92]
■2021年3月付 ~私の歌はあなたの歌 ~ Mein Lieder 黒田祐貴(Br)/山中惇史(P)~
今年もまた “Opus One” レーベルの季節がめぐってきました。 一昨年と昨年は、ここから計8人の若手音楽家が巣立ちましたが、このたび第3期生として音盤デビューしたのは、バリトン歌手の黒田祐貴ただ一人。コロムビアの特設Webページも黒田のプロフィール写真で独占されていて、これまでの「密」な賑わいがもはや懐かしい。この御時世ではやむを得ないこととは知りつつも、一抹の淋しさを覚えずにはいられません。しかし、コロナ禍の困難な状況を乗り越え、アルバムの企画からリリースに至ったという事実を見るだけでも、制作サイドから黒田にかけられた期待の大きさは容易に想像がつきます。何しろ、黒田は「時の人」。そう、彼は…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.91]
■2021年2月付 ~交響曲「無言歌」 ~ マーラー/花の章、交響曲第1番 山田和樹/読売日響~
私がマーラーの交響曲第1番を初めて聴いたのは、中学生になったばかりの頃、岩城宏之指揮札幌交響楽団のライヴ(1980年1月)がFMで放送されたときのことでした。無から生命が誕生する過程を描いたような爆発的エネルギーと、フィナーレでの闘争から勝利へと至る劇的な展開、表現力豊かなオーケストラのサウンドにすっかり魅了されてしまいました。そして、第3楽章、フランス民謡「フレール・ジャック」のパロディが輪唱風に展開された後、2本のオーボエが、弦楽器のピツィカートに乗って哀愁を帯びたメロディを歌うところ(39小節以降)が最も印象に残りました。ユダヤ風の音遣いと、踊りのステップを思わせる…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.90]
■2021年1月付 ~異榻同夢(いとうどうむ) ~ 「DUO2」 荘村清志、福田進一、鈴木大介、大萩康司(g)~
誰かと一緒にアンサンブルをするということは、「異榻同夢(いとうどうむ)」のようなものなんじゃないだろうか。
荘村清志、福田進一、鈴木大介、大萩康司という4人のギタリストが、一堂に会して録音した新盤「DUO2」のライナーノートを読んでいて、ハの字型に配置された椅子に腰かけてギターを弾く6通りのデュオの写真を見たとき、そんな考えが頭に浮かびました。「異榻同夢(いとうどうむ)」とは、「異なる腰掛け(榻)に座って、同じ夢を見る」から転じて、「環境や立場が違っても、同じ考えやゴールを持つ」という意味で使われる言葉で、「同床異夢」の…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.89]
■2020年12月付 ~武満徹 生誕90周年をめぐって ~ 「オーケストラ作品集」「ソングブック -コンプリート-」~
Erotic(官能的)、Emotional(感情に訴えかける)、Ecological(自然にやさしい)。私にとって、武満徹の音楽の魅力とは、この「3つのE」です。何だか、このところ東京都知事が連発する標語みたいですが。武満の音楽は、エロティックです。どの曲でも、ゆったりとした時間の流れから、液状化した音の響きが皮膚にしたたり落ち、ねっとりと絡みながら体内へと沁み込んでいく。官能が全身をかけめぐって五感が研ぎ澄まされ、なだらかな稜線を描いて高揚し、やがて潮が引くように静かな余韻の中へ消えていく。どこか女性的な生理を思わせる響きの干満のさまに、私はたまらないエロスを…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.88]
■2020年11月付 ~私たちの庭を耕そう ~ オーケストラ名曲集 バッティストーニ/東京フィル~
コロナに気をとられているうちにも季節はめぐり、ふと気がつけば、実りの秋真っ盛りになっていました。抜けるような青空は既に高く、木々の葉はめいめいに色づき、枝はたわわに実っています。大地に育まれた果実は、多様な生命をつなぐ恵みとなっていくことでしょう。2018年春から始められたアンドレア・バッティストーニ指揮東京フィルの“BEYOND THE STANDARD”シリーズも、通算第5作にして完結編となる「オーケストラ名曲集」がリリースされ、収穫のときを迎えました。第1作(「新世界」と伊福部昭の「シンフォニア・タプカーラ」)でまかれた種が…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.87]
■2020年10月付 ~それでも音盤は回っている ~ 「Mélangé」「LOST2」 マシュー・ロー(P)~
配信限定。それは何とさみしい言葉でしょうか。今もなお、フィジカルな音盤で音楽を聴くことに、無上の喜びを見いだしている音盤中毒患者にとって、聴きたい音源がネット配信でしか入手できないというのは、ある種の「宣告」に近い。しかし、音楽業界はデジタルサービスに軸足を移しつつあり、総合的俯瞰的観点からも、世の中では音楽はネット配信で聴くものになってきています。昨今のコロナ禍で、そうした傾向には、ますます拍車がかかっているのかもしれません。何しろ、少し前にツイッターで拡散されたように、若い人が「WiFiなしで音楽が聴けるCDってすごい」と言うような…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.86]
■2020年9月付 ~なんかいい感じ ~ ベートーヴェン/交響曲全集 スウィトナー/ベルリン・シュターツカペレ~
子供の頃、あだ名が「べーとーべん」になったことがあります。きっかけは、クラス替えの日に一人ずつ全員の前で自己紹介をさせられたとき、「べーとーべんの音楽が好きです」と言ったことでした。当時の小学生にとって、ベートーヴェンと言えば、音楽室に肖像画や胸像が飾られた「ジャジャジャジャーン」の人。あとは、ドリフのコントなんかに出てくる、苦虫をかみつぶしたような怖い人というイメージしかない。たちまちターゲットになり、からかわれるようになりました。本当のことを言っただけでなぜこんな理不尽な扱いを受けるのかと…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.85]
■2020年8月付 ~小説に出てくるクラシック音楽をめぐる随想~
残暑お見舞い申し上げます。
各地で大災害をもたらした梅雨がようやく明けたかと思えば、これまた災害級の暑さが到来、しかもコロナ禍は一向に収まらず。厳しい日々が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。
さて、今月は「小説に出てくるクラシック音楽」というテーマで音盤をご紹介します。暑気払いとして、サブスクリプションのプレイリストを見るような感覚で気楽にお読みいただければ幸いです…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.84]
■2020年7月付 ~消え際の美学 ~ アドルフに告ぐII 上野耕平(Sax)、山中惇史(P)、林英哲(和太鼓)~
上野耕平のサックスの音は、空気清浄機に似ている。そんなことを言ったら叱られるでしょうか。いや、笑われてしまうかもしれません。でも、これは私の偽らざる実感なのです。彼のどこまでも澄み切ったサックスの響きに触れていると、あたりの空気がクリーンになったような気がしてくる。空気中の塵やほこりも、スーパー飛沫、エアロゾルも、空間を軽やかに舞う上野のサックスの音が全部一掃してくれる、そんな錯覚にとらわれてしまうのです。何年か前にリリースされた彼のJ.S.バッハの無伴奏作品集は、我が家の強力なエアクリーナーとしてしばしば稼働しています。もちろん、昨年末に発売された、上野の目下の最新盤…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.83]
■2020年6月付 ~シリーズの白眉 ~ ベルリオーズ/幻想交響曲、黛/舞楽 バッティストーニ指揮東京フィル~
コロナ禍を経験して、ほんの少し前まではごくありふれた日常の一コマでしかなかったことが、奇跡のように思えることがあります。
新譜CDを発売日に聴くというのも、その一つです。プレスや印刷、包装など、工場でしかできない作業もあるだろうに、国内外の新譜はほとんど延期することなく発売されていて、ネット通販を使えばほどなく入手できている。それはすなわち、世界レベルで外出自粛や休業要請が出ていた中でも感染リスクを冒して職場に出向き、何らかの作業に携わった方々がおられるということを意味します。一枚のCDがリスナーに届くまでには、音盤を「いのちの水」として…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.82]
■2020年5月付 ~うちでシューベルトを聴こう ~ シューベルト/弦楽四重奏曲第15, 12番 カルミナSQ~
哲学者の三木清はかつて、「孤独は山になく、街にある。一人の人間にあるのでなく、大勢の人間の『間』にある」と書きました。では、外出自粛要請で街から人の姿が大幅に消えた今、「孤独」はどこへ行ったのでしょうか?どこへも行ってはいません。孤独は、街ではなく、自宅のPCやスマホの液晶画面の中にある。以前は街に行かねば見られなかった大勢の人間の「間」は、家の中にいつも漂っていて、マウスをクリックすれば私たちの目の前に大量に現れる。街に孤独があった頃以上に、私たちは孤独の中で生きているのかもしれません。考えてみれば、ここ何年かは「孤独」ブームでした。この二文字をタイトルに持つ本や雑誌のまあ何と多いことか。「孤独のすすめ」「極上の孤独」「孤独の価値」「孤独がすぐ消える本」「孤独をたのしむ力」…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.81]
■2020年4月付 ~出会い直す ~ スメタナ/わが祖国 クーベリック/チェコ・フィル(1990.5.12)~
新型コロナウィルス感染拡大の影響で、厳しい日々が続いています。戦後最大という危機的状況の中で「行動変容」を余儀なくされ、働き方や生き方の見直しを迫られている方も多いかと思います。かく言う私もその一人で、健康に日常生活を送れることのありがたみを、今更ながら痛感しております。音楽の世界でも、国内外のホールや劇場は閉館となり、演奏会の中止または延期が相次いでいます。国際的な音楽祭の中止も目立ち、ザルツブルグの復活祭音楽祭、バイロイト音楽祭などがキャンセルとなりました。毎年5月12日、スメタナの命日から始まるプラハの春国際音楽祭も、既に中止が…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.80]
■2020年3月付 ~誰(た)が為の応援歌 ~ 古関裕而「昭和日本の歌」「戦時下日本の音楽」~
の3月末から、NHKの朝の連続テレビ小説「エール」の放映が始まります。主人公のモデルは、昭和の時代、戦前から戦後にかけて数多くのヒット曲を生み出した「国民的作曲家」の古関裕而(1909~1989)です。窪田正孝、二階堂ふみという人気俳優が、熱烈なロマンスを経て結ばれた古関夫妻を演じるのも話題を呼んでいますが、制作発表以来、この作曲家に関する書籍やCDが次々と発売されるなど、ちょっとした古関ブームが到来しています。折しも、今夏には東京オリンピック・パラリンピックの開催が「予定」…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.79]
■2020年2月付 ~Opus One/坂入健司郎、高野百合絵、福田廉之介~
コンクール歴や活動実績にとらわれず、若くてユニークな才能を世に送り出すというコンセプトのもと、コロムビアが昨年立ち上げた新レーベルOpus One。その第二弾となるアルバムが1月に発売されました。今回デビューするのは、指揮者の坂入健司郎、メゾソプラノの高野百合絵、ヴァイオリニストの福田廉之介の三人。年齢やキャリアには幅がありますが、近年めきめきと頭角を現してきた若手音楽家たちです。
いずれのアルバムも収録曲の知名度には拘らず、アーティストが真価を発揮できる曲をメインに据え、必ず邦人作曲家の作品を一曲入れるというコンセプトは第一弾と同じ。今回も湯山玲子氏が…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.78]
■2020年1月付 ~誰かの靴を履いてみるということ ~ ドヴォルザーク/スラヴ舞曲集 ノイマン/チェコ・フィル~
あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。この年始の休み、ブレイディみかこ著「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」(新潮社刊)を読みました。ベストセラー本なので、既にお読みになった方も多いかもしれません。英国在住の著者が、アイルランド人の夫との間に生まれた中学生の息子とともに、人種差別や経済格差など様々な社会問題に日々直面しながら、多様性とは何か、アイデンティティとは何かを学んでいく姿を綴ったノンフィクション。鮮烈な場面がありました。著者の息子は、異なる背景や考え方を持った人々の間で対立や差別が起きている今、混乱を…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.77]
■2019年12月付 ~甘く見ると火傷するぜ ~ 日本の詩(うた) 小林沙羅(S)/河野紘子(P)ほか~
気がつけば、もう12月です。本年最後の当コーナーでは、ソプラノ歌手の小林沙羅がリリースした3枚目のソロ・アルバム「日本の詩(うた)」をご紹介します。
文字通り日本語の詩につけた歌を集めたもので、「うみ」「この道」「故郷」「早春賦」「赤とんぼ」「荒城の月」「ペチカ」といった誰もが知る童謡や唱歌に加え、橋本国彦、早坂文雄、宮城道雄、越谷達之助、武満徹の作品、そして、中村裕美と小林自身が書いた新作が全16曲収められています。
ピアノ伴奏は前作同様に河野紘子。宮城道雄の歌では澤村祐司の箏、見澤太基が尺八で参加し、2019年9月に高崎芸術劇場で録音されました。
このアルバムを聴いて…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.76]
■2019年11月付 ~いざ、さらば、夏の光よ ~ エルガー/チェロ協奏曲ほか 宮田大(Vc) ダウスゴー指揮BBCスコティッシュ響~
チェリストの宮田大が、コロムビアと録音契約を結びました。今後、継続的にアルバムを制作するとのことですが、早くも第一弾となるディスクがリリースされました。内容はイギリスのチェロ協奏曲集で、メインは宮田が各地で演奏を重ねてきた、得意のエルガー。カップリング曲として、ヴォーン・ウィリアムズの未完の協奏曲の緩徐楽章を補筆完成した「暗愁のパストラル」が収録されています。既に輝かしい演奏歴を誇る宮田ですが、意外にもこれが彼にとって初の協奏曲録音なのだそうです(映像では小澤征爾とのハイドンがあります)。共演は、HyperionやSimax、Dacapo、BIS、シアトル響の…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.75]
■2019年10月付 ~聴いてから観るか、観てから聴くか ~ 「マチネの終わりに and more」福田進一(g)~
平野啓一郎のベストセラー小説と連動したアルバム「マチネの終わりに and more」が発売されました。2016年発売の前作と同様、物語に登場する音楽がすべて福田進一のギター演奏で収められています。今回は新旧録音をとりまぜたコンピレーションアルバムではなく、全曲2019年6月の新録音。小説に出てくる音楽が順番に収められているので、アルバムを通して聴けば、小説のストーリーをリアルに追体験することができます。今さらですが、「マチネの終わりに」のあらすじを軽くおさらいしておきます。主人公のギタリスト蒔野聡史はジャーナリストの小峰洋子と出会い、互いに心を…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.74]
■2019年9月付 ~音楽はお菓子だ! ~ 湯山昭/ピアノ曲集「お菓子の世界」 堀江真理子(P)~
少し前、「お菓子の音楽」という言葉がSNSのトレンド入りしていました。どうやら音楽教室の先生が保護者向けに書いたブログが炎上し、そのキーワードに注目が集まったらしい。問題のブログ記事は、クラシック音楽をご飯、それ以外をお菓子になぞらえ、お菓子ばかり聴かせては子供の感性が育たない、だから「本物の音楽」である前者も聴かせましょうと諭すものでした。世の中にはいろいろな考え方があるものですね。ということで、今月は話題になった言葉からの連想で、湯山昭のピアノ曲集「お菓子の世界」をご紹介します。「お菓子」を題材にした正真正銘の「お菓子の音楽」…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.73]
■2019年8月付 ~物語の向こう側 ~ ベートーヴェン/交響曲第5番、吉松/サイバーバード協奏曲 バッティストーニ/東京フィル、上野耕平(Sax)ほか~
誰もが知るクラシックの名曲と、日本人作曲家の作品を組み合わせてセッション録音するというコンセプトで始まった、アンドレア・バッティストーニ指揮東京フィルによる“Beyond The Standard”シリーズも第3弾に到達しました。今回は、ベートーヴェンの交響曲第5番と、吉松隆のサイバーバード協奏曲という組み合わせ。後者ではサックスに上野耕平、ピアノに山中惇史、そしてパーカッションに石若駿という若い演奏家たちが参加し、2019年4月に東京オペラシティで録音されました。バッティストーニと東京フィルの演奏するベートーヴェンの5番は、古楽アプローチに拘泥せず…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.72]
■2019年7月付 ~喫茶店映えする音盤たち~
最近、喫茶店めぐりにハマッています。もともと大のコーヒー好きで、これまでも喫茶店で過ごす時間を愛してきましたが、昨今の「純喫茶ブーム」に押され、雑誌や書籍で情報を仕入れては新しい店を開拓して楽しんでいます。時間の制約もあって、少しずつしか広がっていかないのがもどかしいのですが。 私にとって「いい喫茶店」かどうかを決めるのは、コーヒーの味だけでなく、そこが私にとって居心地良い場所かどうかです。空間の広さ、間取り、内装、ソファやテーブルなどの調度品、マスターや店員さんの立ち居振る舞い。それらが生み出す時間の流れが、私の心に響くところが…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.71]
■2019年6月付 ~「宇宙戦艦ヤマト」と書いて「愛と平和」と読む ~ 羽田/交響曲「宇宙戦艦ヤマト」 大友直人/東響ほか~
いわゆる「ヤマト・ガンダム世代」に属する私ですが、「宇宙戦艦ヤマト」も「機動戦士ガンダム」も、テレビ・映画共にちゃんと見たことがありません。周囲は熱狂していましたが、なぜか関心を持てず、どんなストーリーなのかも知らぬままボーッと生きてきました。そんな超「ヤマト」音痴の私が、最近リリースされた羽田健太郎作曲の交響曲「宇宙戦艦ヤマト」を聴いたのは、コロムビアのメールマガジン4月号に掲載された熱っぽい宣伝コメントに惹きこまれてしまったから…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.70]
■2019年5月付 ~祝賀の音楽 ~ 雅楽、第9、ジョン・レノン~
あけましておめでとうございます。そんな言葉さえ飛び交う祝賀ムードの中、元号が変わりました。何がどうめでたいのか私にはきちんと説明できないのですが、前回とは違って上皇陛下もお元気ですし、カレンダー上は10連休でしたから、とにかくめでたい。コロムビアからは、タイムリーにも「祝賀の雅楽」(COCJ-40784)と題するアルバムが発売されました。2001年に発売されたものに新規曲目解説と英文を追加した再発盤ですが、ディスクのフィルム包装には、ご丁寧にも「祝!令和」と書かれたシールが…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.69]
■2019年4月付 ~平成の終わりに ~ 黛敏郎/涅槃交響曲 岩城/東京都響、東混~
「あなたらしさって何ですか?」先日、とある人からそんな質問を不意に投げかけられ、絶句してしまいました。分からない、答えられない。先日、私の勤務先に入社してきた新人でさえ、社員一同を前に「自分らしく働きたい」と挨拶していたのに。今、私が大学生と一緒に就職試験を受けたら、真っ先に不合格になることでしょう。でも、みうらじゅんの言葉の受け売りなのですが、生きていく上では「自分らしさ」などという訳の分からないものを追い求めて「自分探し」に走るよりも、「自分なくし」の方が大事なんだと思っています…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.68]
■2019年3月付 ~どちらがお好き? ~ ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第3番ほか 反田恭平(P)スラドコフスキー指揮ロシア・ナショナル管~
クラシック音楽ファンの間では、「どっちが好きか問題」というのがあります。いや、ありますというのはウソで、私が勝手にそう名づけているだけなのですが、音楽好き同士で会話していると、ある作曲家の隣り合う番号のついた二作品のうち、どちらが好きかという話題で盛り上がることがあります。例えば、バッハの管弦楽組曲第2, 3番、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14, 15番、あるいは、ブラームスやブルックナー、シベリウスの最後の交響曲二つなど。自分が愛する音楽について語るのも、人の話を聞くのも、どちらも愉しくて話は尽きません。ただ、話題の対象が好きすぎると、単に好き嫌いの話をしているつもりが、いつしか…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.67]
■2019年2月付 ~クラシック音楽の居場所 ~ “Opus One”~
コロムビアが、新しいレーベル“Opus One”を立ち上げました。 “Opus One”は「作品番号1」の意味で、才能ある20代の演奏家を発掘してCDデビューさせること、そして、どのアルバムにも必ず日本人作曲家の作品を収録することを主旨として、継続的に活動していくのだそうです。レコード会社が若手デビューに特化したレーベルを持つこと自体は、目新しいことではなく、仏ハルモニア・ムンディやNaxosの例をご存知の方も多いと思います。しかし、日本国内のレーベルでは、極めて珍しい例ではないでしょうか。
この一月には、シリーズ第一弾として5枚のディスクが一挙にリリースされました。今回デビューしたのは…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.66]
■2019年1月付 ~がらんどうの音楽 ~ ヴィヴァルディ/四季 パイヤール指揮パイヤール室内管~
あけましておめでとうございます。首都圏では年明けから寒い日が続いていて、毎日、肌に刺さる寒風に凍えています。でも、そんな中でも桜の木々はつぼみ始めていて、季節はゆっくりと、でも、確実にめぐりつつあるのだと実感します。
季節はめぐると言えば、昨年末の本欄では一年の締めくくりとして、チャイコフスキーの「四季」のディスクをご紹介しました。今月はそこからの連想で、ヴィヴァルディの「四季」を取り上げます。
演奏は、新旧二種あるイタリア合奏団盤と迷った末…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.65]
■2018年12月付 ~ゆく四季くる四季 ~ チャイコフスキー/四季ほか ウラジーミル・トロップ(P)~
年末の風物詩として定着したベートーヴェンの「第九」を紅白歌合戦にたとえるなら、続けて放送される「ゆく年くる年」にはどんな音楽があてはまるだろうか。
そんなどうでもいい問いが不意に浮かび、思い当たったのはチャイコフスキーのピアノ曲集「四季」でした。「第九」が、年内の厄介事を吹き飛ばし、晴れやかな昂揚のうちに新年を迎えるのにふさわしい「ハレ」すなわち「非日常」の音楽であるなら、チャイコフスキーの「四季」は、巡りゆく季節の日々の暮らしから生まれた「ケ」すなわち「日常」の音楽。両曲の関係性が、紅白歌合戦と …
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.64]
■2018年11月付 ~死はつねに生の形をしている ~ チャイコフスキー/「悲愴」、武満/系図 バッティストーニ指揮 東京フィル、のん~
むかしむかし、というほどむかしのことではありませんが、私が小学生の頃、インスタントコーヒーのテレビCMに指揮者の故・岩城宏之氏が出演していました。頻繁にオンエアされていましたから、岩城が汗びっしょりになってチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」を指揮する姿は、はっきり記憶に残っています。そして、「違いがわかる男」というナレーションと、スキャットで歌われるテーマ曲をバックにコーヒーを飲む岩城の姿を見て、自分も将来あんなカッコいい大人になりたいと、憧れの眼差しをブラウン管に向けていたことも覚えています。 なぜそんなこと唐突に話し始めたかというと…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.63]
■2018年10月付 ~私、ボーッと生きてました ~ 大貫妙子「Pure Acoustic 2018」~
今月は、大貫妙子のニューアルバム「Pure Acoustic 2018」をご紹介します。「Pure Acousutic」は、大貫妙子がかつて毎年おこなっていたコンサートの名前です。文字通りアコースティック楽器のみによる編成のバンドを前に、彼女が自作曲を歌う人気の企画が、今年の3月に5年ぶりに復活。新宿文化センターでおこなわれた演奏会の模様を収めたライヴ盤が、この9月にコロムビアから発売されました(CD:COCB-54265 LP:COJA-9338)。バックを務めるミュージシャンは、「Pure Acoustic」を長年にわたって支えてきたヴァイオリニストの…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.62]
■2018年9月付 ~背負わない。 ~ 大澤壽人の芸術 山田和樹指揮日本フィルほか~
近年、再評価が進む作曲家の大澤壽人(1906~53)の作品を集めた「大澤壽人の芸術」が、この7月に発売されました。大澤は神戸の生まれ。24歳の時に渡米して音楽を学び、パリで自作曲を指揮して華々しいデビューを飾りました。1936年に帰国して活動を開始したものの、彼を待ち受けていたのは斬新な音楽への無理解から来る冷淡な反応でした。やがて大衆音楽と教育の分野に活路を見出だし、関西で精力的に活動を続けますが、終戦後ほどなくして47歳の若さでこの世を去ります。彼の名前はすっかり忘れ去られ、21世紀に入ってようやく「再発見」されるまで、彼が遺した膨大な作品は演奏されることなく…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.61]
■2018年8月付 ~隠れた名盤 ~ マルティヌー/戦場ミサ、ヤナーチェク/アマールス マッケラス指揮チェコ・フィルほか~
今月は、サー・チャールズ・マッケラス指揮チェコ・フィルによるマルティヌーの「戦場ミサ」と、ヤナーチェクのカンタータ「アマールス」を組み合わせた一枚(COCO-73267)をご紹介します。1985年プラハでデジタル録音されたスプラフォン原盤のディスクで、2011年、初発売以来25年ぶりに再発売されたものです。こんなことを言うと通ぶっているみたいでいささか気が引けるのですが、これは「クレスト1000」シリーズの中でも屈指の「隠れた名盤」ではないかと思っています。両曲とも演奏機会が少なく、入手可能な音盤も数点という超マイナーな存在ながら、曲も演奏も掛け値なしに素晴らしいものだからです。ボフスラフ・マルティヌー(1890~1959)が「戦場(野外)ミサ」を書いたのは、彼がパリで活動していた…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.60]
■2018年7月付 ~風街のさすらい人 ~ シューベルト/白鳥の歌(松本隆現代語訳版) 鈴木准(T)巨瀬励起(P)~
シューベルトの歌曲集「白鳥の歌」を、作詞家の松本隆が現代語訳したアルバムを聴きました。演奏は、テノールの鈴木准と、ピアノの巨瀬励起。昨秋、松本が拠点を構える京都で、自身がスーパーバイザーを務めてセッション録音されたものです。昔から堀内敬三の訳詞で愛唱されてきた「セレナーデ」を除けば、初めて日本語で聴く「白鳥の歌」。研ぎ澄まされた言葉を通して、この歌曲集の世界を心ゆくまで味わい、リアルに体験することができました。いや、これでようやく真の「白鳥の歌」の姿に触れられた、そんなふうにさえ思えます。もちろん、ドイツ語の詩を日本語に訳すのですから、言葉の足し算や引き算、並び替えは当然あります。歌われる言葉の数は…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.59]
■2018年6月付 ~インテルメッツォ(間奏曲) - ジャケットとは匂いである~
ディスクの演奏や録音についての評はあるのに、どうしてジャケットデザインの評はないのだろうか。音楽雑誌などを読んでいて、ふとそう思うことがあります。ジャケットもアルバムという作品の大切な一部なのですから、優れたものがあれば、然るべき評価がなされてもいいような気がするのです。いや、厳正な評価対象にならなくたっていい。アルバムの顔として価値のあるものや面白いもの、単独のアートとしてもすぐれたものは、パブリックな場でそれなりに話題になって然るべきだと考えます。例えば、美術に造詣の深い選者による「今月のジャケットベスト5」みたいなコーナーがあれば、是非…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.58]
■2018年5月付 ~トーキョーの純真 ~ 「新世界」、伊福部 バッティストーニ/東京フィルハーモニー交響楽団~
アンドレア・バッティストーニ指揮東京フィルハーモニー交響楽団による新しいプロジェクト“BEYOND THE STANDARD” が始動しました。これから2020年にかけて、スタンダードな名曲と、日本人作曲家の作品を組み合わせたアルバムを計5枚、セッションレコーディングしていくのだそうです。シリーズ第一弾として、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」と、伊福部昭の「シンフォニア・タプカーラ」、「ゴジラ」のテーマを組み合わせた一枚がリリースされました。当盤については、コロムビアのホームページに特設コーナーができていて、錚々たる顔ぶれの方々がコメントを…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.57]
■2018年4月付 ~幸福なレコード芸術 ~ モーツァルト/ピアノ・ソナタ全集 マリア・ジョアン・ピリス(P)~
記憶の限りでは、私がクラシック音楽を聴き始めた頃、マリア・ジョアン・ピリスがDENONレーベルに録音したモーツァルトのピアノ・ソナタ全集は、1枚ずつ順次発売されていたところでした。音盤と言えば、まだLPしかなかった時代のことです。ピリスは、1974年1、2月に、ただこのレコーディングのためだけに来日。東京のイイノホールでセッションを組んで、LP8枚分を一気にデジタル(PCM)録音しました。このアルバムは海外でも発売され、1977年のフランスADFディスク大賞…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.56]
■2018年3月付 ~音盤を抱け、町へ出よう ~ 「ハルモニア」朴葵姫(g)~
朴葵姫の、フルアルバムとしてはほぼ3年ぶりとなる最新盤「ハルモニア」がリリースされました。今回のアルバムは、ギタリスト・コンポーザーの作品集というのがコンセプト。先年惜しくも亡くなったロラン・ディアンズを始め、セルジオ・アサド、アンドリュー・ヨーク、ケヴィン・カラハン、渡辺香津美と押尾コータローの曲が収録されています。そのうち、渡辺の「ペガサス」と押尾の「ハルモニア」の二曲は、彼らを尊敬する朴自身の委嘱により、このアルバムのために書き下ろされた新作です。朴葵姫が、その卓越した技術を惜しみなく注ぎ込み、選曲や…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.55]
■2018年2月付 ~吹いた。歌った。語った。そして… ~ 「ブレス −J.S.バッハ×上野耕平−」~
若きサックス奏者、上野耕平がJ.S.バッハの無伴奏曲に取り組んだ新盤「ブレス – J.S.バッハ×上野耕平–」のオビには、こんな宣伝文句が躍っています。
「クラシックを超えた究極の音楽」
バッハが生きた時代にはまだ影も形もなく、ポピュラ-の分野で聴く機会が断然多いサックスで、クラシック音楽の「聖典」と称されるバッハの名曲を演奏する。そんな前代未聞の挑戦を成功させた驚異的なアルバムなのですから、ジャンルの垣根を「超えた」ものであるのは間違いないし、「究極の音楽」という力こぶの入った言葉も決して大袈裟ではありません。
でも、私の印象は…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.54]
■2018年1月付 ~ニューイヤーコンサート ~ ケンペのウィンナ・ワルツとエリシュカの「新世界」~
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
今回は、お正月にふさわしい音盤を二枚、ご紹介しようと思います。いずれも年明けに開かれる演奏会の定番曲です。暫しお付き合いのほどを。
最初は、ルドルフ・ケンペ指揮ドレスデン・シュターツカペレによる「ウィンナ・ワルツ・コンサート」。同オーケストラの創立425周年を記念して、1972年暮れから翌年始めにかけドレスデンの聖ルカ教会で録音されたオイロディスク原盤のアルバムです。
収録されているのは、ヨハン・シュトラウス二世の喜歌劇「こうもり」序曲、ワルツ「ウィーンの森の物語」、ヨーゼフ・シュトラウスの…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.53]
■2017年12月付 ~革命の代わりの良心 ~ ショスタコーヴィチ/交響曲第11番 スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮読売日響~
日本の大手製造業メーカーによる製品検査データの改ざんが、相次いで明るみになっています。競争社会を生き抜くためと品質よりもコストや納期が優先され、企業や組織が守るべき倫理が後回しにされる実態が可視化され、日本のモノづくりへの信頼が音を立てて崩れ始めています。
謝罪会見で現場に責任を押しつける経営者の姿を見て暗澹たる気持ちになっていたとき、この2月に93歳で亡くなった名指揮者スタニスラフ・スクロヴァチェフスキのことを、最大限の敬意をもって思い起こさずにはいられませんでした。彼こそは、自らが守るべき倫理とは何かをとことん突き詰めて考え、常に水準の高い音楽を作り出すことでそれを実践した人だったから…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.52]
■2017年11月付 ~解放者 ~ストラヴィンスキー/「春の祭典」、バーンスタイン/ウェストサイド物語 バッティストーニ指揮東京フィル~
バーンスタインのミュージカル「ウェストサイド物語」から「シンフォニック・ダンス」のフィナーレ。マリアが歌う「アイ・ハヴ・ア・ラヴ」の旋律をヴァイオリンが奏で、「サムウェア」の後奏へとつながっていく。静かに、でも、万感の思いを内に秘めて、オーケストラが歌う。マリアの、許されぬ恋と分かっていながら、抑えがたい恋人トニーへの思いと、彼を喪った深い哀しみ。争いの絶えない社会への怒りと絶望。そして、「いつかどこかに私たちの場所が見つかりますように」と願う切実な祈り。それらすべてが大きな波になって押し寄せてくる。映画のラストシーンでの、ナタリー・ウッド演じるマリアの姿を…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.51]
■2017年10月付 ~動的平衡の音楽 ~ 「エリック・サティ 新・ピアノ作品集」高橋悠治(P)~
高橋悠治が40年ぶりに再録音したサティのピアノ曲集は、何かの映画を意識したのか、「エリック・サティ 新・ピアノ作品集」と銘打たれています。ディスクを初めて聴いたとき、私は、その「新」の一文字に思わず頷いてしまいました。確かに「新しい」、と。このディスクで聴くことができるのは、作曲家、演奏者といった属性をすべて削ぎ落とした匿名の音楽です。でも、それだけなら、高橋自身が言う「ありがちの表現や叙情のない『白い音楽』をさしだす」ことを目指して録音された旧盤と、基本的なスタンスはさほど変わりません。高橋は、旧録音から年月を経て79歳を迎えた今も、純白の音楽としての…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.50]
■2017年9月付 ~スティーヴィー・ワンダーの笑顔 ~ クセナキス/プレイヤード ストラスブール・パーカッション~
それは、「音楽のノーベル賞」とも呼ばれるスウェーデンのポーラー賞の1999年の授賞式コンサートで、その年の受賞者ヤニス・クセナキスの「プレイヤード」の中の「Peux(太鼓)」を、クロウマタ・パーカッション・グループが演奏した映像。6人の打楽器奏者たちが、超快速テンポで激しくリズムを叩きつけながら、一糸乱れぬ超絶的なアンサンブルを聴かせています。その演奏以上に印象的なのが、何度か映し出されるもう一人の受賞者スティーヴィー・ワンダーの姿です。客席で演奏を聴いている彼は、「こんな音楽があるのか!」とでも言いたげな驚きの表情を…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.49]
■2017年8月付 ~表現者の刻印 ~ この世でいちばん優しい歌 小林沙羅(S) 河野紘子(P) 高木慶太(Vc)~
最近、「歌」をよく聴きます。人の声を聴くことの喜びが、歳を重ねるごとに深まり、人肌ならぬ人声恋しいという感覚が、いつも心のどこかにあるからです。特に女性歌手の歌うものに目がなくて、面白そうな音盤を見つけると、つい手が出てしまいます。昨今は古楽系の歌手に素晴らしい人が多く、「当たり」に巡り合う確率も高いので、どんどん深みにはまり、興味も広がっていきます。ですから、都心のCDショップへ行くと、自然と声楽コーナーに足が向いてしまう。見知らぬ音盤を手にとり、麗しい女性歌手の歌声を想像しながら、さてどれを聴こうかと思案するのもまた愉しいものです…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.48]
■2017年7月付 ~公園のような音楽 ~「マチネの終わりに」福田進一(g)~
私は、昼休みになると、気分転換のために職場の付近を散歩します。考え事をしながらブラブラ歩き回ったり、川のほとりの折々の景色に見入ったり、時には、公園のベンチに座り、そこに集まる人たちの姿をボーッと眺めて過ごすこともあります。 お昼どきの公園には、いろいろな人がやって来ます。一人で、あるいは、何人かで現れ、それぞれのやり方で、憩いの時間を過ごしています。
木々の緑や、花壇の彩りの中で、気の置けない仲間と語らう人たちの声、遊具や噴水で遊ぶ子供達の弾けるような歓声などがシンフォニーのように混じりあい、風と共に公園を吹き抜けていく。それを見聞きしているだけで…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.47]
■2017年6月付 ~雲の彼方の音楽 ~ シューベルト/ピアノ・ソナタ第13番 田部京子(P)~
とある週末の夕暮れ、普段は使わない駅で電車を降りてぶらりと散歩をしていたら、どこからともなくピアノの音が聴こえてきました。マーマレード色の夕焼け空に似合う、センチメンタルな趣の音楽に吸い寄せられるように歩いていくと、いつの間にか駅前の商店街に戻ってきたことに気づきました。
だんだん暗くなってきたし、そろそろ帰ろうかと、駅の方角から来る人たちの波に逆行して歩きながらピアノの音を聴いていると、その優しい響きに心が和らぐような思いがしました。普段はその手のBGMのサービスは大嫌いで、音楽なんて流さないでほしいと思うくらいなのに、不思議でした…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.46]
■2017年5月付 ~バービー・ヤールに激しい雨が降る ~ ショスタコーヴィチ/交響曲第13番「バービー・ヤール」 インバル指揮ウィーン響ほか~
去る4月1日、ロシアの詩人エフゲニー・エフトゥシェンコが、移住先のアメリカで亡くなりました。
エフトゥシェンコは、1933年にシベリアのイルクーツクで生まれた詩人で、1950年代後半のいわゆる「雪どけ」の時代にデビューし、社会派詩人として絶大な人気をかち得ました。特に、1961年に「文学新聞」に掲載された「バービー・ヤール」は、ナチスによるユダヤ人虐殺の地をめぐって、帝政時代から続くソ連の反ユダヤ主義を告発した詩で、国内外で激しい論争を巻き起こし、1963年のノーベル文学賞にもノミネートされました。そして、この詩に感銘を受けたショスタコーヴィチは、1962年に発表した…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.45]
■2017年4月付 ~サウンドトラック・シンフォニー ~ 菅野祐悟/交響曲第1番~The Border 藤岡幸夫指揮 関西フィルハーモニー管弦楽団~
今さらながら、又吉直樹のデビュー作にして芥川賞受賞の小説「火花」を読みました。面白かった、というより、深い感銘を受けました。これまで又吉という人にはまったく関心がなかったのに、彼の第二作「劇場」が掲載された雑誌を、発売日に早速購入してしまうほどに。昨年秋、ノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランに続き、又吉のにわかファンになってしまいました。ああ、ミーハーな私。又吉の「火花」を読みながら、私は、最近聴いた菅野祐悟の「交響曲第1番~The Border」のことを思い起こしていました。二人の「デビュー作」には、いくつか共通点があると思ったからです…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.44]
■2017年3月付 ~無条件の音楽~「忘れな草/別れのワルツ~世界のワルツ集」ロベルト・シュトルツ指揮ベルリン響ほか~
ゆるんでいいんだよ、と声をかけられたような気がして振り返ると、そこには私の大好きな女優さんが大写しになった広告ポスターがありました。彼女のやわらかな笑顔に射抜かれ、歩みを止めて暫し見入ってしまいました。今すぐそのポスターを剥がして持ち去りたいという暗い衝動が芽生えてハッと我に返った瞬間、傍らで私と同じようにポスターを見ている男性がいることに気がつきました。その顔はゆるみきってだらしなく、鏡を見てしまったような猛烈な恥ずかしさに襲われ、照れ笑いしながら慌ててその場を後にしました…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.43]
■2017年2月付 ~静寂の音 ~ ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番、パガニーニ狂詩曲 反田恭平(p)/アンドレア・バッティストーニ指揮RAI国立響、東京フィル~
反田恭平とバッティストーニが共演したラフマニノフ・アルバムを聴いて、ピアノもオーケストラも音を出さない「間(ま)」が一番印象に残ったと言ったら、音楽家に失礼だと叱られるでしょうか?あるいは、何を聴いているのかと笑われるでしょうか? その「間」とは、「パガニーニの主題による狂詩曲」の第18変奏の終盤、トラック23の2分35秒付近からの休止を指します。パガニーニの「24のカプリース」第24番の主題を転回させてできた有名な旋律を…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.42]
■2017年1月付 ~映画音楽をめぐる冗長で散漫な随想~
とある秋の夜、都心の小さな映画館で、古い映画を観ました。50年近く前の公開当時のフィルムを使っての上映で、映像は赤茶色にぼやけていて始終ノイズが入るし、音声も歪んで聞き取りづらい。挙句の果てには、機器のトラブルで10分ほど上映が中断される始末。
真っ暗闇の中で復旧を待つ間、狭い映写室の中で、映写機に絡まったフィルムと汗だくで格闘しているであろう映写技師の方の姿を想像しつつ、ついさっき見た主役の男女の熱いキスシーンの…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.41]
■2016年12月付 ~How Does It Feel? -ベートーヴェン/交響曲第9番 ~ バッティストーニ指揮東京フィル~
ベートーヴェンの「第9」を聴くたびに思うことがあります。一体、何回聴けば、何度演奏すれば、何冊の本を読めば、私は「第9」を理解できるのだろうか、この音楽が私を子供の頃からずっと魅了し続ける源はどこにあるのか、そして、結局のところ、「第9」とは私にとって何なのだろうか、と。きっと答えはあるのだろうけれど、簡単には見つかりません。答え探しに疲れ果て、途方に暮れていると、どこからかこんな言葉が聞こえてきます…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.40]
■2016年11月付 ~楽譜の風景 ブルックナー/交響曲第8番 ~ スクロヴァチェフスキ指揮読売日響(2016)~
スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮読売日本交響楽団の演奏による、ブルックナーの交響曲第8番の最新盤(2016年1月21日 東京芸術劇場でのライヴ録音、COGQ-92)を聴いて、しみじみと思ったことがあります。それは、この交響曲のスコアを前にした指揮者スクロヴァチェフスキの視界には、私が見ているのとは、まったく違う風景が広がっているのではないかということでした。その演奏は、あまりにも私の胸を強く打つものでした。今年93歳を迎えた老巨匠は、全体にゆったりとしたテンポをとり、聳え立つ音楽の偉容を、丁寧に、悠然たる足どりで明らかにしていく。ライヴ録音特有の熱気を孕みつつ、崇高とさえ言える境地へ…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.39]
■2016年10月付 ~抵抗と連帯の音楽 フサ/「プラハ1968年のための音楽」~ ブラフネク指揮東京佼成ウィンドオーケストラ~
チェコ出身のアメリカの作曲家カレル・フサ(1921~)の代表作「プラハ1968年のための音楽」を聴きました。 吹奏楽の世界では有名な曲なので御存知の方も多いと思いますが、「プラハ1968年のための音楽」は、1968年8月にソ連がワルシャワ条約機構軍(WTO)を率いてチェコスロヴァキアに軍事介入した「チェコ事件」への抗議を込めて書かれたものです。 恥ずかしながら、私にとっては縁遠いジャンルの音楽なので敬遠していましたが、限りある人生、未知の領域の音楽への窓を自ら閉ざしてしまうのはもったいないと思いたち…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.38]
■2016年9月付 ~ダンディズムに酔う ~ 福間洸太朗「モルダウ~水に寄せて歌う」~
福間洸太朗の目下の最新盤、「モルダウ~水に寄せて歌う」。アルバム冒頭、福間自身によるピアノ編曲版、スメタナの「モルダウ」の力強いコーダに続いて、私の耳に飛び込んできたのは、打って変わって、そよ風のように爽やかな音楽でした。のびやかで人なつっこい旋律が、アルペジオの伴奏に乗ってサラサラと流れていく。ハ長調のハーモニーは刻々と移ろって淡く彩られ、音の景色も少しずつ変わっていく。強弱やテンポが揺らぎ、高揚と鎮静を繰り返しながら、憧れに満ちた思いが胸いっぱいに広がっていく。「青春」などという言葉を当てはめてみたくなる、はにかんだような初々しいロマンに満ちた音楽。何と美しい曲だろう!と…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.37]
■2016年8月付 ~ひとときの涼を求めて ~ イタリア合奏団、寺神戸亮、クリヴィヌ、自然音シリーズ~
暦の上では立秋をとうに過ぎたというのに、毎日、暑い日が続きます。皆様、いかがお過ごしでしょうか。 今月は、残暑お見舞いということで、ひとときの「涼」を与えてくれる音盤をいくつかご紹介したいと思います。涼しい音楽と言っても、それはあくまで私個人の感想に過ぎませんし、音楽なんか聴かなくても、エアコンや扇風機、冷却グッズ、稲川淳二の怪談、ビヤガーデンがあるじゃないかと言われてしまえばそれまでですが、暫しおつきあいのほどお願いします…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.36]
■2016年7月付 ~アファナシエフの技法 ~ モーツァルト/ピアノ協奏曲第9、27番 アファナシエフ(P)円光寺雅彦指揮読売日響~
尺八音楽の世界には「一音成仏」という言葉があります。「たった一つの音でも、徹すれば仏に通じる」という意味ですが、作曲家の武満徹は「ひとつの音の中に宇宙の様相を見きわめるというような音の在り方」と捉え、仏教とはあまり関係なく、日本人の音に対する感受性を表現していると書いています。 例えば、ヴァレリー・アファナシエフのピアノ演奏から、そんなふうに森羅万象すべてを包含してしまうような「一音成仏」の音が…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.35]
■2016年6月付 ~オルゴールは止まらない ~ 冨田勲/イーハトーヴ交響曲 大友直人指揮日本フィルほか~
冨田勲の「イーハトーヴ交響曲」の第5楽章「銀河鉄道の夜」の中盤、こんな歌詞の賛美歌が歌われます。
いつなのか わかりませんが 主はわたしに いわれるでしょう もうよい おまえのつとめはおわった その地をはなれて ここにおいで どこなのか わかりませんが とわに平和に くらしましょう 御神とともに いつかどこかに
この5月、冨田さんは「その地をはなれて ここにおいで」という主の呼びかけに応えられたのでしょうか…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.34]
■2016年5月付 ~敷居は低く 思いは高く ~ プラハ室内管弦楽団「プラハの夕暮れ」~
随分前のことになりますが、自分の好きな曲をレコードからカセットテープにダビングして、「マイベスト」的な小品集を作るのに熱中していた時期があります。愛聴していた小品をレコードを交換せず続けて聴けるようにしたいと始めたのですが、やってみるとそのプロセスが面白くてハマッてしまったのです。まず、46分や60分のテープの両面に収まるように曲と演奏を厳選する。雰囲気が単調にならないようストーリー的な流れを作りながら、全体の構成を組み立てて曲順を決める…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.33]
■2016年3月付 ~惚れたものの強み ~ ショパン/ピアノ協奏曲第1、2番 仲道郁代(P) 有田正広指揮クラシカル・プレイヤーズ東京~
今月は、仲道郁代のピアノと、有田正広指揮クラシカル・プレイヤーズ東京(CPT)によるショパンのピアノ協奏曲第1番と第2番が収められたアルバムについて書きます。 2010年8月に東京芸術劇場でセッションを組んで録音され、同年12月の発売以来、評論家からもファンからも高く評価されている名盤。優秀録音としても知られ、今はSACDのシングルレイヤー盤、ハイレゾ音源としても発売されています。 リリース後5年も経ち、既に広く知られた音盤を…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.32]
■2016年2月付 ~父性と母性の黄金比 ~ ブルックナー/交響曲第0番 スクロヴァチェフスキ指揮読売日響~
指揮者の仕事とは何でしょうか。 指揮する曲のスコアを読んで音楽の明確なイメージを持ち、それを手や体の動き、あるいは言葉や顔の表情を使ってオーケストラに伝え具体的な音にする。本番では、自分とオーケストラの両方をリアルタイムで臨機応変に制御して最良の結果を引き出す。少し考えただけでも超人的な質と量の仕事をこなさねばならないことが分かります。知力・体力・時の運、すべてが必要。 では、それらの仕事のうち一番重要なものは何かというと、「指揮台に立つ」ことではないでしょうか。指揮台なしで指揮をする人もいますし…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.31]
■2016年1月付 ~「聴くオペラ」の復権 ~プッチーニ/歌劇「トゥーランドット」 バッティストーニ指揮東京フィルほか~
オペラを聴くのが好きです。 オペラは総合芸術、観ることの重要性を知らない訳ではありませんが、今ほど舞台上演に触れる機会が豊富でなかった頃にレコードやFM放送を通じてオペラの魅力を知り、オペラは聴くものという意識が身についてしまったせいか、今もオペラを聴くことに格別の喜びを感じます。 限界は自覚しています。視覚情報なしにオペラを聴いていると音楽に浸りきってしまうので、たとえあらすじが荒唐無稽であっても、登場人物のキャラクターや言動が共感を抱きにくいものであっても、それらを無批判に受け容れてしまうのです…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.30]
■2015年12月付 ~そこに哀愁があるから ~ 荘村&福田"Duo"、朴葵姫「フェイバリット・セレクション」、濱口祐自"Going Home"~
山口百恵の「秋桜」の歌詞そのままのような、小春日和の穏やかな、とある日曜の午後のこと。自宅の居間でCDを聴いていたら、家族の熱い視線を感じました。 そうか、私もようやく家族から尊敬を得られる存在になれたのかと喜んだのも束の間。彼女らは、高校生の長女が紙に書いているものと私を見比べ、何やらニヤニヤと笑みを浮かべているではないですか。「君たちは一体何をしておるのだね?」とヘッドフォンを外し、サラサラと紙の上をすべる鉛筆の先をのぞきこむと、そこには、一見して私がモデルと分かる似顔絵がありました。 髪はボサボサ、無精髭は延び放題のむさ苦しいおっさんの絵…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.29]
■2015年10月付 ~夏休みの宿題 ~ 美空ひばり「一本の鉛筆」、石川セリ「死んだ男の残したものは」~
戦後70年を迎えた今年(2015年)の夏、巷ではたくさんの言葉が飛び交いました。集団的自衛権、憲法、立憲主義、民主主義、デモ、そして戦争。 毎日のように耳に飛び込んでくる言葉たちに向き合っているうち、多くの人たちが同じことを口にしているのに気づきました。戦争を望んでいる人なんていない どんなに主張や立場が異なる人たちも、異口同音にそう言います。もっとも、その言葉の次に続く接続詞が「だから」なのか「だけど」なのかでまったく議論が噛み合わなくなってしまうのですが、ともかく、単刀直入に言えば、「戦争はいやだ」と誰もが思っているのは間違いありません…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.28]
■2015年9月付 ~突破力のピアニスト ~反田恭平「リスト」~
反田恭平というピアニストの最大の魅力は何かと問われたら、私はその「突破力」にあると答えます。 「突破力」とは、困難を乗り越えて目的を達する力のことですが、サッカーの世界でもよく使われます。巧妙なドリブルやパスで敵の守備をくぐり抜けシュートする能力、というような意味でしょうか。私は、反田というピアニストには、例えばスーパースターと称されるエースストライカーだけが持っている強烈な「突破力」があると思うのです。 それは、彼が子供の頃、サッカー少年だったという情報から生まれてきた連想では…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.27]
■2015年8月付 ~泣きたくなったときは 音盤を聴く ~ 加藤知子「朝の歌~エルガー/ヴァイオリン曲集」~
ある日の仕事帰り、職場の最寄駅につながる連絡橋のたもとに、一人の女性が立っていました。スマホを見ているのかと思いましたが、どうやらそうではないらしい。時折目のあたりを手で拭きながら、橋の下の絶え間ない車の流れをじっと見つめているようでした。 既に夜9時を回っていましたが、眠らない街の駅は、まだ宵の口とばかり、うつむき加減に黙々と家路を急ぐ人たちや、次の呑み屋へ繰り出そうと気勢を上げる人たちでごった返していました。少し脇にそれた目立たない場所ではありましたが、賑やかな場所で人目を憚らずにさめざめと泣いていた女性は、一体何があったんでしょうか?…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.26]
■2015年6月付 ~ただ憧れを知る者だけが ~モーツァルト/クラリネット五重奏曲 プリンツ(cl)ウィーン室内楽合奏団~
アルフレート・プリンツとウィーン室内合奏団によるモーツァルトのクラリネット五重奏曲のディスクを聴いていて、ふと口をついて出た言葉は「ああ、なつかしい」でした。この曲の代表盤の一つとして親しまれてきた1979年録音の名盤(原盤は独オイロディスク)を聴いたのは、それが初めてのことでした。昨年、惜しくもプリンツが亡くなったと知って彼の演奏を改めてじっくり聴いてみたくなり、モーツァルトとブラームスの同じ編成の2曲がカップリングされた音盤を購入したのです。ウィーン・フィルの首席クラリネット奏者を長年務めた名手プリンツと…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.25]
■2015年5月付 ~魂の歌 ~ 「スマイル-母を想う」/幸田浩子(ソプラノ)~
幸田浩子さんの新盤「スマイル-母を想う」を今月の「音盤中毒」で取り上げようと、自分なりの考えをまとめた段階で、いくつか確認したいことがあったのでライナーノートに改めて目を通していたら、幸田さんの親友で、フリーアナウンサー、エッセイストとして活躍する住吉美紀さんの文章が目に留まりました。彼女は、職業を超え、人生の不条理や人間の強さ弱さに悩み、葛藤し、それでも前向きに日々を歩もうとする、ひとりの女性だ…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.24]
■2015年4月付 ~音楽と出会うということ ~ 「アビイ・ロード・ソナタ」1966カルテット~
最近、ビートルズにハマッています。 いや、これまでもビートルズの音楽は好きだったのです。愛聴する曲もいくつもあります。でも、音盤はベスト盤を1枚持っているだけで、彼らのオリジナルアルバムを集めたり、現役メンバーのファンになったりというようにビートルズにのめり込むところまでは行っていませんでした。 そんな私が、わざわざ「ハマる」というほどにビートルズの音楽に魅せられるようになったきっかけは、ある日、1966カルテットの目下の最新盤「アビイ・ロード・ソナタ」を聴いていて、これはビートルズの「アビイ・ロード」を何としても聴かなければならない!と…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.23]
■2015年3月付 ~座右の響(きょう) ~ ウェーベルン/弦楽四重奏のための緩徐楽章(Langsamer Satz) カルミナ四重奏団~
コロムビアのHPを見ていたら、「デビュー」に関連する話題が二つ掲載されていました。一つは、既に活躍が注目を浴びているピアニスト反田恭平のデビュー盤発売の告知、もう一つは、クラシカル・クロスオーバーの新人オーディション募集開始のお知らせ。 反田恭平については、ピアノレンタルや調律、アーティストマネジメントなどの事業をおこなっているタカギクラヴィアの社長である高木裕氏が、彼のことを絶賛していたので聴いてみたいと思っていたところでしたから、7月に発売されるというデビュー盤と、同時期のバッティストーニ指揮東京フィルとの共演(ラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」)が俄然楽しみになってきました…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.22]
■2015年2月付 ~虹色の音 ~ イタリア・オペラ管弦楽・合唱名曲集~
昨年、レスピーギの「ローマ三部作」で鮮烈なCDデビューを果たし、第二作のマーラーの「巨人」と併せて評論家からもファンからも大絶賛を浴びた、イタリアの若手指揮者アンドレア・バッティストーニの通算3作目となるアルバムが発売されました。 今回は、彼が首席客演指揮者を務めるイタリアのジェノヴァにあるカルロ・フェリーチェ歌劇場の座付のオーケストラとコーラスを指揮してのイタリア・オペラの管弦楽・合唱名曲集。ヴェルディ、ロッシーニ、プッチーニ、マスカーニらの代表的な歌劇の序曲・前奏曲や間奏曲、バレエ音楽、そして合唱曲が計10トラック、アリアや重唱のナンバー以外のあらゆるスタイルの名曲がたっぷり70分収録されたもので、いわばイタリア・オペラの「特上盛り合わせ」的なアルバムと言って良いでしょうか…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.21]
■2015年1月付 ~「人」を聴く喜び ~ イリーナ・メジューエワのグリーグとメンデルスゾーン~
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。 先月の本欄で、最近「レコード芸術」誌に日本コロムビアの広告が掲載されないケースがあると書きましたが、最新の2015年1月には広告が出ていました。今月は、川瀬賢太郎指揮東京佼成ウィンドオーケストラの演奏するマーラーの「巨人」(吹奏楽版)、もうすぐ発売されるバッティストーニ指揮のイタリアオペラ管弦楽曲集と並び、コロムビアのおなじみの廉価盤シリーズ「クレスト1000」に追加された15点が紹介されています。 かつて一世を風靡した名盤や、高く評価されながらも諸々の事情で廃盤になってしまっていた「幻の名盤」が…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.20]
■2014年12月付 ~「それから」と「これから」~最近の新譜から(吉松、福間、スクロヴァチェフスキ)~
早いものでもう12月。あっという間に2014年も終わりです。 この時期になると毎年同じことを思うのですが、今年もいろいろなことがありました。 消費税、集団的自衛権、解散総選挙。STAP細胞。号泣議員。噴火や土砂災害。民族紛争。エボラ出血熱、デング熱。青色LED、私はマララ。オリンピックとW杯。ありのままに。 そして、あのこと。 もうずっと前のことのように思えてしまいますが、あれは今年の2月のことでした。と言っても、私は今ここで、「あのこと」について書くつもりはありません。コロムビアの「それから」について書きたいと思います…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.19]
■2014年11月付 ~教室とコンサートホールをつなぐもの ~「あの日教室で歌った 思い出の合唱曲」~
ある日、CDショップで、何気なく、ふと手にした音盤。ジャケットのイラストは、夕陽の射し込む、誰もいなくなった放課後の教室。黒板には「合唱コン ぜったい優勝!!朝レン来ること!」の文字と、その左下に相合傘の落書き。オビにはこんなコピーが。“みんなで、放課後の教室で練習したね。いつも指揮者だったボク、ピアノ伴奏だった私。男子が歌ってくれなくて、女子はいつもしかめっ面。まとまらなくて大変だったけど、最後はみんな頑張ったよね!…誰の心にもある、懐かしい青春の1ページ。”苦笑しつつ、ぽっと頬を赤らめずにいられないポエムチックな言葉に…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.18]
■2014年10月付 ~サウダーヂの正体~
朴葵姫(パク・キュヒ)のニューアルバム「サウダーヂ」が発売されました。発売以来、上々の売れ行きとのこと、既にお聴きになった方も多いのではないでしょうか。そして、聴く人それぞれの方法で、この魅力的なアルバムを楽しんでおられることと思います。
私にとってはまさに待望のアルバムでした。偏愛してやまないエグベルト・ジスモンチの「水とワイン」が収録されることが予告されていたからです。 「水とワイン」は、時折ピアノで…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.17]
■2014年9月付 ~本職は、人間。-濱口祐自「フロム・カツウラ」-~
濱口祐自というミュージシャンをご存知でしょうか? 6月にコロムビアからメジャー・デビューとなるアルバム「フロム・カツウラ」が発売された新人ギタリストなのですが、ピーター・バラカンや細野晴臣といった人たちが彼の音楽を絶賛していることもあってメディアで取り上げられる機会が多く、ライヴ活動も活発に展開しています。かく言う私も音楽雑誌で彼の記事を読んで俄然興味を持ち、CDを購入して早速聴いてみたのですが、これがとても良かった。世間一般に濱口はブルースギタリストと呼ばれていますし、「フロム・カツウラ」はコロムビアのHPではジャズ/フュージョンの…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.16]
■2014年8月付 ~楽しいクラス替え ~「原子心母の危機」モルゴーア・クァルテット ~
モルゴーア・クァルテットのプログレッシブ・ロックのカバーアルバム第2弾、「原子心母の危機」のディスクをプレーヤーのトレイに載せた時の私の心持ちは、クラス替えを翌日に控えた小学生のそれに近いものがありました。 明日から通う新しいクラスの名簿を見ると、名前と顔くらいは知っているけれど、まだ一度も同じクラスになったことのない子がいる。彼はとても早熟で頭が良く、いつも難しいことを言ったり突飛な行動をして周囲を驚かせることが多く、みんなから「プログレ君」と呼ばれて一目置かれている。私は、これまで接点のなかったプログレ君と仲良くなれるといいなという期待に胸を膨らませる一方で…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.15]
■2014年7月付 ~私の好きな歌 ~ さとうきび畑 鮫島有美子(ソプラノ)~
時の経つのは早いもので、本連載を開始してから1年余りが経ちました。読者の皆様のご愛顧に、心より御礼申し上げます。
ところで、私はここで一体「何」を書いているのでしょうか?タイトルに「ディスク案内」を謳っているのでコロムビアのディスクの紹介をしているのは間違いないのですが、「評論」ではなく「読みもの」であるのは自明として、「コラム」と「エッセイ」のどちらなのでしょうか?コラムニストの小田嶋隆氏の定義に従えば、前者が、対象に対していろいろな距離をとって職人的に文章を書ける人の手によるもの…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.14]
■2014年6月付 ~あの頃の未来 ~ マーラー/交響曲第1番「巨人」 バッティストーニ指揮 東京フィル~
コロムビアの新譜、アンドレア・バッティストーニ指揮東京フィルハーモニー交響楽団の演奏するマーラーの交響曲第1番「巨人」のディスクを聴きながら、私の脳裡を駆け巡っていたのは、かつての大ヒット曲の歌詞に出てくる「あの頃の未来」という言葉でした。
ここで、マーラーが「巨人」を作曲していた当時のことを「あの頃」と呼ぶとすれば、彼の死後100年以上が経った21世紀を生きる私たちは、マーラーにとっての「あの頃の未来」についてよく知っています。しかし、当然ながら…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.13]
■2014年5月付 ~星に願いを ~ スメタナ/連作交響詩「わが祖国」 ノイマン指揮 チェコ・フィル~
あなたが最初に聴いたコロムビアのディスクは何ですか? そんなアンケートをしたら、きっと面白い集計結果になるでしょう。世代や男女によって多彩なディスクが挙げられるはずですが、私の世代なら、ゴダイゴや榊原郁恵、河合奈保子、あるいは仮面ライダーの主題歌などを歌っていた子門真人が多いでしょうか。クラシックだと、70~80年代に人気のあったチェコや旧東独の演奏家たちのディスクが強いのではないかと予想します。 私の場合も…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.12]
■2014年4月付 ~おいしいお米、ごちそうさん 伊福部昭/プロメテの火 広上淳一指揮 東京交響楽団~
今年、生誕100周年を迎える伊福部昭は、私にとっては「近くて遠い」作曲家でした。 どうして近いかというと、私の先祖代々の墓が、伊福部が学長をつとめていた東京音楽大学の隣の墓地にあり、また、私の大学時代の下宿が伊福部の自宅のすぐ近くだったので、もしかしたら私はどこかで伊福部とすれ違っていたかもしれないからです。しかし、なぜか私はこれまで伊福部の音楽をちゃんと聴いて来ませんでした。「ゴジラ」の音楽を書いた人、日本古来の土俗的な音楽を取り入れた作品を残した人、芥川也寸志や黛敏郎の先生、そして一部熱狂的なファンがいる、というくらい程度の認識。だから…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.11]
■2014年3月付 ~リッチの逆襲 バッティストーニ指揮 東京フィル~レスピーギ/ローマ三部作~
少し前のことですが、発泡酒のテレビCMで「リッチ」という言葉が使われていました。バブル崩壊後の長い不況とデフレ経済の時代を通して、リッチなんていう言葉は聞かなくなって久しく、ほとんど死語かと思っていたのでとても新鮮に響きました。デフレ時代の申し子のような発泡酒にもリッチを売りにした商品が出るということは、もしやこれは景気が上向いていることの表れなのかと、ほとんど実感はないながらも、ちょっと気持ちが浮き立ったりしました。そんな「リッチ復権」ともいうべき気運にぴったりのディスクを聴きました。コロムビアからリリースされたイタリアの…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.10]
■2014年2月付 ~私の人生を変えた一枚 マーラー交響曲全集~インバル、フランクフルト放響~
「私の人生を変えた一枚」なんていうと大袈裟かもしれませんが、そう呼びたくなるくらいに思い入れの強いディスクは誰にでもあるのではないでしょうか。音楽との出会いとなった一枚、自分の意志で初めて買った(買ってもらった)一枚、あるいは何か特別な個人的な思い出の詰まった一枚など思い入れの種類にはいろいろあるでしょうが、もしこれを聴かなかったら別の人生を歩んでいたかもしれないと思わずにいられないもの。音楽を聴く醍醐味はナマにこそあるという考え方も理解しつつ、音盤に触れて豊かな時間を過ごし、時に「人生が変わる」くらいの体験を得られるからこそ、私たちファンはせっせと音盤を買い続けて…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.09]
■2014年1月付 ~空(くう)のショパン~「バラードの音魂(おとだま)を求めて -ショパン作品集- 」福間洸太朗(P)~
あけましておめでとうございます。昨年5月より連載を開始した「音盤中毒患者のディスク案内」ですが、おかげさまで無事(?)年を越すことができました。本年は、昨年よりは内容のある文章をお届けできるように精一杯努力致しますので、おつきあいのほど何卒よろしくお願いします。さて、2014年最初のディスク案内として、昨年11月発売の、ピアニスト福間洸太朗のコロムビア移籍第二弾となるショパンの作品集を取り上げます。2013年3月に岩舟町文化会館でのセッション録音で…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.08]
■2013年12月付 ~上岡敏之指揮ヴッパルタール響ほか ベートーヴェン/交響曲第9番~
早いもので12月になりました。ベートーヴェンの「第9」のシーズン到来。今年も今月だけで全国津々浦々の会場で180回近く(筆者がフリーペーパーで調べた結果)「第九」が鳴り響きます。 私はと言えば、もう既に11月から「第9」シーズンに突入しています。さすがに180回も聴いてはいませんが、ほぼ毎晩のように「第9」を聴き、通勤電車の中で「第9」に関する書籍を読み、歩いている間も「第9」を脳内再生という状況で、今、私の血液検査をすれば、「第9」の血中濃度が高くて要検査となることでしょう…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.07]
■2013年11月付 ~音楽の人格 ~『ロマンティック・メロディーズ』高嶋ちさ子(Vn)~
音楽に人格があると言ったら笑われるでしょうか。そもそも音とは空気の振動でしかないのですから、音がいくら集まったところで何かを考えたり行動したりする主体にはなり得ず、音楽が人格を持つはずはありませんが、人格があるかのように見なすことはできる。音楽を人格化する、つまり「仮に意志のある人間と見なす(新明解国語辞典)」ということ。 考えてみると、私が音楽を聴く時には、いつもその人格化を無意識のうちにやっています。聴こえてくる音楽自体を人間に見立て…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.06]
■2013年10月付 ~インテルメッツォ(間奏曲) ~ライナーノート雑感~
来年(2014年)の消費税率引き上げが正式に決まりました。きっと音楽ソフトの値段も上がるのでしょう。コロムビアの新譜CDの値段は通常税抜き2,800円、税込2,940円ですから、増税後も本体価格が同じだとすると、税込価格は3,024円、最終的に税率が10%になれば3,080円という計算。CD一枚3,000円は高いか安いか。私の感覚では、海外メジャーレーベルの新譜CDの輸入盤の価格…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.05]
■2013年9月付 ~私に似合う音楽 -田部京子CDデビュー20周年に思う-~
私はピアニストの田部京子のファンです。コロムビアからCDデビューした翌年(1994年)に発表されたシューベルトのピアノ・ソナタ第21番を聴いて深い感銘を受けてからのことですから、ファン歴はほぼ20年となります。・・・と書いたところで、ふと手が止まってしまいました。私が田部京子のファンだと書きましたが、一体何をもってファンだと言えるのか、考えているうちにだんだん分からなくなってしまったからです。確かに私は彼女がリリースしてきたCDは全部…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.04]
■2013年8月付 ~クール・ジャパンの原風景 『ふるさと~日本のうた~』 幸田浩子~
「日本人の心の原風景を映す懐かしいあの歌、この歌」 幸田浩子さんの6枚目のニュー・アルバム『ふるさと~日本のうた~』のオビには、こんな宣伝文句が書かれています。 なるほど、御意です。確かに、幸田さんの歌う19曲の日本のうたを聴いて、「私の心の原風景」を見た気がします。 「私の心の原風景」とは何かというと、実は、歌そのものとは関係のないものです。なぜなら、私は、山で兎を追ったことも、川で小鮒を釣ったこともないし、ペチカも見たことはないし、「姐や」なんて呼ぶ人はいないし、私の周囲では15で嫁には行けない。せいぜい白黒の映像で見る昔の日本の風景くらいの距離感で…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.03]
■2013年7月付 ~15秒の鮮烈 ~ 日下紗矢子『リターン・トゥ・バッハ』~
新人の作品には一言半句の鮮烈があればよい。(芥川賞 ~ 「風に訊け」開高健 集英社)
これは、1980年代に某週刊誌で開高健氏が担当していた読者対象の人生相談(ライフ・スタイル・アドバイス)のコーナー「風に訊け」で、読者からの「芥川賞の選考委員の中であなたの選評が一番厳しい。あなたが満点を与える基準は何か?」という質問に答えて述べた開高氏の回答の一部です。氏は、新人の作品には満点など…
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[音盤中毒患者のディスク案内 No.01]
■2013年5月付 ~歌が結ぶ点と線 ~ 朴葵姫『スペインの旅』~
不覚でした。こんなに素晴らしいアルバムが既に半年前に出ていたのに聴かずにいたなんて。最終的に聴くことができたのだからそれでいいかという気もしますが、これまでこのアルバムを聴かずにいた時間がもったいないとさえ思える。あの時、このアルバムが自分の傍にあれば、立ち直りも早かっただろうにと悔しく思えたりもする。何を大袈裟なと言われるかもしれませんが、日々、音盤を聴いて活力を取り戻すことの多い私にはよくあること。私は昨年(2012年8月)に発売された…
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粟野光一(あわの・こういち) プロフィール
1967年神戸生まれ。妻、娘二人と横浜在住。メーカー勤務の組み込み系ソフトウェア技術者。8歳からクラシック音楽を聴き始めて今日に至るも、万年初心者を自認。ピアノとチェロを少し弾くが、最近は聴く専門。CDショップ、演奏会、本屋、映画館が憩いの場で、聴いた音楽などの感想をブログに書く。ここ数年はシューベルトの音楽にハマっていて、「ひとりシューベルティアーデ」を楽しんでいる。音楽のストライクゾーンをユルユルと広げていくこと、音楽を聴いた自分の状態を言葉にするのが楽しい。
http://nailsweet.jugem.jp/